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ZEXアドベント  作者: ケン
第2章

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第二十三話

「ここが日本か」


 空港に降り立った一人の男性はボソッと呟くとキャリケースを転がしながら出口へと向かい始めるがふと立ち止まり、設置されている大型モニターへと視線を向ける。

 そこには平民でありながらZEXを動かした少年の特集が組まれているがその内容はあまりにもZ族の悪い部分を凝縮したものだった。


『彼は平民でありながらZEXを動かしたわけですけれども』

『これは由々しき事態ですな。今まではZ族の特権でもあったZEX操縦を平民がしたわけですからまさに権利侵害とも言えますな。今まで同様、Z族が世界の平和を守り、平民はZ族の手足となって働いてもらわないと。世界の構造が崩れかねますな』

『ZEX学園は保護も兼ねて入学させたようですがそれにはいかがお考えですか?』

『研究対象として学園が飼いならすのであればまだ分かりますが生徒として入学させるのは理解が出来ませんな。平民にZEX教育を受けさせて何になるというんですか?』

『では先生は神原秋冬君の入学は認めていないと』

『私だけではありませんよ。知り合いの何人もが彼の入学に反対しているわけですから』


 まだまだ偉そうな学者の話は続きそうだったが男性はつまらなさそうに鼻で笑いながら再び歩き始め、出口を出ると彼の前に一台の高級車が停車する。

 運転席から降りた初老の男性は深々と頭を下げる。


「ようこそおいでなさいました……セグルド・グレイシア様」


 しかし、男性は初老の男性の話など聞く間もなく男性にキャリーケースを渡し、ドアの前に立つ。

 初老の男性は慣れた手つきで扉を開け、男性を車内へと案内した後、トランクへとキャリーケースを丁寧に置くと再び運転席へと戻る。


「此度は日本への長旅、お疲れさまでした」

「別に疲れてなんていないさ……あの子の苦しみに比べたらこんなもの屁でもない」

「まずはどちらに行かれますか?」

「まずは黒鉄技研からだ」

「畏まりました」


 そう言いながら男性は静かに車を発進させた。


――――――☆――――――

 ZEX学園は人類の敵であるゼータと戦うためのZEX操縦者を育成する教育機関であり、その特殊な立ち位置から教育内容は他の教育機関と全く持って違う。

 ZEX教育が入っているのはもちろん一般教科である国語や数学、英語、理科などの授業スピードや内容などは意味不明の極致だ。

 だけどまだ一般教科であればなんとかなる―――問題はZEX学習だ。


「背部と脚部に搭載されたプラズマスラスターが、空気を電離して推進力を生み出す。これにより、通常のジェット機のような燃料消費をせずとも、安定した浮力を得られるのだ。」


 ホワイトボードに映し出される電子教材の内容を何とかしてノートに書きまとめていく―――しかしそんなことをしているのは俺くらいなもので周りの奴らは聞くに徹している。

 Z族は義務教育内でカリキュラムが組まれているから四月当初の学園の授業など復習の範囲なんだろうが俺からすれば全くの新しい知識だ。

 しかも分かっている前提で進んでいくのでもう何もかもが間に合っていない。


「だが推進力だけでは人間は空を飛べない。そこで重要なのが慣性制御ユニットだ。これは高精度ジャイロと重力制御装置、そして姿勢制御装置(バランス・リアクター)を組み合わせ、飛行中の姿勢を自動で補正する。だからこそ、君たちは空中で静止したり、急旋回したりできる」


 ちらっと隣の子を見て見るがふんふんと納得しているかのように小さく頷きながら先生の説明を集中して聞いている。

 逆方向を見ると先生の説明など話半分に分厚い参考書を読み進めながら内職をしている男子。

 先生もどうやらそれを黙認しているらしく特に注意したりはしていない。


「しかし、これほどの技術の結晶があったとしても君たちの基礎体力が不足しているようではZEXをまともに使うことは出来ない。ハッキリ言えば君たちの体力レベルはまだまだZEXを操縦するにふさわしいレベルには達していない。これからの授業でしっかりと鍛えるように」


 先生の最後のセリフと同時に授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。

 先ほどまで静かだった教室が一気に騒がしくなり、教室のあちこちに友人グループが出来上がるが俺の周りには綺麗に誰もいない。


「……し、死ねる」

「Why are you saying something so scary?」


 直後、一気に教室が静けさに包まれ、全員の視線が俺に注がれる。

 それもそうだろう―――専用機体を学年で唯一与えられているあのウィルミナ・グレイシアが平民である俺に話しかけているんだから。

 グレイシアはどうでもよさそうだが俺からすれば不安でしかない。

 というかさっき彼女は何と言ったんだろうか。


「あー……Yes?」

「……World Link」

「や、やーやー。World Linkね。World Link……World Link……」


 ジャケットのポケットをごそごそ、胸ポケットをごそごそ、手提げかばんの中をごそごそ、最終的にズボンのポケットをごそごそと探してみるがWorld Linkがどこにも見当たらない。

 とりあえず笑顔を浮かべながらスマホを取り出して翻訳アプリを起動させ、もう一回とジェスチャーをすると盛大に大きくて深いため息をつかれてしまった。


「I see why I can't follow the lesson」

「えっと……授業がついていけない理由が分かったわ……む、難しすぎるんだよ。学園の授業が」

「This is just common sense, isn’t it?」

「こんなの常識の範囲内よ……う、うそん」


 ちなみに今日は座学の授業しかない地獄の日なので少なくともあと二時間はこの地獄を味わないといけないのは絶望でしかない。


「あ、グレイシア。昼ご飯はどうするんだ?」

「……」


 こいつ何もわかってねえな、と言わんばかりの表情で俺を見つめてくるグレイシア。

 時間を勘違いしているのかと思い、確認してみるが時刻は十二時四十分を示しているのでお昼休みの時間帯なのであっているはずだ。

 そんなことを考えていた時、ふと教室の連中がずっと友人と話し続けているのに気付いた。


「なんでみんな、食堂に行かないんだ?」

「You’ve got a health checkup later today that will take two hours, right?」

「今日は健康診断……あ、そうか。今日健康診断か」


 グレイシアに言われてようやく思い出した。

 今日は午後の二時間を利用して健康診断が実施される日。

 ZEX学園の健康診断は通常の健康診断に加えてZEXを使用しながら診断する内容も存在しており、そこでは連続稼働時間の計測や体力の数値化をはじめ、操縦適性なども計測するという。


「というか二時間も健康診断にかけるんだな」

「The medical checkup will be over quickly. What really takes time is calculating piloting aptitude—after all, the entire grade will be taking part in the mock battle」

「……模擬戦か」


 ゼータとの戦闘は二回ほど経験があるが対人戦の経験は一切ない。

 戦い方などは対して差はないだろうけど実際にやってみないと分からないものだってある。


「というか操縦適性って何か役に立つのか?」


 そう言うとグレイシアはため息をつき、俺のタブレットを手に取ると慣れた手つきで画面に指を走らせていき、少しすると画面を俺に見せてきた。

 そこにはZEX知識の入門書が表示されており、ちょうど操縦適性のページが開かれていた。


「操縦適性が高いほどZEXとの親和性が上がり、反応速度や能力の進化が見られます。特に専用機体にもなると操縦適性A以上が最低条件となっています……へぇ。じゃあグレイシアは適性Aなのか」


 そう言うとグレイシアはもちろんと言いたそうな表情を浮かべ、こちらを見てくる。

 専用機体には龍能(ドラゴニクス)という超常的な力が備わっている以上、適性が低い奴が使えば暴走する危険性もあるんだろう。


「Hey, don’t forget to add World Link」

「はははっ……ソーリーソーリー」


 イヤホンを常に装着し続けるという習慣がない俺にとっては中々、習慣化するのは難しいことなのでおそらくあと一か月はかかるだろう。

 そんなことを考えていると始業のチャイムが鳴り響き、全員が自席へと戻っていく。

 その数秒後には赤坂先生と姉ちゃんが入室してくる。


「全員揃ってますね~。ではただいまより健康診断の説明をしますね~」


 赤坂先生がタブレットの画面をタッチするとプロジェクターと接続されてホワイトボードにこの後のスケジュールが表示される。

 グレイシアの言うように健康診断は三十分ほどで終了するみたいだけどその後に続いている模擬戦が偉く時間がかかる予定らしい。

 というか終了予定時刻がいつもの終礼から一時間ほど遅いのが気になる。


「本日は健康診断とZEX適性の測定日となる。目的は現時点のスタートラインの把握だ。四月当初の数値などいくらでも変貌する。よって今日の数値で上も下も決めるな」

「副代表の決定は今日から一か月間の適性上昇値で決めたいと思いますので皆さん、今日から一か月間しっかりと頑張ってくださいね~」


 赤坂先生の言葉にほかの連中は並々ならぬやる気をみなぎらせる。

 ZEX学園でどれだけ成果を上げられるかによって今後の自分の生きる道が決まると言っても過言ではないほど外部組織から観察されている。

 学園でクラス代表や副代表などの役職に就ければその分、評価は上がるし、各学校行事での成績もすべて将来に直結する。

 俺がやるべきことは努力を継続しつつ、上でも下でもない中位の成績を維持すること。

 グレイシアは副代表候補に推薦してくれたけど整備科に転科する際に役職付きは逆に邪魔になるだろうし、かといって低成績では転科も危うくなってしまう。

 実技面はともかく座学面ではしっかりと成績を取らなければ全てが台無しになってしまう。


「ではただいまから更衣をしてもらいますので女子の皆さんは女子更衣室で行為を済ませて第一アリーナに集合してください~。男子生徒は教室で更衣をお願いしますね~」

「神原」


 更衣を始めようとしたその時、姉ちゃんに呼ばれ、顔を上げるが全員の視線までもが俺たちに集中してしまい、妙な気分になる。


「な、なんでしょう」

「お前の健康診断は私が実施する。更衣を済ました後、保健室へ来るように」

「あ、はい」


 そう言い残して姉ちゃんは赤坂先生と一緒に教室を出ていく。

 Z族のやっかみから守るという側面もあるんだろうけど昔から健康診断などは姉ちゃんが身長や体重などを測って学校に提出していた。

 最初は他と違うことに違和感を抱いていたけど今となっては当たり前のことになってしまった。


「んじゃ、行きますか」


 ささっと更衣を済ませた俺は他の連中との関りを避けるためにいの一番に教室を出て保健室へと向かって歩き始める。

 今のところは連中のちょっかいは表立ってはなく、裏ではちょこちょことあるけどこれがいつ表立って行われるようになるか分からない。


「とりあえず今日は今日を頑張……」


 その時、廊下の端の方に見覚えのあるぬいぐるみを見つけた俺は思わず立ち止まってそのぬいぐるみへと近づいていく。


「このぬいぐるみ……博士の」

『やあやあ』

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