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ZEXアドベント  作者: ケン
第1章

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第二十話

「ふむふむ……ふふふ」


 誰も知らない場所にある一室において稀代の大天才である葉山あずさはモニターに映し出される中型住処での戦闘映像を面白そうに眺めていた。

 傍にはまぐたんが置かれており、抱きしめるようにマグカップが置かれている。


「通常起動時はそこそこ……でも超過起動を使うとまるで別人だねぇ」


 もう一枚のモニターにはZEXの数値が記録されており、そのどれもに目を通すあずさだったが常に笑みが顔に浮かんでいる。


「超過兵装も初めてにしてはちゃんと使えたしねぇ……これまでのモルモットとは大違いだ」


 あずさは何度かキーボードを軽く叩くと数値が表示されていた画面が切り替わり、ZEX、そして彼女が超過兵装と呼んだ兵装の設計図のような画像がいくつも表示される。

 それらは今まで彼女が考え、温め続けてきた世界が喉から手が出るほど欲しているもの。

 その設計図の画像たった一枚でも何十億という金が動くのだがあずさからしてみればそんなことは非常にどうでもよかった。


「春夏も会わせてくれればよかったのに……私に会わせたくない理由でもあったのかな?」


 正直、彼女の中には思いつく理由はない。

 春夏には弟が存在しているということは理解はしていたし、名前も知っているし、顔も写真で確認はしているが実際に会うのは初めてだった。


「でも……」


 再び彼女がキーボードを軽く叩くとモニターの映像が切り替わり、中型住処が崩壊した後の秋冬たちの行動が映し出される。

 そこには殲滅隊らしき男性から事情を聴かれている秋冬の姿が映し出されているがその様子に特段不審な点は見られない。

 あずさが気になっている部分の一つだ。


「どうして君はZ因子を持っていないにも関わらずZEXを動かせるんだろうね」


 神原秋冬という人間の情報はあらかた調べ尽くしはしたがZ因子を持っているという情報はどこにも掲載されておらず、どれもがZ因子はもっていないという情報しかなかった。

 ZEXはZ因子を持つ者にしか操縦できない―――それは世界の常識であり、稀代の大天才であるあずさの中でも常識だった。


「ZEXはゼータの亡骸を使用している……Z因子はいわば亡骸にアクセスする鍵のようなもの。ZEXは機械化したゼータ、みたいなものだからね」


 しかし、彼はZ因子という鍵を持つことなくZEXにアクセスし、起動することができ、さらには下龍種を討伐するに至っている。

 稀代の大天才がぶつかった大きな壁だった。

 そしてもう一つ、あずさが気になっていることがあった。


「どうして君は”何もなく”超過起動(オーバードライブ)を使えるんだろうね」


 これまでにもあずさはオーバーエナジーの研究のためにモルモットをいくつも用意し、実験してきたがそのどれもが文字通りに再起不能になってしまった。


「引き続き調査……かな」


――――――☆――――――


「……」


 ZEX学園の教員寮の一室で春夏は送られてきた映像をモニターに再生しながらかじりつくように見ており、時折眉間にしわを寄せる。

 再生されているのはこれまでの秋冬の行動の全て、そして中型住処での戦闘の様子だった。

 それらは全て秋冬の荷物に密かに仕込んであった盗聴器と監視用小型カメラが捉えた映像だった。


「あいつが目を付けた以上、避けられないとは思っていたが……くそ」


 春夏は悔しそうに手を机に叩きつける。

 その衝撃でカップが倒れ、中に入っていた冷め切っているコーヒーが机一面に流れていくがそんなこと気にもせずに春夏は映像を見る。


「あいつもあいつで当てつけのようにこんなものを送りおって」


 もう一つの動画ファイルを開くと再生されるのは第三者視点による中型住処の戦闘映像であり、秋冬が超過起動を駆使して下龍種を葬っていく様子。

 明らかにその動きはZEXを使って間もない素人とは思えない動き―――特に超過起動を使った後の動きの変わりようは別人のようだった。

 この映像を見て稀代の大天才である彼女が勘づくかもしれない―――それが今、春夏が最も恐れていることだった。


「……知られるわけにはいかないんだ……」


 現状、あずさにとって秋冬はオーバーエナジーの研究対象でしかない。

 もちろんその状態も非常に危険だが知られたくない事実に彼女が到達してしまうとどんな行動を起こすか分からない。

 それに加え、今回の一件で秋冬は確実にZEX学園へと戻らされるだろう。

 そうなれば学園にいるZ族たちのことも気にかけないといけなくなる。


「……秋冬。お前は幸せになれ……そのためなら私はどんなことだってやってやる」


 その時、室内にメッセージの着信音が鳴り響く。

 春夏は再生していた映像を全て消し、スマホを確認すると差出人は一組第二担任の千夏。

 春夏は送られてきた長文のメッセージを開き、上からゆっくりと呼んでいくがやがて表情が険しくなり、読み終えたころにはスマホをベッドに放り投げていた。


「地獄に舞い戻すことを憂うべきか……それともあいつが手を出しにくい楽園に迎え入れることを喜ぶべきか……気が休まる時間はないのか、私には」


 そう呟きながら千夏はマウスを操作してデスクトップに常に置いてあるスライドショーを開くと画面いっぱいに最大化され、彼女の心の癒しともいえる写真の数々がゆっくりと再生されていく。

 それは秋冬との思い出の写真の数々―――これらの思い出が今まで春夏の心を支えてきた。


「……計画を修正するとしよう……すべてはお前のためだ。秋冬」


 春夏はスマホを手に取り、画面も見ずに慣れた手つきで指を滑らせていくと一通のメッセージをとある人物へと送信し、部屋を後にした。

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