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ZEXアドベント  作者: ケン
第1章

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第十六話

「ね、ねえ……揺れてない?」


 遮るように隣のお客さんがそう呟くとカタカタ、とテーブルに置かれているカップが震えはじめる。小さな震えだったものがやがて大きな揺れとなり、テーブルを支えにしないと座っていられない。

 直後、爆音が鳴り響き、音がした方向を見ると砂煙が空高く舞い上がっている。


「This is bad」


 彼女の言葉の直後、周囲のお客さんのスマホからゼータ警報のサイレンが鳴り響く。少し遅れて大型街頭ビジョンが切り替わる。


『たった今入ってきたニュースです! 現在、中型住処(ミッドコロニー)が出現したとの情報が舞い込んできました!』


 映し出される緊急速報番組から女性キャスターの緊迫感溢れる言葉が矢継ぎ早に発せられるとともに中型住処の場所が表示される。

 ゼータはどこからともなく現れる訳じゃない。地中深くに住処を形成し、十分な数の下龍種が生まれれば地表に姿を現し、侵攻を始める。

 周囲のお客さんは我先にと避難を開始し、床に商品がこぼれることなど気にも留めず、テーブルを薙ぎ倒しながら走っていく。

 爆音の聞こえ方から推測するに中型住処はここから数キロ圏内の範囲に出現し、下龍種がわんさか飛びしている頃だろう。


「早く逃げないと」


 俺も避難しようとした時、上空からバサバサッ! という翼を羽ばたかせる音が聞こえ、顔をあげてみると大量の下龍種がこちらへ向かっているのが見えた。


「Get out of here!」


 彼女はそう叫びながら駆けだし、腰に携えた剣を抜く。直後、グレイシアさんの足元に真っ赤に輝く陣が形成されるとともにそこから炎が噴き出す。

 炎が晴れるとそこには赤を基調とした装甲に白のラインがいくつも加えられたZEXを身に纏った彼女が立っていた。

 彼女が手を伸ばすとそこに炎が集まり、やがてそれは一本の赤い剣へと変化し、手中に収まる。

 剣を握りしめた彼女は真っ赤な翼を羽ばたかせ、上空へと舞い上がるとこちらへ向かってくる下龍種たちを一太刀で切り裂いていく。


「こ、これが……専用機体の動き」


 俺の目では彼女の動きは追いきれず、下龍種が切裂かれて血しぶきをあげるタイミングでようやく彼女がさっきまでそこにいた、という事実を知るだけ。

 次々と切裂かれていく光景に逃げるのを忘れていた俺はすぐに足を動かすが一瞬だけ見えた光景に再び足を止める。


「あれはっ」


 道路を挟んだ向こう側―――ちょうど、グレイシアさんが下龍種と戦っているすぐ近くの建物の陰に幼い女の子が恐怖に震えて座り込んでいる。

 俺が向こうへ行けば下龍種は俺に気付き、一斉に殺戮本能に従って俺を殺しにかかるだろう。そうなればグレイシアさんが抑えてくれている均衡が崩れてしまう。

 でも放っておけばいずれあの女の子は下龍種に見つかり、苗床として住処に連れていかれてしまう。


「どうすればいいんだ」


 その時、風に吹かれて俺の足元に一枚のチラシがぶつかる。

 それを手に取って広げてみるとでかでかとZEX試乗会というカラフルな文字が書かれており、右下には会場の簡易地図まで添付されている。


「これだ!」


 今日は偶然か否か、ZEXの試乗会が行われている。そこには確実にZEXがあるわけで丸腰に比べれば遥かにマシだ。


「あった……ZEXだ」


 椅子やらテーブルやらが薙ぎ倒され、逃げ惑った痕跡を見ながら放置されたZEXに乗り込むとすぐに起動し、俺の体に合うように装甲が再構築されていき、俺の体に隙間なくフィットしていく。


「よし……武器は」


 展開可能な兵装リストを表示するが何故か兵装らしきものは一切搭載されていない。試乗するだけだから武器はいらないということだろう。


「ないよりかはましか!」


 翼と各スラスターを使い、上空へと舞い上がり、戦場へと戻って大きく息を吸い込む。


「俺はここにいるぞー!」


 大きな声で叫ぶとグレイシアさんを含めたすべての存在が一斉に俺の方を向く―――そして一斉に咆哮をあげながら翼を羽ばたかせてこちらへ向かってくる。

 俺は下龍種から逃げる際に女の子がいる方向を指さし、グレイシアさんに伝わるように願いながら下龍種を多数引き連れて移動を始める。

 下龍種は瞬時にグレイシアさんよりも俺の方が殺戮本能を満たせる相手だと判別したのか叫び声をあげながら俺を追いかけてくる。


「危なっ!」


 乗り捨てられていたであろう車が俺めがけて投げられるが体を捩り、背中を道路に向けることで車体を回避し、そのまま飛行を続ける。

 この機体に下龍種を倒せる兵装がない以上、グレイシアさんが来るか殲滅隊が来るのを待つまで逃げ回るしかない。

 チラッと後方を見ると夥しい数の下龍種が俺を追いかけてきており、その光景に身震いしてしまう。

 あの数の下龍種に無残に殺戮されれば人間かも分からない程にグチャグチャにされて、殺戮本能のままに嬲り殺されるだろう。


「よっ!」


 曲がり角を勢いよく曲がり、まっすぐ進んだところで再び曲がり角を曲がることで下龍種から少しでも逃げられるように攪乱する。

 下龍種はちょこまかと逃げ惑う獲物にイライラしているのかすれ違いざまに建物を鋭い爪で切り裂いていく。

 その時、目の前にZEXからの通知が表示される―――そこには前方に新たなZEXの反応が示されていた。

 翼とスラスターを最大稼働し、一気に加速する。そしてすぐに赤と白が混ざったZEXとすれ違う。


「Blast away!」


 直後、鼓膜を破る勢いでドドドドドドッ! と断続的な爆音が鳴り響くと同時に多数の薬莢がカランカラン、と音を立てながら地面に落ちていく。

 音の発生源はグレイシアさんが持つロングバレルの機関銃。

 巨大すぎる機関銃は支えとなる脚パーツが地面に刺さっているがあまりにも重すぎて地面に亀裂が入っている。

 引き金を引き続けるだけで無限に放たれる弾丸が次々に下龍種を貫いていき、一瞬にして命がただの肉塊へと変貌し、地面に落ちていく。

 人間が作り出した兵装には必ず弾の制限があり、撃ち切ればリロードを挟まなくてはいけない。それが常識だがあくまで人間の常識。

 グレイシアさんが纏っているZEXは専用機体。人間の常識など通用するはずもない。だから無限の弾を放てる。

 やがて発砲音が鳴りやみ、周囲に静けさが戻ってくる。前方には下龍種だった肉塊が山積みになって転がっており、辺りには血生臭い匂いが立ち込める。


「こ、これが専用機体の龍能(ドラゴニクス)


 専用機体にはそれぞれ龍能と呼ばれる異能を宿している。それは人間の常識を軽々と超越する物であり、人間が理解することは不可能―――と渡された分厚い課題冊子に書いてあった。

 彼女のZEXの龍能は知らないが推測できるのは兵装に関する物であるということ。


「What on earth are you thinking!?」


 スマホを出している暇はないが彼女の表情と雰囲気、そして言葉の勢いからして彼女が猛烈に怒っていることは理解できた。

 それもそうだろう。

 避難しろと言ったはずなのに下龍種を引き連れ、女の子を助けてくれと指示したのだから。


「あ、え、えっと……ソ、ソーリー」

「Sigh…… But unlike the rest of those guys, you’ve at least got some guts」

「……アハハハ……センキュー、センキューね」

「?」


 やはり俺の英語は全く通じないらしく、グレイシアさんは不思議そうな顔を浮かべて俺の顔を見てくる。


「まぁ、でもこれで下龍種の群れも」


 そこまで言ったところで俺の言葉は止まり、視線が前方へとくぎ付けになる―――彼女も俺の視線に気づいたのか後ろを振り返る。


「Disgusting……」


 彼女が呟いた言葉の意味は分からないが恐らく俺が抱いている感情も彼女と全く同じものだと思う。

 今俺達の目の前で広がっている光景は“凄惨”や“おぞましい”という生易しい表現では言い表せない光景だ。


―――グチュグチュァ


―――ゴジャゴジュッ


―――ゴキジュュァ!


 そんな不快音を響かせながら下半身が吹き飛んでいる下龍種が山積みになっている同族だった肉塊を喰らっている。

 その行動は腹が減ったから、という生理的欲求ではなく生きたいという生存本能から来るものであり、それ以外の理由はないだろう。

 俺もグレイシアさんも凄まじい光景を目の当たりにし、呆然と立ち尽くしていると同族を喰らっていたゼータが動きを止める。


「「っっ!?」」


 直後、下龍種の背中を突き破るように折りたたまれた形の翼が空に向かって伸びた―――上空から血の雨が降り注ぎ、肉の破片が落ちる。

 サナギからの変体のようにゆっくりと翼が左右に開かれるとしわくちゃの皺塗れな表面が見える。

 しかし、空気に触れるや否や皺はすぐさま伸びて消え去り、翼へと生まれ変わる。

 そして翼がゆっくりと羽ばたき、下龍種の体が浮かび上がる。


―――ジュゴァァッ!


 凄まじい音とともにどす黒い液体が吹き飛んだ下半身から吹き出ると同時に新たな両足が生まれる。

 同時に上半身からポロポロと皮膚が崩れ落ちていき、その下から新たな肉体が現れる。


「し、進化しているのかっ―――っ!?」


 ようやく言葉を紡ぎ出せた直後、鼓膜を破る勢いでドドドドドッ! という爆音が断続的に響き渡り、無数の弾丸が目の前の存在に向かって放たれる。

 地面に着弾し続け、コンクリの地面を破壊しながら土煙が空高く舞い上がる。


「や、やっ―――」


 その後の言葉は紡げなかった。

 一瞬、でこの辺りに衝撃が走ったかと思うと視界がゆっくりと後ろへと倒れていく。

 理解できない俺は視界にある物を捉えたことでようやく今の状況を理解する。


―――ゼータに頭を掴まれている。

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