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ZEXアドベント  作者: ケン
第1章

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第十五話

 目の前に立ちはだかる姉の手にはドアノブのパーツが握られており、額に青筋を立てながら冷たい笑顔を顔に張り付かせている。

 とりあえず俺は何も言わずにその場に正座で座った。


「おい、ドアノブを知らないか? 愚弟」

「ど、ドアノブは……その……貴方様の手に」

「おぉ、これはドアノブというのか~。そうかそうか……私の記憶によればドアノブというのはドアに標準搭載されているもので決して取り外しができるようなものではないんだが間違っていたのか?」

「い、い、い、いえいえいえいえいえいえいえいえ! お姉さまの仰る通りです!」


 大きな声でハキハキと叫びながら俺は地面におでこを擦りつけ、いわゆる土下座の体勢を取って誠心誠意の謝罪を表明する。


「この家の名義人は誰だ?」

「お姉さまです!」

「ローンは後何年残っていたかな?」

「三十五年です!」

「私がいくつの時に購入したかな?」

「二十歳でございます!」

「で、築何年だ?」

「五年です!」

「そうだな……分かっているな、愚弟」


 顔には思いっきり殴らせろ、という言葉とドアノブの修理費はお前が払えよ、という二つの言葉が書かれている。

 ちょっと弁明したら安くしてもらえないかしら。


「べ、弁明の許可を」

「良いだろう」

「有難き幸せ……じ、実はですね……先程我が家にぬいぐるみを抱えた天っっ才発明家が不法侵入をしてきましてね」

「あぁ、知ってるよ」

「さようでございますか……ってえぇ!?」


 思わぬ返答に勢いよく顔をあげる。


「家の場所を教えたのは私だ。あいつが会いたい会いたいとうるさくてな」

「ね、姉ちゃんあの天っっ才発明家と友達なの!?」

「友達……と言われれば聊か不満だが傍から見ればそうなるな」


 そもそも姉ちゃんの交友関係など知る由もないがまさか天っっ才発明家とお友達だったとは夢にも思わなかった。


「いつ知り合ったんだよ」

「お前には会わせていないだけでずっと昔からの付き合いさ……で、お前は書類を書いたのか? 私はそれを取りに来たんだが」

「……まだ」


 そう言うと姉ちゃんは驚いた表情を浮かべる。仕事を中抜けまでして取りに来たということは既に完成しているというあてがあったんだろう。

 でも今の俺はあの書類を書く気力は今のところない。


「お前のことだからすぐに書くと思っていたんだがな」


 少し前の俺なら踏ん切りをつけてその日にでも書類を記入していただろうが入試の日の戦い、模擬ゼータとの戦いを経て俺の中では確実にZEXに対する想いが少しずつ蘇ってきている。

 幼いころ、ZEXを操縦して人々を救うことに憧れていたあの時の想いが。


「……今から書くよ」

「いや、いい」

「へ?」

「そんな顔で書かれたところで私も気分が悪い。全てに決心がついたら自分で書類を私のところまで持ってこい」

「もう行くのか? ご飯でも」

「私は忙しいんだ。また来た時に食べさせてもらう」


 そう言って姉ちゃんは職場へと戻っていった。

 俺はZEX学園を退学になった―――Z族が支配しているあの空間から一刻も早く抜け出したかった俺にとっては嬉しいことのはず。

 確かにZEXの整備知識を学べなくなったのは痛手だがそれでも人生を棒に振るよりはましだ。


「……はぁ」


 あの日から俺は入学前に貰った学園規則を見ていた。

 そしてそのページは決まって同じ部分だった。


【学園規則第二百十条第一項 以下の条件のいずれかを満たす者は学園編入試験を受けることを許可する。①各国軍部に所属し、ZEXにてゼータ討伐数が優秀である者。②学園に在籍する教師、および生徒一名ずつより推薦を受けた者】


「……俺、学園に戻りたいのかな……はぁ……買い物行くか」


 今日から三日間はお手伝いさんが有休でお休みだから俺が家を管理しなくてはいけないので数日ぶりの主婦業だ。

 早速、今週の食材を買いに行こうとするが立ち止まる。


「……カギ閉められないじゃん」


 ぽっかりと穴が開いたドアを見てそう呟く。

 仕方がなく俺は穴に結束バンドを通して輪を作り、居間の奥のタンスと輪を紐で固く結び、簡易的な鍵を作成した。


「とりあえず当分は玄関からじゃなくてベランダから出るか」


 財布などの荷物を持ち、網戸を開けてベランダへと出ると小さなフェンスをよじ登って道路へと降り立ち、近くの大型スーパーへ向かう。


「まさか退学したら支払い済みの学費が帰ってくるなんてな。通信制の学費は格安だからこれで当分は生きられるな」


 所持金0円だった俺が今では小金持ちだ。だがそれはあくまで今後の生活資金に充てる物なので私利私欲に使うことは許されない。


「ねえ、あれって」

「うん……やっぱりあの噂は本当だったんだ」


 ひそひそとすれ違う女子たちから囁き声が聞こえる。

 一般的には俺が学園を退学処分になったことは公表されていないので全国ニュースなどでも報道はされていない。

 しかし、どれだけ情報漏洩を防ごうと締め付けても漏れ出てしまうのが噂というものであり、昨今のSNS時代のこの世の中じゃ噂が広まる速度は速い。

 俺はSNSの類はしていないのでどんな感じで広まっているのかは知らないが恐らく良い広まり方ではないんだろう。

 主犯格の顔はすぐにでも思い浮かぶが退学となった今の俺には関係のない話であり、後ろ指を指されるのも少し時間が経てばほとぼりが冷めるだろう。


「この近くでZEXの試乗会をやってまーす! よろしかったらどうですか!」


 アルバイトだろうか、俺よりもちょっと年上くらいの女性がZEX試乗会とでかでかと書かれたのぼりの前で大きな声で宣伝しながらチラシを配っている。

 そのチラシをZ族らしい中学生が受け取ると笑顔を浮かべて友人たち数人と会場へと向かう。

 平民の俺が動かしたとはいえ、ZEXを平民が動かせるかもしれないということにはならず、いまだにZEXはZ族専用だ。


「そりゃZ因子がないと動かせないもんな……とりあえず今日の夕飯は何に……」


 チラッと視界の端に見覚えのある髪色が見え、後ろを振り返るが誰も居なかった。

 軽く周辺を見渡してみるが誰も隠れている様子はない。

 気のせいか、と自分に言い聞かせて再び歩き出すと俺の足音とは別にもう一つの足音が後方から聞こえてくる。

 試しに早足で歩いてみると同じように足音が早くなり、立ち止まってみると同じように足音が止まった。明らかにつけられているのは分かった。

 俺は足早に道を歩き、曲がり角を曲がって少し待機してみることにする。やがてコツコツとヒールの音が近づいてくる。


「Oops!」

「やっぱり。何やってんだよ、グレイシアさん」


 数刻後、曲がり角を曲がってきた女性が俺の姿を見るや否や驚きの声を上げ、その場で立ち止まってしまった。

 その女性はサングラスと帽子を深くかぶっており、彼女なりの変装をしている様子。しかし、日本で真っ赤な髪の毛は目立つ。

 どうやら今はプライベートな時間らしくいつもの制服姿ではなく、白いスカートに茶色のオフショルダーのブラウスに身を包んでいる。

 そして腰にはいつもの専用機体の待機形態である剣を携えている。

 とりあえず用事が分からないのでスマホの翻訳アプリでこの場に適した文章を検索する。


「おぉ、これだ……ワットアーユードゥーイング?」

「what?」


 どうやら俺の英語は完全に発音がやられているらしく、彼女には全く通じない様子。なのでスマホの画面を見せつけると軽く頷く。


「You haven't been coming to school at all, so I came to check on you!」

「……な、なんだって?」


 スマホの自動翻訳機能を開始させ、彼女にもう一回とジェスチャーをするとスマホに向かって言ってくれた。そして瞬時にスマホが彼女の文章を翻訳し、画面に表示する。


「あんたが全然学校に来ないから様子を見に来たのよ……あれ? もしかして俺が退学になったことってクラスにも発表されてないのか」


 余計な情報の広がりを防ぐという意味では確かに策の一つかもしれない。


「俺、退学になったんですよ」


 スマホに話しかけ、翻訳してもらってそれを見せると彼女は驚きの表情を浮かべながら聞き取れない速さで話し始める。

 スマホは聞き取れているらしく画面には既に翻訳されている日本文が表示される。

 ネイティブの早口会話すらも聞き取り、正確に訳すとは流石はメイドインジャパン。


「そんなの聞いてないんだけど……いや、俺に言われても」

「I don't understand what this means!」


 意味わからないんだけど、とスマホに表示されるが俺も返答に困る。クラスに発表されていない以上、俺個人の口から話していいものなのか。

 どっちつかずの俺の反応にイライラしているのかグレイシアさんは睨み付けながら俺に近づいてくる。


「Stick with me for a while」

「えっと、っておぉぉぉ?」


 スマホで翻訳しようとした時、いきなり手を掴まれてそのままどこかへ向かって歩き始めてしまう。


「あ、あのグレイシアさん?」


 耳にはWorld Linkが付けているから俺の日本語は英語に変換されているはずなのにグレイシアさんは無視して歩いていく。

 そして大通りに出るや否や近くにあるカフェのテラス席に座る。


「いらっしゃいませ。ご注文はこちらのQRコードからスマホでお願いします」

「あ、は~い」


 少しの沈黙が俺達の間を抜けた後、彼女は目線で「あんたが注文しなさいよ」と言わんばかりのジト目を俺に向けてくる。

 一応、他言語にも対応されているはずだから日本語が話せなくてもいけるはずなんだが致し方がない。

 スマホでQRコードを読み取り、座席番号を入力すると店舗の注文ページへと飛ぶ。


「何にします?」


 画面を見せながら尋ねると彼女は桜を模したストロベリ―クリームパフェとかいう甘ったるいものを指さし、コーヒーはこれまた甘いものを指さす。

 俺は適当に選んで注文を送るとグレイシアさんがジト目で俺を見てくる。


「What’s the reason you got expelled?」


 なんで退学になったわけ? とスマホの画面に表示される。理由を話してもいいものかと少し悩むが一緒にあの場にいた人ならばいいかと自己解釈する。


「あの時の戦いでZEXを壊したじゃないですか。それが学園法のZEX損壊になるからって理由です」


 そう言うと彼女のWorld Linkが瞬時に英訳し、彼女の耳に届ける。途端に怒りのオーラを醸し出し、俺を軽く睨みつけてくる。


「I was there too, but nothing happened to me」


 私もそこにいたけど何もなかったわよ、とスマホに表示される。

 恐らく学園としては専用機体持ちの生徒を罰したくはなかったんだろう。専用機体を与えられるということは国の威信を背負っているという事。

 そんな人物に対して学園が罰を与えるともなれば理由の説明や情報の開示など学園にとって面倒なことが起きる。

 状況的には俺にZEXを破壊したという責任を全て押しつけ、彼女はただそこにいてサポートをしていただけということにすれば学園にとっては最小限のダメージで済む。

 だから俺に全責任を被せて追い出した。


「まぁ、色々あるんですよ」


 スマホを見せると彼女は俺のスマホを鷲掴みにし、俺にも良く聞こえる声で言葉をぶつけると画面に表示されたのは『それが日本特有の忖度って奴ね』


「忖度というか……トカゲの尻尾切りというか」

「お待たせしました~」


 店員さんが注文した品を持ってきてくれるや否や先程までの怒りのオーラはどこへ行ったのかニコニコ満面の笑顔になる。

 目の前に置かれた商品をスマホでパシャリ、次に俺にスマホを渡し、商品を手にする。


「……撮れっていう事か」


 小さくため息をつきながらパシャリと一枚撮るとスマホを寄越せとジャスチャーされ、手渡すとどうやら写りが悪かったのかもう一度、渡してくる。

 俺からすればポーズは同じなんだが彼女からすれば少し違うらしい。

 ほぼ同じポーズの写真を五枚ほど撮影し、ようやく納得がいったのか笑顔でパフェを食べ始める。

 時間が経って若干、溶けかかっているのは言わないでおこう。


「So, you don't want to go back to the academy?」


 スマホに表示されたのは「で、あんたは学園に戻りたくないの?」という一文。戻る気はないと言えばウソになるが戻りたいと胸を張って言える気もしない。

 今の段階では自分がどっちを望んでいるのかはっきりと結論が出せない。


「It seems like you don't understand.」


 スマホに目を落とすと「どうやら分かっていないようね」と。図星を突かれ、図星なのを隠すようにコーヒーを一口だけ飲む。


「You seemed happy back then, though」


 あの時のあんた生き生きしていたけど、と言われ余計に心の中がグチャグチャになる。

 戦っている最中のことなど無我夢中だったから覚えていない。でもすぐ隣にいた彼女がそう感じたのであれば俺は楽しさを感じていたんだろう。


「You should return to the academy. Especially if you're feeling unsure」


 もうスマホを見なくても何となく彼女が言ったことは理解できた。クヨクヨ悩むくらいなら戻ってこい。そんな感じの言い方なんだろう。


「You might not know, but the strength of the mock Zeta back then was undoubtedly on par with the upper dragon series. Even though it was two against one, you managed to deliver the final blow. In my country, the military would waste no time recruiting someone like you」


 スマホの画面に長文が表示される。まとめるとあの時の模擬ゼータ君の強さは上龍種に近い強さであり、彼女の国であれば軍からスカウトが来るレベル、とのこと。

 最大限の褒め言葉だと思うけど俺は素直に受け取れない。

 復学しても元のZEX科に所属するだけで整備科への所属にはならないだろうし、上龍種レベルの模擬ゼータを倒したともなれば転科など許可してくれるはずもない。

 姉ちゃんとの約束だってあるし、これ以上姉ちゃんに迷惑をかけたくない。


「Well, I guess the academy just doesn't want to deal with the enormous cost and effort upfront」


 スマホに表示された文言を見て俺は思わず笑ってしまう。莫大な資金援助を受けているとはいえ、学園も金はあまりかけたくないらしい。


「You should come back. If you're willing, I'll act as your reference」


 画面に表示された文章を見て俺は一瞬だけ驚く。

 まさかグレイシアさんが推薦を出してもいいとまで言ってくれるくらいに俺の実力を買ってくれているとは思わなかった。


「最初は話し掛けるなって言っていたのに今は違うんですね」


 そう言うと彼女は小さく笑う。


「You're different from those naive, peace-obsessed people. I just don't want to associate with fools.」


 平和ボケした連中とあんたは違う。私はバカな奴とは付き合いたくないだけ、とスマホに表示され、少しだけ複雑な気持ちになる。

 同じ日本人を下に見られているという部分と俺個人を評価しているという部分。どちらに反応すればいいか分からない。


「気持ちは嬉しいけど俺は」


 ―――その時、僅かにテーブルが揺れた。

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