第十三話
ZEX学園には地下施設が存在する。
そこは生徒などには公表できない学園独自の情報の管理やVIPを接待するための施設など表世界とは断絶された空間。
その施設の一つにZEXの開発・修繕を行う広大な施設がある―――名を技術開発部。
その技術開発部の施設の一つに件のZEXが担ぎ込まれ、調査が進められており、その一室に一組の担任ペアがいた。
「あらら~。もうこの機体はダメですね~」
「それもそうだろう……なんせうちの愚弟が超過起動を使ったのだからな」
「彼は知っていたんでしょうか~?」
「ZEXをまともに動かした経験はないし、知識もない。そんなやつが超過起動を知りながら起動するはずもないだろう」
「それもそうですね~。万が一に備えて超過起動の機能は完全にOFFにしたはずですけどね~……どうして起動できたんでしょうか~?」
千夏はタブレットに指を走らせながらそう言うが春夏は小さくため息をつきながら目の前で進んでいく調査の様子をじっと眺める。
「あの非常事態だ……ZEXが搭乗者保護の一環で起動したのかもしれん」
「ZEXには自己判断プログラムがありますからね~……それにしても神原先生」
「なんだ?」
「なんだか嬉しそうですね~」
「……そうか?」
「もしかして……弟さんの実力をZ族に見せつけれたことがうれしいんですか~?」
春夏は何も言葉を発さず、鼻で笑いながら傍に置いてあったコーヒーが入ったカップを取ってそれを口へと運ぶ。
彼女たちは話しながらも目の前の調査の様子から目を離さない。
その時、千夏は抱えていたタブレット端末に目を落とし、指を走らせて何かを表示すると少しした後に目を見開く。
「神原先生」
「ん?」
「彼の処遇が決まったようです」
「……結論は?」
「退学処分」
結論だけを述べた内容に春夏は頭を抱えながらもその表情はどこか安心したようなものにも見え、千夏は少しだけ不思議そうな表情を浮かべるがすぐにそれを抑える。
「懲罰委員会が出している報告書ではやはり貴重なZEXを破壊したことが重視されたみたいです」
「表向きはそうだろうが本当のところは平民潰しだろう」
「彼を入学させる際にも管理職は大反対でしたからね~。平民を入れて汚すつもりか! ってね~」
「上の連中は今のZ族の思考をさらに濃縮した連中だからな」
そう言いながら目の前のZEXへ視線をやる春夏。
装甲は風化した石のようにボロボロに崩れており、少しでも強い衝撃を与えれば崩壊しそうなほどであり、近くを通る技術者たちも距離を開けながら通っている。
ここへ運搬する際にもいくつかの装甲が崩れ落ちたという報告も上がっている。
「で、模擬ゼータの方はどうだ」
「はい……技術開発部としてはAIが素材となったゼータの亡骸を細胞レベルまでラーニング。その結果、人間の雄に対する殺戮本能を模倣し、暴走。とのことです」
春夏は千夏の話を聞きながらも視線はずっと目の前のZEXに注がれており、眉間に深い皴を刻みながら何かを考えているように深い思考の海に入っていた。
そして結論をつけたのかゆっくりと口を開き―――
「ゼータの亡骸を使っている以上はあり得ない話ではない……私たち以前に模擬ゼータが暴走したという記録はあるか?」
「学園の情報管理システムにアクセスして調べていますが古すぎる情報であることと現在とは管理方法が違うこともあって難航している状況です」
「どれくらいかかりそうだ」
「ざっくり言って……二週間はかかるかと」
「二週間か……」
秋冬の処遇が退学処分と決まった以上、これ以上の調査はあまり意味をなさないが今後もほかの平民がZEXを動かすということがあるかもしれない
情報の更新も兼ねて隅から隅まで調査を続行するべきか、それとも打ち切るべきかが春夏の中でも悩みどころだった。
「後は頼む」
「どちらへ?」
「少し野暮用を終わらせにな」
そう言い、春夏は部屋を後にし、歩きながらスマホを取り出して画面も見ずに慣れた手つきで操作をするとどこかへと連絡を取る。
『もしもーし』
「私だ」
『春夏から連絡をしてくるなんて珍しいねぇ。私は嬉しいよ』
「どうでもいい……どうせお前のことだ。今回の件もどこかからか見ているんだろう?」
春夏がそう言うと電話の主は何も言わない―――しかし、春夏の表情はどこか確信しているものが感じ取れる。
電話の相手は小さく笑いながらも平静の声音で話し始める。
『さて、何の話かな?』
「分かっているとは思うが秋冬に変なことを吹き込むなよ」
『ふふふふっ……それは私次第かな~』
「……余計な真似をすれば今すぐにでもお前を殺しに行く」
『君は本当に殺しに来るからね~……余計なことはしないよ……で、聞きたいことがあるんでしょ?』
「……今回、模擬ゼータが暴走した。ゼータの意思をAIが模倣し過ぎた、というのが”学園”の見解だがお前はどう考える」
電話の主は彼女の問いに少し考えているのか向こうからは物音一つしなくなった。
日常的な生活をしていれば何かしらの生活音が聞こえるはずだが電話の向こうからはそれらしい音は一切聞こえてこず、不安を感じさせるほど無音だった。
『それはあくまで”学園”の見解なんだよね……それに答えるならばあるんじゃないかなぁ。ただ模擬ゼータに搭載してあるAIはネットワークには繋いでいないんでしょ? あくまでこちらが与えた材料しか知識を得ることは出来ないからねぇ。それに今回暴走した模擬ゼータは最新モデル。今年度から現場に投入されてるんだよね?』
「お前はどこまで学園の情報を引き抜いているんだ」
『調べ物は得意だからね……AIもそこまで万能じゃないし、果たして一か月も経っていない程度の時間でそこまでの深層学習に至るのかな? っていう疑問はあるね』
「そうか……ならば今度は私の見解を聞け」
『どうぞ~』
「どこかの稀代の天才が外部からアクセスし、意図的に暴走するように仕向けた。おそらくその稀代の天才は何かを確かめたかったんだろう……どうだ?」
電話の主は少しの間、沈黙を続けるが我慢が出来なくなったのかケラケラと笑い始め、テーブルを強く何度もたたく音が響いてくる。
しかし、春夏は表情を一つも変えずに電話の向こう側の音をただ聞き続ける。
『それは随分と面白い見解だねぇ。その稀代の天才は模擬ゼータに外部アクセスして意図的に暴走するように仕向けて何を確かめたかったんだろうね』
「さあな……もう一度言うぞ。余計な真似はするな」
『もちろん……私にとって余計なことはしないつもりだよ。君と真正面から喧嘩はしたくないからね』
「そうか。ならば私にとって余計なことをした際は……お前の顔を見に行ってやる」
春夏はそう言うと一方的に通話を切り、スマホをポケットへとしまい込んだ。
――――――☆――――――
「ふっふっふ……春夏にはバレるよねぇ」
いくつものモニターを目の前にして面白そうに笑みを浮かべている女性は椅子をくるくると回転させながらその場で天井を見上げつつ、回り続ける。
そのモニターのいくつかは学園内部の映像が映し出されており、その一枚には尋問室のような狭い部屋で対面して話をしている女性と少年がいた。
女性は白衣を翻しながら回るのをやめ、一枚のモニターを凝視する。
「君は……良いモルモットになってくれるのを期待しているよ」




