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ZEXアドベント  作者: ケン
第1章

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第十一話

 数刻前、突然の非常事態の映像を目の当たりにした生徒たちが口々に不安げな声を上げ、それが伝染していって騒音となって指令室を埋め尽くしていた。


「ね、ねえ……あれってゼータの動きだよね?」

「俺たちも危ないんじゃ」

「大丈夫大丈夫。私たちはZ族じゃん」

「でもここにいる全員がそうだよ?」

「忘れたの? あいつ、平民じゃん」


 我妻はニヤニヤと笑いながら模擬ゼータに襲われている秋冬が映し出されているモニターを指さし、当たり前のように平民を見下した言葉を連ねていく。


「Z族は何事も優先されるでしょ? 平民のあいつを囮にすれば―――」


 その時、突如としてボコォンッ! という爆音とともに一瞬にして指令室内が静けさに包まれ、パラパラと床に破片が落ちる音が嫌に大きく響く。

 全員の視線が集まる場所には長机に拳を貫通させている春夏の姿があった。


「おい、我妻」

「っっぁ……ぃっ」


 睨み付けるなどという生易しい表現では足りない―――そう。それは殺意。

 殺意を向けられた我妻は全身を震わせ、目に涙をためて今にも泣きそうな表情を浮かべ、言葉になっていない返事をする。

 自分たちは関係ないと言わんばかりに周囲にいた生徒たちは我妻の傍から離れ、春夏の視界から消えるようにして息をひそめる。


「ゴミのような言葉を吐き出す口をホッチキスで止められるか今すぐ黙るか……好きな方を選べ」


 凄まじい勢いで首を上下に振り、手で口を押える少女から春夏の視線が外れる―――ようやく殺意から解放された少女は力なく床に座り込んでしまう。

 春夏は装着しているWorld Linkを手で触れながら一言二言、小声で話すと生徒の方へ振り替える。


「全員注目!」


 怒声に近い号令に全員の視線が春夏に注がれる。


「現時刻をもって振り分け試験は中止とし、私の先導のもとシェルターへの避難を開始する!」

「ひ、避難?」

「で、でもサイレンは鳴っていないはずじゃ」

「グズグズするな! 死にたくなければ整列しろ!」


 号令がかかると一瞬にして生徒たちは行動を開始し、番号順での整列を始めるが殺意を向けられた我妻は友人二人に抱えられてもなお足に力が入っていない。

 呆れた表情をしながら春夏は彼女を抱きかかえ、先頭に立つが振り返る。


「ウィルミナ・グレイシア」

『はい』

「殲滅隊隊長として専用機体(オリジナル・シリーズ)の使用を許可する」

『承りました』


 春夏は一組生徒を連れて指令室を後にする―――残ったウィルミナは先程の道を通って格納庫へと向かっていく。


「待っていました、グレイシアさん」


 格納庫へと入るや否や千夏に出迎えられ、ゲートの前へと案内される。


「ゲート、開けます!」

 その声の後、重厚な音をあげながらゲートが自動で左右に開いていく。徐々に開く扉の前で髪を一度かきあげた後、腰に携えた剣に手を置く。

 すると剣全体が輝きを発し始め、薄暗かった格納庫内を照らし始める。


「――――――――――」


 ウィルミナがボソボソと言葉をささやくとともに剣の輝きがより強くなっていき、彼女の全身を包み込んでいく。


「お願いしますよ、グレイシアさん」


 直後、解放されたゲートを飛び出していった。



――――――☆――――――

 目の前の存在に俺は言葉を失っていた。初めて目の当たりにする専用機体からは見えない圧のようなものを感じる。


『今、気分が悪いの……さっさと消えてくれる?』

「……ありがとう」

『……』


 彼女にお礼を言った瞬間、模擬ゼータが奇声を発しながら翼を羽ばたかせて突進してくる。


『ウザい!』

「っっ!」


 彼女の横を素通りしかけた瞬間、彼女の腕が伸びて片翼を鷲掴みにするとそのまま力任せに引っ張って地面に叩き付けた。

 爆音が響き渡るが模擬ゼータはすぐさま体勢を立て直して彼女に飛びかかる。

 だがそれと同時に顔面に拳が突き刺さり、細かい破片をまき散らしながら後方へと殴り飛ばされる。

模擬ゼータは何度もバウンドしながら飛んでいき、壁に激突する。


『男を狙った行動……完全にゼータね。強さは下龍種以上、上龍種未満ってところかしら』


 直後、壁を蹴る音とともに模擬ゼータが突撃してくる。

 しかし、その場から彼女が消え去る。

 直後に模擬ゼータの顔面に膝蹴りが入れられ、無理やり突撃を止めると同時に空中でバク転をするように一回転し、相手の顎に強烈な蹴りを入れ、上空へと蹴り上げる。

 彼女が手を挙げた瞬間、手中にサブマシンガン《ヴォルケイノ・ブリッツ》が展開され、上空の相手の背部に目がけて無数の弾丸を放つ。


『っ!?』


 直後、模擬ゼータは上空へと急上昇することで全ての弾丸を回避してしまった。

 彼女が驚くのも無理はない―――俺だって全ての弾丸が直撃すると思っていたのに模擬ゼータには一発も当たらなかった。


『まさかAIが進化している?』


 模擬ゼータは唸り声をあげながら鋭い爪を小刻みに動かし、俺と彼女を交互に見る―――直後、ボンッ! という爆音とともに模擬ゼータが急加速する。


増速駆動(アクセル・ブースト)!?』


 グレイシアさんは驚きながらもサブマシンガンを捨て、手を広げるとそこに炎が集まり、伸びていく。

 やがて炎は形を生成していき、刀身が赤い一本の近接用ブレードへと姿を変える。

 相手の爪とグレイシアさんのブレードがぶつかり合い、ギィィン! という甲高い音がアリーナ内に木霊する。

 直後にグレイシアさんのZEXのスラスターが起動し、一気に吹き上げると模擬ゼータを後方へと押し込んでいく。


『何ボサッと見てんのよ!』

「なっ、え?」


 グレイシアさんの怒号がZEXの通信機能を通じて響くとともに両者が上空で激しくぶつかりあう。

 その動きはあまりにも早すぎて俺の目では追いきれない。


『あんたも戦いなさい!』

「む、無茶言うな! 俺は素人同然だぞ!?」

『だから!? あんたが纏っているそれは何!?』

「っっ!?」

『お飾り!? それともアクセサリー!?』


 彼女の言葉に俺ははっとする。

 戦える、戦えないに関わらずにZEXを纏っている以上、ゼータと戦う術を持っている。


『今のこいつは言ってみればゼータとZEXを合わせた存在よ! あんたを守りながら戦うなんて器用なこと私にはできない!』


 上空でサブマシンガンが火を噴くが模擬ゼータは俊敏な動きで全ての弾丸を回避し、グレイシアさんへと鋭い爪で斬りかかる。


『戦いなさい! こいつはもう模擬ゼータじゃない! ゼータそのものよ! あんたは本物のゼータと一度戦ってるでしょうが!』


 彼女の横薙ぎの一撃を後ろへ回転することで回避した模擬ゼータ。直後にその両手を前方へと勢いよく突き出す。

 隙ありとグレイシアさんはスラスターを吹かし、距離を詰める―――しかし、模擬ゼータの両手に粒子が集まっていき、その手中に二丁のショットガンが収まる。

 慌ててグレイシアさんは方向を切り替えようとするがそれよりも早く模擬ゼータの爪がショットガンの引き金へと向かう。

 このままでは確実に彼女に高威力の弾丸が直撃する。


(俺はこのまま指を咥えて見ているだけでいいのか)


 グレイシアさんの言葉が俺の脳裏に反復する。

―――ZEXはアクセサリーか

―――あれは模擬ゼータか

【俺は来年、整備科に移るから戦い方を知らないでいい。だから戦わないでいい】

 最後に俺自身の本音が俺に降りかかる。


「そんなわけ……そんなわけねえだろうがー!」


 咆哮をあげるとともに俺はウイングパーツとスラスターを駆使してその場から飛び出すと周囲の景色がグニャリと歪む。


「うおぉぉぉぉっっ!」


 その勢いのままに拳を突き出すと模擬ゼータの顔面に拳が突き刺さり、バキィッ! という破砕音が周囲に響き渡る。

 あまりの衝撃からか模擬ゼータは体勢を崩すとともにその手から二丁のショットガンが離れて粒子と化して消え去る。


『離脱!』


 彼女の言葉に従い、後方へ動くイメージをするとZEXがそれを受け取り、スラスターが機能して後ろへと飛び退く。

 一定の距離を離したところでグレイシアさんが俺の傍へとやってくる。


『やるじゃない』

「あの時の感覚……思い出してきたぞ」

『入試のあの日、ゼータを倒したっていう実力、もう一回私に見せて……来るわよ!』

「っっ!」


 グレイシアさんの声と同時に脇腹を蹴られ、無理やり間を離されるとそこに模擬ゼータが突っ込んでくる。

 相手の背部が見えた俺は手を広げる―――手中にショットガン《ローア》が収まり、彼女の見よう見まねで引き金を引く。

 多数の細かい弾丸が放たれ、相手の背部の複数個所で小さな爆発が起き、そのまま相手はフィールドへと叩き付けられた。


「しょ、衝撃がない」

『ZEXの補助機能で衝撃が緩和されてるのよ』

―――捕捉

『避けなさい!』


 ZEXの通知とグレイシアさんの怒声が同時に響き渡った直後、俺の全身を複数の衝撃が走るとともに視界の端を黒い何かが過ぎ去っていく。

 まともに直撃した俺は体勢を崩し、そのまま立て直せずに地面へと落ちる。


「くっ」


 ZEXの保護機能で生身に傷は全くないが装甲が破損したことでバリアレベルが低下したことが通知で示される。

 その直後に土煙があがったかと思えば模擬ゼータが増速駆動を用いて凄まじい勢いで俺を殺さんと突っ込んでくる。


『させないわよ!』


 グレイシアさんも増速駆動で追いつこうとするが出だしが模擬ゼータの方が早い以上、相手の方が先につく。

 全てがゆっくりと動くなかで模擬ゼータの鋭い爪の切っ先が俺へと向けられる。

 バリアレベルが低下した状態であの一撃を受ければ防ぎきれない衝撃が俺を襲い、骨折をするかもしれない―――もしかしたら貫通するかもしれない。

 爪が向いている先には俺の頭があり、貫通すれば即死。


「……死んでたまるか」


 俺はその言葉を何度も反復させる。

 死を覚悟するには早すぎるし、姉ちゃんの目の前で死に様を晒すわけにはいかない。


(こんなところで死んでたまるか! 今の俺には目の前の敵を倒す使命があるんだ!)


 その瞬間、目の前に【超過起動オーバー・ドライブ】という文字列が表示される。

 それが一体何を示している文字列なのかは知らない―――でもこれを使わないと死ぬことだけはハッキリと分かる。

 俺は視線を動かし、その文字列を―――押した。

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