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ZEXアドベント  作者: ケン


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第一話

「俺の母ちゃんはZ族なんだぜ!」

「私のお父さんもZ族だよ!」

「秋冬君のパパとママは?」


 ―――これは幼いころの記憶


「こいつの両親、働いているところ見たよ!」

「そうなんだ~。じゃあ、遊べないね」


 ―――こうやって何度、俺の周りから友達と呼べる存在が消えていったことか。


「パパとママが秋冬とは遊ぶなって言ってたから」

「Z族じゃない人は弱くて病気にもなりがちだから近づくなって」


 ―――確かにただの人間は弱いかもしれない。でもそれが普通じゃないのか?



――――――☆――――――

「……寝てた」


 昔の夢から目を覚ました俺―――神原秋冬は周囲を見渡しながら次の停留所を確認するとちょうど目的地の停留所の一つ前を出発したばかりだった。

 時刻は朝8時30分。

 ポケットに入れていた受験票を取り出してもう一度、受験開始時刻を確認する。


「このままいけば……20分前には到着か……ちょうどいいな」


 俺は今日、高校入試を受験する。

 受験校の名はZEX学園【整備科・整備エキスパートコース】

 正直、平民出身の俺がZEX学園を受験するなんて夢みたいな話だし、周りからの声にもめげず諦めずに努力を続けてきた俺をほめてやりたい気分だ。


「緊張してきたぁ……」


 緊張をほぐすためにスマホを取り出してSNSを開いてみると一番に飛び込んできたのは受験速報という強調された文字列だった。

 無意識のうちに指がそれをタップしてしまい、今一番見たくない情報が俺の視界にこれでもかというくらいに大きく表示される。

 そこには俺が受験するZEX学園の受験倍率が掲載されており、そこには二十倍と表示されている。


「に、二十倍……聞いたことねえよ。過去最高だろ」


 ZEX学園はとある事情により超特殊な教育機関だ。

 だから受験生は全世界から集まってくるし、中にはその国の威信を背負った超エリートや貴族、はたまた王族なんかも受けるっていう噂がある。

 だから受験者数は毎年一万人を超えるから会場は全国各地で分散されて設置される。


「っと……止まった?」


 そんなことを考えているとバスが急停車したので窓の外を見て見ると平民の俺なんかじゃ一生かかっても乗れないであろう高級車が横に止まっている。

 その後ろにもずらっと高級車の列が続いている。


「……ということはまさか」

『お客様にお知らせいたします。現在、Z族の車列を優先しております関係上、このバスは一時停車しております。ご迷惑をおかけいたしますが発車までしばらくお待ちください』

「おいおいおい……入試までに動くんだろうな」


 周りの人たちも遅刻するなど大事な会議が、などと落胆の意思をぼやきながらもスマホを取り出して会社やが学校にボソボソと電話をかけ始める。

 俺もかけたいのは山々だが今日が入試と言うこともあってスマホは家に置いてきてしまった。

 少し立ち上がってバスの前方を見て見るともうすぐそこに目的の停留所が見えており、歩いても十分間に合う距離だ。


「あ、あのすいません」

「どうしましたか?」

「俺、そこのバス停で降りるんですけど歩いて向かうんで降りさせてください」

「申し訳ありませんがZ族の方が通るのを確認してからの発車になります。それまでは警備の関係上、お客様を降ろすことは出来ないんです」

「そ、そんな……今日入試なんですよ」

「申し訳ありません」


 バスの運転手のおっちゃんは非常に申し訳なさそうな表情をしながら俺に頭を下げる。

 確かに運転手のおっちゃんは悪くないし、これ以上文句を言ったって事態が変わるわけでもない。

 俺はあきらめて座席に戻り、どんな奴が乗っているんだと思い、窓の外を見た。


「―――っっ」


 高級車の窓から見えた乗っている女性を見た瞬間、俺は言葉を失ってしまった。

 十五年という短い人生ながらも今までに見たことないほどに綺麗なその女性はじっと前を見ており、その目はどこか冷めたものを感じる。

 髪色は日本人では決してみられない地毛の赤髪であり、それを一か所で結んでおり、相当手入れをしているのか髪の毛はまっすぐに降りている。

 俺はその女性から眼を離せず、見続けていた。


「……」

「……」


 向こうも俺の視線に気づいたのかチラッと車内から俺を見つけ、少し目があったがすぐに女性は視線を前方へと戻してしまう。


「……いやいや……ど、どれだけ美人であろうと関係ない……俺が入試を受けられなかったら訴えてやる……ってそんなことできるわけないよな。なんせ相手はZ族だもんな」


 Z族―――その言葉が生まれてから早三十年ほどが経過するがこの日本という国を蝕む癌だと俺は認識している。

 今から五十年前、とある化け物がこの世界に現れた。

 その化け物は人類に牙をむき、貪りつくしていき、十年もたたないうちに全人口の一割を殺してしまうほどの最悪の化け物だった。

 人類は当初、最強を誇っていた重火器をふんだんに使って化け物掃討に打って出たがその数を減らすよりも人類が捕食される速度の方が早かった。

 そんな中、一人の大天才が化け物たちを討伐することができる兵器を生み出した―――それが今から三十年前の話だ。

 その兵器を繰り、化け物を倒し続けて人類絶滅の危機を回避した功労者たちを人々は第一世代(ファースト)と呼んだ。

 そしてその第一世代の息子・娘たちはその栄誉と栄光を引き継ぎ、今やZ族と呼ばれて昔の貴族ともいえる存在になった。


「とにかく……早く動いてくれよ~」


 第一世代のZ族はたまたまか知らないがZ族同士でしか結婚をしなかったゆえに第二世代から拗らせてしまい、第三世代となっている今ではその地位や権力を振りかざしてやりたい放題だ。

 国を動かす政治家はZ族ではない。

 だからZ族の力で化け物から救われている以上、反旗を翻すことなどできるはずもなかった。

 今や普通に働いているのが平民、人類を守る英雄がZ族とまで言われている。


「どんだけいるんだよ」


 永遠に止まらないんじゃないかと思うくらいに高級車が次々とバスの横を通り過ぎていき、それと同じように時間を流れていく。

 試験開始まで十五分を切ってしまい、徐々に焦りが出始めて心臓がバクバク鼓動を強く打つ。


「頼む……俺の人生がかかってんだよ」


 神にも祈る思いで一刻も早く高級車がすべて通るのを待つ。

 あと十分―――五分と試験開始までの時間が刻々と迫る中、ようやく最後の高級車が通っていき、ようやくバスが動き出して少しした先にあった停留所に止まる。

 俺は大慌てで清算を澄まし、バスから降りてもう見えている試験会場まで走る。


「間に合ってくれ!」


 時計を見る余裕もない俺はただただ間に合うように全力疾走する―――そして試験会場の入り口が見えてきてラストスパートをかけて全力で走る。

 ポケットから受験票を取り出して最後尾へと並び、乱れている息を整えながら時計を見ると入試開始の三分前を示していた。


「た、助かった~」


 続々と手続きが済まされているのか列はどんどん前へと進んでいくのでほっと一安心をしながらカバンから水を取り出して飲んでいると前の人たちが赤い受験票を出しているのが目に入る。

 俺のような一般受験者は白色の受験票だがZ族の受験者は赤い受験票が渡され、それを見せるだけで入試当日は様々な優遇が受けられる。

 たとえばその日はタクシーやバス、公共交通機関は無料になるし、飲食店だってどれだけ注文しようが料金は払わなくていい。


「凄いな……Z族って生まれた瞬間から優遇されてるもんな」


 そして遂に俺の前の人が受付を済ませて中へと入ったので俺も受験票を担当の人に渡そうとした瞬間、担当者の視線が俺の後ろへと注がれている。

 俺もそれにつられて振り返るとそこには先ほど高級車の車列にいたはずの赤髪の女性が立っており、俺と一瞬だけ視線を合わすがすぐに外す。

 彼女は何も言わず、当然と言わんばかりに俺の横を通り過ぎるとポケットから赤い受験票を差し出す。


「「「っっ!?」」」


 そして俺を含めたこの場にいる人間が気づいた―――彼女が腰に白を基調として赤いラインがいくつも入っている鞘を腰に下げていることを。

 このご時世、彼女のように武器を装備している人は世界から欲されている存在だ―――だから彼女は試験を受けるのも形式的なものであって合格は決まっているだろう。

 彼女の番になると担当の教師らしい人たちの姿勢が一気にピンと伸び、敬礼までしながら彼女をほとんど顔パス同然で会場内へと通す。


「すげぇ……Z族でも上位になるとあぁなるのか……あ、そうだ俺も」


 白い受験票を渡そうとするが担当者は踵を返してそのまま門を閉めようとする。


「ちょちょっ! お、俺は!?」

「君は……一般受験生だろ?」

「そ、そうですけど」

「だったらダメだ。もう入試は始まってるんだ。ZEX学園は遅刻者は受験できない決まりなんだ」

「いやいや! さっきの人は通したじゃないですか!」

「何を言ってるんだ? さっきの人はZ族の受験者だぞ? 優先して当然だ。それに君も見ただろ? 腰にぶら下がってた剣を……彼女が世界に求められてるの」


 何とか食い下がろうとするも彼女がZ族だから、という話しか飛んでこないのが目に見えてしまい、口つぐんでいると担当者たちはそそくさと門を閉めてしまう。


「お、お願いします! 俺の人生がかかってるんです!」

「ダメダメ。君、見たところ整備科志望でしょ?」

「そうです! だから」

「整備科なんて毎年、倍率二十倍超えてるんだよ? それに最近じゃ技術者も溢れてるって言われてるから君じゃ入れないよ」

「そ、そんな……」

「ま、神様のお示しだと思ってさ。ZEX学園受験は諦めなよ。滑り止めの高校は受けてるんでしょ?」


 この人の言うように滑り止めの高校からは既に合格は貰っているが俺の第一志望はZEX学園であり、ここ以外の入学は考えていない。

 だから今日のために一杯勉強してきたし、直前模試でだってA判定を貰ってるんだ。


「お、お願いします! こ、ここに来る途中でZ族の車列を優先してたからバスが遅れたんです! 俺の寝坊とかそんな理由じゃないんです!」

「毎年いるんだよ。君みたいに遅刻してくる一般受験生がさ」

「もっと早く来るべきだったわね。あなたみたいなただの人間はZEX学園には相応しくないのよ」


 俺の目の前にいる二人の担当者は心底、俺のような普通の人間を見下した表情を浮かべて俺を見下げると完全に門の鍵を閉めてしまう。

 そして雑談を交わしながら建物内へと入っていく。


「ちょっと! ちょっと待ってください!」


 俺の声は聞こえてるはずなのに二人の担当者は聞こえないふりでもしているのかこちらを一目も見ることなく建物の扉が完全に閉められ、門の付近には俺一人だけとなった。


「お、終わった……俺の人生」


 俺は膝から崩れ落ちるように地面に座り込み、涙を堪えることすらできずに俯いて涙を流した。


「なんで……こんなことに……」


 受験票を握り締めたまま拳が震える。何度も練習した筆記試験対策。徹夜までして覚えた専門用語。全てが無駄になった。


「これがZ族社会か……」


 確かにZ族は凄い―――地球の命運を握っていると言われているし、命だってかけて戦ってるのだってわかってる。

 でも普通の人間の人生を踏みつぶしてまであいつらを優先する意味はあるんだろうか。


「最悪だ……ごめん、姉ちゃん」


 そう呟きながら何気なく空を見上げた。

 俺の心情とリンクするかのように空を厚い雲が覆っており、一か所だけ千切れて―――


「ぇ?」


 雲の切れ目などではなく一つの大きな雲の中途半端なところにはっきりと肉眼でも見て取れるほどに大きな切れ目が入っている。

 不審に思い、雲がちぎれている場所をじっと見ていると何か黒い点のようなものが見えた。


「ん?」


 目を凝らしてよく見ていると徐々にその黒い点が大きくなっていることに気付く―――同時にそれがこちらに向かってきていることにも。


「ぇ……え……えぇぇぇぇ!?」


 驚きのあまり大声を上げながらその場から駆け出した瞬間、凄まじい爆音とともに衝撃波が俺の背中に直撃して体がふわりと浮かび、直後にコンクリートに体が打ち付けられる。

 強い衝撃と痛みに耐えながら後ろを見て見るともくもくと土煙が上がっている。


「な、なん―――ぅぁっ!?」


 突然、土煙の中から金属を激しく叩くような甲高い音が響き渡り、思わず体がビクつく。

 それが二度や三度では収まらず何度も激しく打ち付けるような音が響き渡る―――次の瞬間、土煙を叩き割る様に中から黒い何かが広げられる。

 それはまるで鳥が大きく翼を広げる格好にも似ている。


「うわっ!」


 直後、耳をつんざくような発砲音が鳴り響いたかと思えば地面が破裂するかのように破片が飛び散り、土煙が一瞬にして晴れていく。

 土煙が晴れ、目の前に現れた存在を見た瞬間、俺の時間の全てが止まった。

 漆黒の体を持ち、背中から二対の翼を生やしたそれは人間とは一切の共通点を持たない生命体―――そいつを俺は―――いや、全世界が知っていた。

 人類の存続を脅かすと言われ、人類を捕食する最悪の生命体―――そいつらの名は―――


「ゼ、ゼータ」

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