第一章 年老いていくこと 前編
プロローグ 告白、そして
高校二年の冬――
君子、君に告白したんだ。
あの日の雪は静かで、街の灯りがやけに遠く見えたのを、今でも覚えている。
それから、気づけば何十年も一緒にいた。
家を建て、息子が生まれ、孫が笑う。
長いようで短い、そんな日々だった。
でも、君は時々、悲しそうな顔をするね。
その理由が、僕にはまだ少し分からない。
大丈夫。
僕は、ずっと一緒にいるから。
たとえ、どんなに遠くに行っても――。
「おーい、それ取ってくれ。き……あれ? なんだっけ」
口の中で転がした言葉が、喉の奥で止まる。
名前が出てこない。いつも呼んでいたはずなのに。
胸の奥が少しざわつく。けれど、すぐに思い出す。
――君子。
そうだ、君子だ。
彼女が振り向いて笑う。
その笑顔を見て、ようやく胸のざわめきがおさまった。
「カバンを取ってくれ」
そう頼むと、君子は静かに手を伸ばしてくれる。
皺の刻まれた手のひらが、柔らかい光を受けてきらめいていた。
二人で玄関を出る。
外の空気は少し冷たくて、冬の匂いがした。
並んで歩く道は、何十年も前と同じなのに、どこか少し違って見える。
「今日は、いつもよりゆっくり歩こうか」
そう言うと、君子はうなずいた。
小さく、優しく。
その仕草が、どうしようもなく愛しかった。




