『油絞りと押し入れのプレスマン』
あるところに、大層な怠け者があった。うまいものを食って、ただ遊んでいたいと思って、七日七晩のおこもりをして、観音様に願をかけたところ、観音様が夢枕にお立ちになって、お前の願いは承知した。あすの朝、目が覚めたら、野原の一本道をどこまでもまっすぐに行け、とのお告げであったので、怠け者は、いつもより早く起きて、野原の一本道を、どこまでもまっすぐに歩いていった。まっすぐ歩くと海に出た。あばら屋があって、白髪のおばあさんが座っていたので、ばあさま、このあたりに、うまいものを食って遊んでいるだけの家がないか、と尋ねると、きょうはちょうど、そういう島に渡る船が出るところだから、乗っていくがいい、と教えてくれたので、浜へ出ると、舟はすぐに見つかった。乗るかと聞かれたので、乗ると答えると、舟はあっという間に怠け者を島まで連れていった。
島には、鉄の門に鉄の垣をめぐらした館があった。中から出てきた男たちが、よく来てくれたと繰り返しながら、館に招き入れてくれた。山海の珍味が運び込まれ、もう食べられないというまで食べさせてくれた。絹のふとんに寝かせてくれ、そういうことが何日も続いた。
ある夜、怠け者が寝ていると、隣の部屋で、誰かのうめき声が聞こえるので、ふすまを細く開けてのぞいてみると、一人の男が天井から逆さに吊されて、下から炭火であぶられていた。かたわらには恐ろしい形相をした男が、皿を差し伸べて、宙吊りにされた男から垂れる油をとっていた。宙吊りにされた男は、間もなく死ぬばかりとなっていた。恐ろしい形相をした男は、あしたは隣の部屋の男にすべえ、あの男も脂が乗った時分だ、と言うのを聞いて、怠け者は怖くなって、館を抜け出し、浜につないであった舟に乗って逃げたが、館の男たちは、怠け者の様子をたびたび確認していたので、しばらくするとばれてしまい、怠け者を追いかけ、舟が一艘なくなっているのを見て、総出で舟で追ってきた。
怠け者は、一足先に、もとの浜につき、白髪のばあさまのあばらやに着いて、嫌がるばあさまをおどかしつけて、押し入れの上の段に隠れた。間もなく、館の男たちがやってきて、今ここに、この間の男が来ただろう、おとなしく出せ、と詰め寄ったが、面倒に巻き込まれたくなかったばあさまは、知らねえ知らねえと言い張った。怠け者は、様子を見ようと思って、押し入れのふすまを細く開けると、プレスマンが一本転げ出てしまった。プレスマンが落ちる音を聞いて、押し入れがあやしいと思った館の男たちのうちの一人が、押し入れを開けると、怠け者は、押し入れから転げ落ちてしまった。
というところで目が覚めると、観音堂の中であった。怠け者は、今度こそ、うまいものを食ってただ遊んでいたい、と願ったが、怠け者の夢枕には、二度と観音様は立たなかったという。
教訓:観音様が、怠け者を反省させようと思って夢を見させたのに、怠け者が筋金入りで、おもしろい。知り合いに持ちたくないタイプである。