87 最後の難所、要塞都市ビランジェ1
僕たちは全軍で街道を進んでいた。
この道の先に小高い丘陵があり、そこに要塞都市ビランジェが存在する。
対物理、対魔法の両方に強固な防壁を持ち、常駐している守備部隊も精強そのもの。
まさに難攻不落の要所だ。
けれど、ここを突破せずして、僕たちの勝利はあり得ない。
「いくぞ――」
僕はゴクリと息をのんだ。
ビランジェを抜ければ、後は王都まで一直線。
この戦争の勝利が見えてくる――と、考えていたとき、緊急の報告が入ってきた。
「クレスト殿下、斥候兵からの緊急報告です!」
報告に来た兵士は焦りの色を隠せない。
「王国軍に大規模な動きが確認されました! ビランジェからこちらに向かって進軍中!」
「大規模な動き――」
僕は眉をひそめた。
「進軍してくる数は、どれくらいだ?」
「ほ、報告によると……30万は下らないかと……」
こちらの全軍と同じ数だ。
要塞都市にたてこもるのではなく、こちらの全軍進撃を受けて、正面から勝負手を打ってきた、ということか。
「指揮官は分かるか?」
「先陣を切っているは、王国が誇る女将軍――」
兵士が告げる。
「ナナハ・リゼだそうです」
「ナナハ……か」
僕の脳裏に、ロッケイルの戦いで見た女将軍の顔が浮かんだ。
「しかも、彼女の直属の配下である【七騎槍】も同行しているとのこと」
【七騎槍】。
ナナハ・リゼの腹心であり、王国でも指折りの手練れたちだ。
いずれも、すさまじい武勇を誇る猛者ぞろいと聞く。
「本来のナナハの軍勢が向かってきているわけか――」
僕が王国の王子だったころ、彼女の名声はよく知っていた。
【白き疾風】ナナハの率いる軍勢は、巧みな用兵と高速の進撃で帝国の主力部隊を何度も撃退してきた。
王国にとっては勝利の女神とも言うべき名将だけど、僕らから見れば厄介な敵だ。
ロッケイルでは退けたが、あのときは【七騎槍】はいなかった。
今度は、どうなるか――。
僕たちはいったん進軍を止め、軍議に入った。
「相手の数は30万。こちらと同等の戦力です。おそらく総力戦になるでしょう」
館の一室に集めた指揮官たちの前で、僕は説明した。
「30万……メルディアが一度の戦いで、これほどの大軍を繰り出したことは過去になかったはず」
ドルファがうめく。
「向こうも最大級の警戒をしている証でしょうな。ここで我々を止めなければ、勢いづいて一気に王都まで侵入されかねない……と」
「ならば、ここで敵を退けられれば、我らの勢いはさらに増すということ」
「好機と言えますな」
と、強気な者たちもいれば、
「ですが、相手の数が多い。しかもメルディアには魔術師も多くおります」
「かの国の魔法師団は厄介ですぞ。魔術師の数、質ともに我らを上回っております」
と、弱気な意見も散見される。
確かに――メルディアの魔法師団は厄介だ。
大軍同士の戦いでは特に大規模な破壊魔法が脅威となる。
おそらく敵はこちらの密集部分に、それを連発してくるだろう。
もちろん、こっちも同じ戦法で対抗するにしても、数や質を考えれば、押し切られる可能性が高い。
となれば――、
「大規模破壊魔法に関しては問題ありません」
僕が宣言した。
「殿下……?」
「僕には魔法を吸収する【魔眼】があります。それを最大限に活かせば、メルディアの魔法師団の脅威はなくなるでしょう」
「ち、ちょっと待ってよ、クレストくん!」
フラメルが声を上げた。
「君の【吸収の魔眼】にはリスクがあるはずよ。そんな大規模魔法を吸収したら――」
「僕の能力は以前より上がっている実感があります。問題ありませんよ、姉上」
僕は不安げな彼女を安心させるために、強気な態度で言った。
とはいえ、根拠のない強がりじゃない。
僕の中に宿る『魔王の力』――【闇】そのものは徐々に増大しているのを感じる。
そして、この【闇】は【魔眼】の力自体の根源のようだ。
【闇】が強まっているなら【魔眼】の能力自体も高まっているはず――。
「……あたしがサポートする。けど、無茶はしないでよ。レイガルドのときみたいに君の【吸収の魔眼】が暴走することだってあるかもしれないでしょ?」
「もちろん、そこは常に注意しています。姉上が支えてくださるなら万全ですよ」
僕はフラメルに微笑んだ。
「そうだね……あたしが絶対に君を守る」
彼女は決意のこもった瞳で僕を見つめた。
「無論、我ら魔法師団も総力を結集します」
と、魔法師団長が言った。
「クレスト殿下の――総司令官閣下が敵の魔法を封じてくださるなら、こちらの攻撃魔法で敵軍を薙ぎ払ってみせましょう」
「魔法攻撃で敵陣をある程度崩すことができれば、後は我らの出番ですな」
と、ドルファ。
「一気呵成に蹴散らしてみせます」
「ああ。これだけの大軍が相手だと、さすがに僕が先陣で斬りこんで一人でなんとかする――というのは無理だ。こちらも総力を挙げ、敵を討つ」
僕は全員を見回して言った。
「皆の力を貸してほしい」
と、一礼する。
おおおおおおおっ……!
指揮官たちが一斉に声を上げた。
勝利を誓うような、雄々しい咆哮だった。





