86 【七騎槍】集結(ナナハ視点)
要塞都市ビランジェ。
その司令官室で、女将軍ナナハは重苦しいため息を吐き出した。
帝国軍の進撃は、予想をはるかに上回る速さだった。
彼らが王国まで攻め入るルート上には三つの難所がある。
そのうちの二つ――アストリア要塞に加え、ルドーレ峡谷も突破されたということだ。
帝国最強と呼ばれる【黒騎士】クレストによって。
「戦士としてだけでなく、指揮官としても傑物ということか……化け物だな」
かつて、ロッケイルの戦いで彼女はクレストに敗北した。
あの時の屈辱は今も胸の奥に澱んでいる。
「だが、ここビランジェは抜かせん」
ナナハは顔を上げた。
部屋には、七人の戦士たちが集結している。
彼女が最も信頼し、王国最強の武力を誇る七人の精鋭たち。
その名も――【七騎槍】。
「よく集まってくれた」
ナナハは彼らを見回した。
「お前たちが一堂に会するのは五年ぶりか……壮観だな」
ニヤリと笑う。
「ナナハ将軍、挨拶は抜きだ」
真っ先に口を開いたのは、長い黒髪を後ろで束ねた美しい少年だった。
年は十五、六といったところか。
【鋼鉄槍】のレストーニ。
勝ち気で一本気、後先を考えない熱血漢だ。
「俺は早くあの【黒騎士】とやらを突き殺したくてウズウズしてるんだ。噂じゃ随分と派手に暴れてるらしいな」
「相変わらず血の気が多いのね、坊やは」
それをたしなめるように、気だるげな声が響いた。
声の主は、地味な服装に身を包んだ平凡な容姿の中年女性だ。
【青銅槍】のロザーナ。
「将軍閣下の御前だ。無用な私語は慎め」
と、今度は高貴な雰囲気を漂わせた端正な少年が告げる。
【白銀槍】のリグ。
名門貴族の子息でありながら、自ら志願して槍を取った変わり種だ。
「僕らが示すべきは王国への忠誠のみ。個人的な感情は控えてほしいね」
「はいはい、ロザーナは当たり前のことしか言わないし、リグはいっつも堅苦しいんだよな」
レストーニが不満げに口を尖らせる。
「忠誠心なんてどうでもいいわ。私はね、報酬さえ弾んでもらえればいいの」
クスリと笑ったのは豪奢な金色のドレスアーマーに身を包んだ、妖艶な美女だ。
【黄金槍】のエレノア。
「今回の【黒騎士】の首、相当な値がついているんでしょう?」
「ああ。陛下より特別報奨金が出ている」
エレノアの問いに、ナナハがうなずいた。
「まあ、素敵」
「ふん、守銭奴が」
蔑むように言ったのは、身長2メートルを超える巨漢の中年騎士だった。
【金剛槍】のガルドーバ。
その単純明快な性格は部下たちから慕われているが、精密な作戦行動には向いていない。
「忠誠も金もいらないし、余計な仲たがいもうっとうしいわね。私は――帝国の連中を皆殺しにできればそれでいい」
暗い表情で語る美しい少女――【魔銀槍】のミリム。
「私の恋人を殺した帝国の連中を殺して殺して殺して殺しまくる――それだけでいい」
「戦う理由はそれぞれだ。だが、我らの目的は一つ――勝つこと。ナナハ様に勝利を捧げるという一点において、我ら【七騎槍】の結束が揺らぐことはあるまい」
歴戦の武人だけが持つ、静かで重々しい威圧感をまとった中年男。
【神鋼槍】のディオス。
七騎槍のリーダー格であり、実力においても最強と謳われる男だ。
「ふふ、お前たちは五年ぶりに集まっても相変わらずバラバラだが――ディオスの言う通り、その結束を私は信頼している。その強さもな」
ナナハが満足げに微笑んだ。
「ただ、相手は六神将を二人も討ち取った【黒騎士】だ。油断は死を招くということを心せよ」
と、全員を見回す。
それから、彼女は長大な机の上に広げられた地図に駒を置いていった。
それぞれが彼女自身と【七騎槍】を、そして敵であるクレストを示した駒。
「奴の最大の特徴は、人間離れした身体能力と、多様な能力を持つ【魔眼】だ」
ナナハが説明する。
「対象を石化したり、呪詛を送ったり、あるいは即死させるものもあるという。その一方で魔法攻撃などを吸い取って無力化、さらに自分自身の力を強化できるとか――」
「まさに無敵ですな」
うなずくディオス。
「正面からぶつかれば、まず負ける」
ナナハは断言した。
「ロッケイルでの戦いにおいて、私はなすすべがなかった」
唇をかみしめる。
「だが、策はある。お前たちがそろった今なら、奴に対抗し、奴を滅ぼす策が――な」
「クレスト・ヴァールハイト……」
会議が終わり、一人残されたナナハは部屋の中でつぶやいた。
ロッケイルでの戦いは、今も忘れられない。
まるで魔王のごとき強大さを誇る、最強の黒騎士――。
だが、ナナハは恐れない。
「たとえ相手がどれほど強大でも――私には守りたいものがある」
この国で平和に暮らす人々を。
この国に灯る無数の幸せを。
帝国に蹂躙させるわけにはいかない。
「だから――勝つのは私たちだ」
決戦の時は、近い。
「私の知略と、七騎槍の武勇……その身で味わうがいい」
ナナハは覚悟を決め、マントを翻して部屋を出た。
彼女を待つのは、修羅の戦場――。
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