84 最後の難所に向けて(後半リゼッタ視点)
要塞都市ビランジェ――それが三つ目の難所だ。
ルドーレ峡谷を抜けた僕たちは、そのビランジェを臨める小高い丘の上に野営していた。
これから三日の休息の後、全軍による攻撃を予定している。
「いよいよ、ここまで来た――」
その日の夕刻、僕は丘の一番高い場所からビランジェを見下ろしていた。
この要塞都市を突破すれば、もう大規模な敵勢力も難攻不落の要所も存在しない。
後は補給路を確保しつつ、残存勢力の抵抗を排除しながら突き進むだけだ。
メルディア王都まで一直線に攻め入ることは、それほど難しくないだろう。
ただし、僕たちの軍勢が大きく損耗したり、敵に体勢を立て直す時間を与えてしまえば、話は変わってくる。
だからこそ、ビランジェを迅速に攻め落とし、その勢いのまま一気に王都まで進行する必要があった。
「くっ……」
その時、僕は体がふらつくのを感じた。
前回の戦闘で【吸収の魔眼】に加え、【呪怨の魔眼】もかなりの高頻度と高出力で使用してしまった。
その反動は、小さくなかったようだ。
「う……ぐぐ……」
頭の奥が痛み始めた。
それはすぐに割れるような激痛になり、意識が薄れていく。
魔眼の力を使い過ぎた代償に、脳内が悲鳴を上げているかのようだった。
「いや、報い……なのかな」
僕の判断が甘く、多くの兵が失われた。
聖乙女たちも大勢死んでしまった。
あのとき、敵が仕掛けた魔導兵器に僕がもっと注意して、気づいていれば――。
けれど、後悔したところでもう遅い。
失われた命は帰ってこない。
「クレストくん……!?」
と、陣幕が開き、誰かが入ってきた。
「うう……」
ぼやける視界に緑の髪をした美しい女性の姿が浮かび上がる。
「フラ……メル……?」
「どうしたの!? 顔色が悪いよ!」
駆け寄ってきたフラメルが僕を横から抱き支えた。
「……魔眼を使い過ぎた反動が来たみたいです」
僕は弱々しい声で説明した。
「無理するから……でも、君が無理しなければ勝てなかったね」
「フラメルだって限界までやってくれましたよ」
僕は無理矢理笑みを浮かべ、彼女をねぎらった。
「ふう……」
しばらく休むと、頭痛が収まってきた。
フラメルが側について治癒魔法をかけてくれた効果もあるんだろう。
「さすが【癒しの聖女】ですね。楽になってきました」
僕はフラメルに礼を言った。
「もう少し側に居るね」
フラメルはまだ心配そうだ。
「いつも……あなたが側にいてくれますね」
「えっ」
「僕が苦しいときに、気が付けばフラメルが側で支えてくれている……だから、ここまで戦うことができたんだと思います」
「クレストくんは色々なものを背負っているから。苦しみを、過酷な運命を……あたしがいることで、少しでもそれが和らぐなら……」
言いながら、フラメルは僕を抱き締めてくれた。
ふわり、と柔らかな唇が僕の唇に触れる。
「少しでも、癒されるなら……」
「もう十分に癒されていますよ」
僕は突然のキスに心をときめかせながら微笑んだ。
「今回の戦いがすべて終われば……帝国も平和になるんでしょうか?」
遠い目になりながら、僕はつぶやく。
「……そうだね。戦後処理や色々な交渉事はあるし、小競り合い程度の反発は残るだろうけど、大規模な戦いはなくなると思う」
言って、フラメルはもう一度僕に唇を重ねた。
「ねえ、クレストくん」
濡れたような瞳が僕をまっすぐ見つめている。
「平和になったら……一緒に暮らしたい」
一緒に――。
「はい、二人で静かに、穏やかに」
僕はうなずいた。
力強く、希望を込めてうなずいた。
「ずっと二人で暮らしていきたいです」
「えへへ、新婚夫婦みたいだね」
フラメルがはにかんだ笑みを浮かべた。
新婚夫婦……か。
僕はその言葉に胸を高鳴らせた。
「約束だからね……!」
言うなり、またフラメルがキスをしてきた。
何度も、何度も。
「気持ちが……止まらなくなっちゃった」
言いながら、僕を押し倒してくる。
「僕も――」
そっと彼女の体に手を伸ばした。
お互いの視線が絡み合い、熱い吐息が触れ合った――。
※
SIDE リゼッタ
「気持ちが……止まらなくなっちゃった」
「僕も――」
陣幕の向こうから、そんな声が聞こえてきて、リゼッタは足を止めた。
いけないと思いつつ、そっと幕の隙間から中をうかがってしまう。
そこには唇を重ね合うクレストとフラメルの姿があった。
愛おしそうに互いを見つめては、何度となく口づけを交わす二人は――まぎれもなく恋人同士だった。
リゼッタは、胸の奥が締め付けられるのを感じた。
かつての教え子であり、可愛い弟だと思っていた少年。
フラメルとの関係については事前にクレストから聞いていたとはいえ――こうして目の当たりにすると、その衝撃度はまったく違っていた。
いつの間にか彼は一人の男として成長し、愛する人を見つけていたのだと――あらためて実感した。
「……私の出る幕はないな」
リゼッタは切なげにつぶやいた。
師匠として、姉代わりとして……彼の成長を見守ることはできる。
けれど、彼の隣に立つことはできない。
クレストの心を独占しているのは、自分ではない。
「私は、お前を……お前と……」
つぶやき、ぎゅっと目を閉じた。
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