77 心に、勇気を
けれど、僕はその力をすぐに引っ込めた。
「……駄目だ、もしもやりすぎてしまったら」
どくん、どくん、と心臓が早鐘を打つ。
ダリアーロ攻略戦の時はフラメルのサポートもあって、この力を使って大勝利を収めた。
けれど、その一回だけで魔王の力を制御できるという自信を得たわけじゃない。
やはり――僕の中には恐怖心がある。
自分に宿る【闇】を解放する恐怖が。
「……今、何か妙な力を使おうとしたな?」
先生は剣を収めた。
「何か悩んでいることがあるのか? その力で」
と、優しく微笑む。
「言ってみろ」
「えっ……」
「私は、お前の師匠だぞ。お前が悩んでいるなら、私が導いてやる」
頼もしい笑顔に、僕は救われるような気持ちになった。
「……僕は、この力を使うのが怖いんです」
僕は正直に打ち明けた。
フラメルの前では強くありたいという気持ちがあるから、彼女にはここまで素直に伝えられないけど、先生の前なら正直に言うことができた。
たぶん、この世界で唯一、僕が弱みを打ち明けられる人だから。
「僕に儀式を施した連中は、僕を『人造の魔王』と呼んでいました。以前、この『魔王の力』を制御できずに暴走し、味方まで傷つけてしまったことがあります。ダリアーロの戦いでは上手く制御できましたが、今後もそれが続くとは限りません」
「そうか」
先生は静かに僕の話を聞いてくれている。
「それに……」
唇を噛みしめ、僕はさらに続けた。
「この間、嫌な夢を見ました。僕がこの力を暴走し、多くの人を傷つけ、町を滅ぼし……」
体が震える。
恐怖がさらに膨れ上がる。
「フラメルまで……この手にかけました……」
「……クレスト」
先生が僕の名前を呼び、優しく抱きしめてくれた。
「ずっと不安を抱えて戦ってきたんだな。愛する人まで、その手にかけてしまうかもしれない、と」
「僕は……僕は……」
言葉が、出ない。
「いいんだ。私の前では弱さを出しても」
先生が僕の髪を撫で、額に優しく口づけしてくれた。
「私はお前の姉代わりだぞ。弟はお姉さんに甘えていい」
「先生……」
僕はその言葉に甘えさせてもらうことにした。
しばらくの間、先生の胸に頭を預け、抱き合い、癒されていた――。
「……すみません、剣の稽古をつけてもらうはずだったのに、途中からはただの悩み相談になってしまって」
「ふふ、弟子のフォローは師匠の役目さ。遠慮などするな」
先生が笑った。
「それにフラメル殿下の前ではいい格好をしたいだろう?」
「ええ、まあ……」
僕は照れながらうなずいた。
「お前の『魔王の力』とやらが、どんなふうにお前を蝕むのかは、私には分からない。ただ、一つだけ言えることはある」
先生は真剣な顔になり、僕を見つめる。
「お前を愛してくれる者、信じてくれる者――それらすべてを守るという強い意志が、きっとお前を【闇】から守ってくれる。その意志がある限り、お前は決して魔王になどならないさ」
「先生……」
「私も、お前を信じている。忘れるな」
先生が僕の肩に手を置く。
「だから、恐れるな。お前は、お前自身とお前の周りの人間を信じてタタカエ。大丈夫、お前は強い。必ず【闇】に打ち勝てるさ」
「……先生」
「はは、気休めかな?」
「いえ、その言葉は……僕に勇気をくれます」
僕は顔を上げて、先生を見つめた。
「ありがとうございます、先生」
それから数日――。
一部の兵をダリアーロ復旧のために残し、残る全軍で次の都市へ向かうことになった。
進行ルート沿いには三つの重要地点がある。
まず帝国と王国の国境沿いにあるルストリア要塞。
次に険しい山岳地帯に存在するルドーレ峡谷。
最後は要塞都市ビランジェだった。
そこを超えると、王都まで一直線だ。
僕らは一週間ほどの工程を経てルストリア要塞に差し掛かり、攻略戦が始まった。
ここは堅牢な城壁に守られ、さらに大勢の魔術師を常駐させており、こちらが近づく前から次々に魔法攻撃を放ってくる。
こちらの反撃は魔導防御を何重にも施された特殊防壁に跳ね返される。
だけど――、
「あの東門の左端に、わずかな亀裂がある」
僕は【鑑定の魔眼】でそれを見抜いていた。
いくら堅牢な城壁でも長年の戦いで損傷が蓄積されている。
視認しただけで見抜くことはまず不可能だけど、僕の【魔眼】はそれを容易に可能とする――。
「一斉攻撃だ。僕が指示した場所にすべての攻撃魔法を集中させろ」
僕の指示の元、こちらの魔術師たちが同時に攻撃魔法を放った。
光の矢、炎の槍、雷の剣、風の刃――。
特に狙撃に適した攻撃魔法が、その亀裂めがけて殺到する。
きゅごごごごごごごおおおおおおうっ!
すさまじい爆音が鳴り響いた。
同時に破砕音と瓦礫の落下音も。
「――よし」
目論見通り、こちらの一斉発射によって城壁の脆くなっていた部分が砕けたようだ。
「奴らの要塞は防御力が半減した。魔法師団は引き続き、破壊された箇所に向けて一斉攻撃。騎士と歩兵は同じ個所ni向けて進軍――あの場所を突破口にして、一気に敵要塞を攻略せよ」
僕は淡々と指示を出した。
うおおおおおおおおおおおおっ!
自軍の士気が一気に上がるのを感じる。
堅牢な城も、わずかなアリの一穴によって全体が崩れるという――。
敵側の明確な弱点を提示したことで、自軍全体に『これで勝てる』という空気が漂っていた。
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