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73 虚無の皇女(レミーゼ視点)

 SIDE レミーゼ



 レミーゼ・ヴァールハイトの心は常に虚無で満たされている。


 ただし、生まれときからそうだったわけではない。


 幼いころ、母である皇后に施された【魂の改造】が原因だった。


 母は皇族内での地位を確固たるものにするため、男子を出産することを強く望んでいた。


 だから生まれてきたのが女子のレミーゼだったとき、強い失望を抱いたのだと聞いていた。


 以来、母は自分に愛情を向けてくれたことはない。


 それどころか、母はレミーゼに超古代文明の技術を応用した【魂の改造】という術式まで施したのだ。


「あなたには、感情はいらない。ただ、冷静に物事を判断する力だけがあればいいのです」


 母の声が、今も心の片隅で響く。


 その結果、レミーゼは他者の心を冷静に分析し、常に最善の選択をすることができるようになった。


 しかし、それは大きな代償を伴うものであった。


 彼女は愛されることへの期待を失い、誰かを愛する能力も失ってしまったのだ。


 ヴァールハイトは男子にしか皇位継承権がないため、レミーゼは皇帝にはなれない。


 だからこそ、レミーゼ自身の能力で皇族内に確固たる地位を築かせる――それが母の考えだったようだ。


 そしてレミーゼが皇族内で存在感を示せば、それに合わせて自分の地位も確固たるものになる。


 母はその考えのもと、レミーゼに徹底した英才教育を施した。


 剣術、魔法、勉学、礼儀、美容――あらゆる面で完璧になるように求められた。


 母としての愛情など、ひとかけらも注いでもらえなかった。


 レミーゼは、どこまで行っても母の道具だった。


 心からいっさいの感情が失せた、虚無の自分――。


 しかし、その虚無の奥底に一つだけ残された意志があった。


 それは、自身の心を取り戻したいという、燃えるような渇望だ。


 感情を取り戻すため、彼女はひそかに超古代文明の技術を研究し始めた。


 感情を操る魔法や、精神に干渉する秘術。


 その研究は、やがてメルディア王国の天才魔術師イオ・ザフィールとの繋がりを生んだ。


 彼の存在は、レミーゼの心に一筋の希望を与えることになる――。




 レミーゼがイオと通じたのは、二年以上前のことだ。


 自らが抱える心の虚無を埋めるために超古代文明の魔法技術を独自に調べている途中、彼と出会ったのだ。


 イオはすでに――帝国に何人もの内通者を抱えていた。


 ただ、そのこと自体はレミーゼにはどうでもよかった。


 やがて内通者たちの導きで、この国はメルディアの脅威にさらされるかもしれないが、彼女は何の感慨も抱かなかった。


 そもそも『感慨』など、彼女の心には存在しないのだ。


 レミーゼが思ったのは、彼らと通じれば超古代文明について、もっと知ることができるだろう、ということだけだった。


 すぐにレミーゼはイオたちの仲間になった。


 彼らは『魂の移植』とそれによる『人造の魔王』の創出を目的とした儀式を研究していた。


「この研究成果があれば、改造された私の魂を元の状態に戻せるかもしれない」


 レミーゼはそう考えた。


 やがて彼女はイオと共謀し、大胆な計画を実行に移すことになった。


【黒騎士】と呼ばれる帝国の英雄――第三皇子クレストを利用し、魔王の力に匹敵する兵士を生み出すこと。


【魔王兵器】と呼ばれるその実験第一号だ。


 彼女はイオに協力し、半年ほど前にクレストを誘い出した。


 そして、特殊な呪具で彼を昏睡(こんすい)状態に陥れ、魂の移植儀式に捧げたのだ。


 クレストの体には、メルディアの忌み子アレスの魂が移植され、彼は最強の剣技と【魔眼】、そして【闇】をやどした人造魔王の試作品として覚醒した。


 もっとも実験の全てが順調だったわけではなく、クレストはその後、半年ほど目覚めなかったわけだが――。


 ともあれ、レミーゼは彼が戦場で振るう力を観察し、その結果をイオに提供し続けた。


 クレストの戦闘情報をもとに、人造魔王に関する研究は飛躍的に進んだ。


 そして、今――。




 レミーゼは極秘裏に帝国を出ると、メルディア王国の地下にある秘密の研究所に赴いた。


「ようやく来ていただけましたね、レミーゼ殿下」


 そこに待っていたのは六神将の一人、【氷嵐】のイオ。


「いよいよ、成果を試すときが来ました」


 レミーゼが淡々と語る。


 常に虚無を宿している瞳に、今はかすかな熱情がこもっていた。


「私の魂を正常化させ、私が心を取り戻すために――実験を、始めましょう」

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敵国で最強の黒騎士皇子に転生した僕は、美しい姉皇女に溺愛され、五種の魔眼で戦場を無双する。


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