72 僕が背負うもの、目指すもの
「話したい事というのは、なんだ?」
リゼッタ先生がたずねる。
「何から話せばいいのか……そうですね、まず僕が『今の僕』になった経緯からお話します。このことは他に一人しか知りません……どうか、先生の胸の内だけに留めてください」
「約束しよう」
うなずくリゼッタ先生。
僕は真剣な顔で彼女を見つめ、それから話し始めた。
『アレス』だった僕が処刑されたこと。
『クレスト』として転生したこと。
そして、その後に繰り広げた戦いや、その中で徐々に明かされていった転生の真実――。
そのすべてを、包み隠さずに話していった。
「魂の移植儀式……か」
すべてを聞き終えたリゼッタ先生は深々とうなずいた。
「詳細はつかめていませんが……僕が処刑された後に、帝国と王国の者たちが共謀し、本来のクレストの肉体に僕の魂を移植した。そう考えています」
説明する僕。
「僕が『クレスト』として目覚めた場所も、帝国の魔導研究施設だったようです。そこには、魂の移植に関するおぞましい記録がいくつも残されていました」
「禁忌とされる文明だからな」
リゼッタ先生は遠い目をして語った。
「私は諸国をめぐる中で、それらの『遺産』をいくつか目にしたことがある。いずれも……人知を超えた力を持つ魔物であったり、兵器やアイテムであったり――」
「僕はその中の一つに過ぎない、ということですか……?」
僕は眉根を寄せてうめいた。
「……夢で見た彼らはそう言っていました。『魔王を、人為的に作り出す秘術』と」
「魔王……」
リゼッタ先生も険しい表情になった。
「その身に【闇】を宿し、人から魔族の王へと進化する――とある国で、そんな超古代の神話を聞いたことがあるが……」
「僕も、その神話に出てくる魔王に等しい存在なんでしょうか……」
魂の移植儀式の記録にも『人造の魔王の完成』と書かれていた。
そして僕が暴走したとき、圧倒的な力が内側からあふれ出し、【魔眼】も金色に輝いていたようだ。
自分は人間なのか、魔王なのか。
それとも――誰かに作られた、ただの兵器に過ぎないのか。
「いつか自分という存在が消え、人造の魔王として暴走する日が来るんじゃないか、と……僕は恐れています」
僕が吐露した不安を、リゼッタ先生は静かに聞いてくれた。
フラメルの前では弱みを見せたくない気持ちがあるけど、先生の前だと自然と自分の弱さを出すことができる。
「お前が魔王のごとき存在に変えられているとして……お前は、これからどうしたいんだ?」
リゼッタ先生がたずねた。
「元のアレスに戻りたいのか? その身から【闇】を除去したいのか? それとも――」
僕は少し考えた後、答えた。
「最初のころはメルディアに対する恨みがありました。自分を理不尽に処刑した父や兄姉たち。そして僕を嗤っていた民衆を、一人残らず滅ぼしてやろう、と」
そう、僕の初陣ともいえる戦いでは、メルディアの非道な行いをいくつも目にした。
そして今までの人生で感じたことのないような怒りを覚え、王国兵や魔術師たちを殺していった――。
「同時に、虐げられる帝国の民たちを見て、その民を守りたい気持ちが芽生えました。そして今は――」
僕は顔を上げる。
「大切に想う女性が、います。だから、彼女と一緒に歩む未来のために戦いたい。平和を勝ち取り、幸せに生きるために」
「……そうか、姿や立場は変わっても、お前はやっぱりお前だな」
全てを聞き終えたリゼッタ先生は、静かに僕を抱きしめた。
ああ、リゼッタ先生――。
気持ちが癒されていくのを感じる。
今まで抱えていた苦しみや、未来に対する想いを素直に告白したことで気持ちがすっきりと浄化されたような心地だった。
「よく、ここまで一人で頑張ったな」
リゼッタ先生が優しい笑みを浮かべた。
「一人じゃありませんよ」
僕も笑みを返す。
「さっきも言ったように、僕には支えてくれる女性がいるんです。それに、戦友たちもいます」
胸を張って、そう告げる。
「アレスだったころには築けなかった信頼と、仲間たちがいるんです」
「――そうか」
リゼッタ先生は嬉しそうにうなずいた。
「お前が処刑されたと聞いたとき、本当に悲しかった。だが、生きていてくれて嬉しいよ」
「ありがとうございます、先生」
僕にとって、リゼッタ先生は実の姉以上に姉のように慕っている女性だ。
その彼女と再会できて、こうして語り合うことができて本当に嬉しい。
僕たちはしばらくの間、抱き合い、再会を喜び合ったのだった。
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