71 リゼッタとの再会
リゼッタ先生は僕の正体を見抜いている……!?
どういうことだ――。
驚く僕と、リゼッタ先生の鋭い視線がぶつかり合う。
どうする? 本当のことを言うべきか、それとも――。
僕は一瞬の逡巡の後、すぐに結論付けた。
――先生なら、信頼できる。
メルディア王国でアレスとして生きていたころ、唯一、僕が信頼していた人だ。
家族以上に……いや、家族なんて誰も信じられなかった。
結局、僕に一番親身になって、家族以上に『家族』として接してくれたのがリゼッタ先生だ。
なら、この人に打ち明けてみよう。
「お久しぶりです、リゼッタ先生」
僕は彼女に歩み寄った。
「……アレスです」
「……!」
リゼッタ先生の目が見開かれる。
「……やはり、そうか」
驚きの表情はすぐに納得したようなそれに変わった。
まるで以前から僕が『アレス』だと気づいていたような反応だ。
「ヴァールハイトの王都で一度、お前を見かけたんだ」
リゼッタ先生が僕を見つめる。
「その時に私を見て『先生……!?』とつぶやいただろう?」
「あ……」
そういえば、思わずつぶやいてしまった気がする。
それを聞き逃さなかったのは、さすがの注意力と観察眼だ。
「他にも気になることはあった。お前は、以前は使っていなかった【魔眼】を使うようになったそうじゃないか。まるで『アレス』のようだと思っていたのさ。それに加えて、帝都で会ったときのつぶやきを合わせ――私の中で疑念が生まれた」
リゼッタ先生が説明する。
「そして今、はっきりと確信に変わった。私を見るお前の目は――メルディアで剣を教えていたあの頃のままだ。姿は変わっても、澄んだ目は変わっていないな、アレス」
「……クレストです」
僕は微笑した。
「アレス・メルディアの名は既に捨てました。僕はクレスト・ヴァールハイトとして生きていく――そう決めたんです」
「……そうか。ならば、私もお前をクレストと呼ぼう」
と、
「殿下、いかがなさいましたか?」
振り返ると、ブリュンヒルデや数人の女騎士がこちらに歩いてくるところだった。
女騎士たちはいずれもブリュンヒルデ直属の配下で、この間のダリアーロ攻略戦でも見事な働きを見せた手練れたちだ。
「こちらの女性は?」
ブリュンヒルデは眉を寄せた後、ハッと何かに気づいたような顔になった。
「――まさか、リゼッタ殿では」
「ん、私をご存じか」
「諸国を流浪する高名な騎士殿ですから」
ブリュンヒルデと女騎士たちがそろって一礼する。
リゼッタ先生の知名度は、武人たちの間では抜群だ。
「クレスト殿下とは旧知の仲でな。こうして再会を喜んでいたところだ」
と、リゼッタ先生。
……まあ、嘘は言っていない。
「彼女が言った通り、僕らの旧来の友人です。ブリュンヒルデは巡回ですか?」
「はい、未だ町の治安は不安定ゆえ――」
「助かるよ。君も、君の部下たちも。感謝する」
「殿下からのお言葉――恐れ入ります」
僕がねぎらうと、ブリュンヒルデたちは恐縮したように頭を下げた。
「では、私たちはこれにて……殿下も、あまりご無理はなさらないでくださいね。この間の戦いのお疲れもありましょう?」
ブリュンヒルデが僕を気遣ってくれた。
「うん、分かってる。ありがとう、ブリュンヒルデ」
言って、僕とリゼッタ先生は彼女たちと別れた。
「部下たちからの信頼も厚そうだな。あのころとは大違いじゃないか」
歩きながら、先生がニヤリとする。
「メルディアにいたころは……先生しか味方がいませんでしたね」
僕は小さな吐息をもらした。
「今のお前には、おそらく大勢の味方がいるんだろう? 私も嬉しいよ」
リゼッタ先生が微笑んだ。
「もう、あのころとは違うんだな」
「……はい。僕は帝国に来て、生まれ変わった気持ちです。単にクレストになっただけじゃなく、もっと――」
「はは、見ていれば分かるさ。顔が生き生きしているし」
リゼッタ先生が嬉しそうに目を細めた。
「ところで――もう少しお話がしたいんですが、いいですか?」
僕は彼女を見つめた。
「二人っきりで」
「――ん、分かった」
僕はリゼッタ先生を伴い、静かな路地裏にやって来た。
街の外れにある区画で、周囲に人気はない。
ここなら、誰にも話を聞かれる心配はないだろう。
僕は、かつての師と向き合った。
さて、何から話せばいいのか――。
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