8 【魔眼】VS【雷光】
「あたしを『終わらせる』? ふうん」
僕の言葉を聞いて、テスタロッサは楽しそうにニヤニヤと笑った。
空中に浮かんだまま、余裕の表情を崩さない。
「それって『殺す』ってことよね? こわーい」
言いながら地面に降り立った。
空中にいれば、飛行魔法を使いっぱなしになる。
魔力のリソースをそこに割かなければいけないから、魔法戦闘の際にはハンデを背負うことになる。
地面に降りたということは――つまり彼女は臨戦態勢に入った、ということだ。
「君をここで終わらせなければ、被害は続く。多くの民が、これからも君に殺され続けるだろう」
僕は淡々と事実を告げた。
これは感情論じゃない。
ただ、必要なことだ。
この悪魔を、これ以上野放しにはできない。
「だから、それがあたしの仕事――えっ!?」
テスタロッサが言い返そうとした瞬間、彼女の表情がこわばった。
自分の足に視線を落とす。
「う、嘘……」
その目が驚愕に見開かれた。
彼女の両足は膝から下が灰色に染まり、完全に石と化していた。
「どういうこと……!? 魔力が発動した形跡はどこにもなかった……それに【石化】なんて高位の魔法を、一瞬で、詠唱もなしに……」
一瞬にして彼女の余裕が失われる。
「まず足を奪った。君が逃げられないように」
「ぐっ……う、動けない……!」
僕はゆっくりと、彼女に歩み寄っていく。
「言っておくけど、飛行魔法で逃げようとしても無駄だ。あれは発動までに時間がかかる魔法だろう? 詠唱が終わるより、僕が君の所までたどり着く方が速い――」
「ぐ……うう……」
一歩、また一歩と近づくたびに、テスタロッサの顔から血の気が引いていくのが分かった。
「今から君を殺す」
彼女と数メートルの距離を取り、僕は言い放った。
「その前に、一つだけ聞いておく。君が今まで殺してきた10万の人間たちに対して、何か謝罪や懺悔の言葉はあるか?」
僕の問いに、テスタロッサは一瞬、キョトンとした顔になった。
その顔に、すぐに歪んだ笑みが浮かぶ。
「……何、それ? もしかして、謝れば許してくれるの?」
「許さない」
僕の答えは決まっている。
王国であろうと、帝国であろうと、民を虐げるような者を、僕は許さない。
「だったら、謝るわけねぇだろ! ふざけんなよ、このガキが!」
テスタロッサがいきなり乱暴な口調で絶叫した。
ごうっ!
ばちばちばちばちばちぃっ!
次の瞬間、彼女の全身からすさまじい魔力がほとばしる。
周囲の空気が震え、まばゆい輝きがあふれた。
「【冥天雷の槍】!」
生み出された無数の雷の槍が、僕に殺到する。
【六神将】が放つ、全力の雷撃魔法。
その一撃一撃は、城壁すら爆砕するほどの威力を持っているはずだ。
――しゅんっ。
しかし、僕に降り注ぐ雷の槍の群れは、次の瞬間、全てが消滅した。
「えっ……!?」
テスタロッサが信じられないといった様子で僕を見つめる。
「君が放った魔法を【吸収】した」
僕は平然と語った。
【吸収の魔眼】。
視界内の魔力を吸収し、自身の力に変換する力。
先ほどの魔術師たちとの戦いでは、それを使うまでもなく勝ってしまった。
そもそも、これが【魔眼】を使っての初めての本格的な実戦だから、この能力の存在をすっかり忘れていたんだ。
やっぱり実戦となると、万全の精神状態で戦うことは難しい。
とはいえ、さっきの戦いがあったから、僕はこの戦場の空気に少しずつ慣れていくことができた。
「僕の【魔眼】の全てを賭して――君を終わらせる」
「っ……!」
さすがにテスタロッサの顔色が青ざめた。
【石化】して逃げられない状況。
攻撃魔法を使っても【吸収】され、無効化される状況。
二つの状況から、己の絶対不利を悟ったんだろう。
「ま、待て……待って……!」
彼女の声が震えていた。
「わ、分かった……謝るから……!」
必死に媚びを売るような、哀れな表情だった。
「あなたの前に平伏して、心から謝罪するから……お願い……【石化】を解いてくれないかな?」
その言葉に、僕は黙考した。
僕の返答は――。
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