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66 すれ違い、また重なる想い

「――あたし、もう行くね」


 フラメルは逃げるように去っていった。


 僕はそれを追いかけることができない。


 ただ呆然と立ち尽くしていた。


 何をやっているんだろう、僕は。


 悪夢を恐れて、現実の世界で大切な人を拒絶してしまって――。


 だけど、怖いんだ。


 彼女に近寄るのが、触れるのが……どうしようもなく怖い。


 その恐怖感がなかなか拭えない。

 と、


「何かあったのですか、クレスト殿下」


 背後から凛とした声がかかった。


 振り返ると、そこにいたのは女騎士のブリュンヒルデだ。


 銀色の髪を揺らしながら近づいてくる。


「言い争うような声が聞こえたものですから……」

「い、いや、なんでもないんだ」


 僕は慌てて首を振った。


「ならばよいのですが」


 微笑むブリュンヒルデ。


「……少し、個人的なことで悩みがあって」


 僕は衝動的に、彼女に打ち明けていた。


「殿下……?」

「あ、ごめん……こんなことを話しても、君も困るよね」


 ますます慌ててしまう僕。


 ブリュンヒルデは穏やかな笑みを浮かべたまま、


「いいえ、殿下。私で良ければ、お話を聞きますよ? 殿下はお一人で抱え込むタイプでは? 他人と話すことで少しでも心が軽くなるなら――どうぞ、私に」


 優しいな、ブリュンヒルデは。


 今はその優しさがありがたく、同時にすがりたいと思ってしまう。


「じゃあ……ちょっとだけ話を聞いてもらえるかな」


 僕はブリュンヒルデを見つめた。


「実はフラメル――いや、姉上のことなんだ。彼女とうまく接することができなくて、嫌な態度を取ってしまった」

「フラメル殿下に、ですか?」


 ブリュンヒルデは意外そうな顔をした。


「いつも、とても姉弟仲が良いようにお見受けしますが……」

「ああ、いつもはね。彼女は僕にとって、かけがえのない人なんだ。でも、だからこそ傷つけてしまうことが怖い。僕は――彼女と接するのが怖くなってしまったんだよ」

「クレスト殿下は――ご自分がフラメル殿下を傷つける恐れがある、と?」

「……ああ。その、事情があって……ね」


 僕は言葉を濁した。


 さすがに魔王の話をすることはできない。


「さっきも、僕はそれを過度に恐れて、姉上を遠ざけてしまったんだ。今ごろ彼女は怒ってるかもしれないし、僕の態度に失望しているかもしれない。君だったら、どう思う?」


 僕はブリュンヒルデにたずねた。


「そうですね、私は弟はいないので想像ですが……」

「……その、たとえば恋人同士の話と仮定して、君の意見を聞いてもいいかな?」

「は? 恋人同士、ですか?」


 しまった、これじゃ僕とフラメルが恋人関係だと言っているようなものだ。


「ご、ごめん、今のは取り消し! おかしなことを言ってしまって、ごめんよ……」


 慌てる僕。


 ブリュンヒルデはクスリと笑った。


「ふふ、クレスト殿下にもそのような一面があるのですね。戦場ではあんなにも凛々しく、そして鬼神のような活躍ぶりだというのに、今は本当に年頃の少年のよう――」

「恥ずかしいところを見せてしまったよ……」

「いいえ、その純粋さはとても好ましいと思います」


 ブリュンヒルデがにっこりと笑う。


「ありがとう、ブリュンヒルデ」


 僕も笑みを返した。


「君に話を聞いてもらっていると、だんだん気持ちが軽くなって来たよ」

「私でよければ、いつでも」


 僕たちは笑顔でうなずき合う。


 ――と、そのときだった。


「クレストくん……?」


 茂みの向こうから現れたのは、フラメルだった。


「よかった、ここにいたんだ――って、ブリュンヒルデも?」


 僕とブリュンヒルデを交互に見て、フラメルの表情がこわばった。


「……ごめんなさい。お邪魔だったみたいね」


 言うなり、逃げるようにして走り去っていく。


 その背中はひどく寂しげに見えた。


「あ……! フラメル――」

「殿下、今の状況はフラメル殿下の誤解を招いたと思います。追いかけた方がよろしいのでは?」


 ブリュンヒルデが言った。


「えっ、でも――」

「いいから追いかけなさい!」


 ブリュンヒルデが熱を込めて叫ぶ。


「あの方は、殿下にとって一番大切な人でしょう? 放っておいてはいけません! 絶対に!」


 僕は思わず気圧された。


 確かに彼女の言うとおりだ――。




 僕は急いでフラメルを追いかけた。


 身体能力を全開にして、一気に追いつく。


「姉上――いえ、フラメル、待ってください!」


 僕が声をかけると、彼女は足を止めて振り返った。


 僕を見つめる瞳は、少し潤んでいる。


「……何? ブリュンヒルデとの話は、もう終わったの?」

「誤解です。僕たちはただ、偶然会って話していただけで……」

「別に、何も言ってないじゃない」


 フラメルは眉根を寄せ、そっぽを向いた。


 その横顔は拗ねているようにも、傷ついているようにも見えた。


「ブリュンヒルデはあたしもよく知ってる。何度か戦場で一緒だったし。気高くて美しくて――クレストくんから見ても魅力的よね?」


 僕の答えを探るような視線だった。


 やっぱり、誤解されている。


「僕は――」


 ごくりと息を呑んだ。


 もう、彼女を傷つけるのが怖いなんて言って、距離を取っている場合じゃない。


 僕の勇気のなさが彼女を無意味に遠ざけ、この結果を招いたんだ。


 だから――、


「僕が魅力的だと感じる女性は、フラメルだけです。そして、これから先、ずっと一緒に生きていきたいと願う女性も」


 心の底からの、素直な言葉だった。


「クレスト……くん」


 フラメルの頬が淡い桜色に上気した。


「本当……?」

「……僕が信じられませんか?」

「ううん」


 フラメルは小さく首を振った。


 それから不意にうつむくと、絞り出すような声でつぶやく。


「あたしが、あたしを信じていないだけ」

「えっ……?」


 どういう意味だろう。


 今度は、僕が答えを探るようにフラメルを見つめる。


「あたしはね、ずっと自分のことが嫌いだった。魔族の子である、自分が」


 ぽつり、ぽつり、と彼女は語り始めた――。

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