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63 悪夢と夜更け

「さあ、我らが敵をすべて滅ぼしなさい」


 フードの人物の言葉に、僕の体が勝手に動き出す。


 剣を、振る。


【魔眼】で大勢の人間の命を吸収し、あるいは石化させ、毒を放ち、呪いをかける。


 魔王――まさに、人が作り出した災厄の象徴となり、僕は無数の人間を殺し続けた。


 止められない。


 自分の意思では、何一つ止められない。


 僕の体は、奴の意思で動く人形のようになっているのだ。


「嫌だ……!」


 僕はうめいた。


「殺したくない……」

「お前はもう人間ではない。我らの尖兵……いわば魔王兵器」


 フードの人物が笑う。


「違う、僕は……僕は……」


 意識が遠のく中、必死で叫んだ。


「僕は人間だ。僕はアレス――いや、クレスト・ヴァールハイトだ!」


 叫ぶ。


 かつての名前ではなく、今の名前を。


 そう、僕にとっては『今』こそが大切なんだ。


 フラメルと一緒に歩んでいく、今こそが。


 だから僕はアレスじゃない、クレストだ――!


 けれど、そんな僕の気持ちや考えは、目の前のフードの人物にはどうでもいいことなんだろう。


「はあっ」


 大仰にため息をついた奴は、フードの奥で口の端を釣りあげて笑う。


「お前の意思も心も関係ない。お前は魔王だ。兵器だ。そして、我々の道具だ」


 意識が、さらに遠のく。


 僕はこのまま兵器として使いつぶされるんだろう。


 絶望が、心を支配していく。


 そして――。




「はあっ、はあっ、はあっ……」


 僕は荒い呼吸とともに目を覚ました。


「夢……」


 上半身を起こしながら、うめく。


 全身から汗が噴き出していた。


 今の夢は、あまりにも現実感が強かった。


 まだ呆然とした気持ちの余韻が残っている。


 夢の中で、僕は魔王として覚醒し、多くの人々を襲っていた。


 多くの人々を、殺していた。


 人造の魔王――か。




『そなたに重なって、何かが見える。黒い騎士……いや、これはそなたではない……誰じゃ……? そなたの中に、別の何かがいる――それは、やがてそなたを覆い尽くし、滅ぼすであろう』




 リビティア王国でのシェラの言葉を思い出す。


 彼女の未来視は、あの夢で見た光景を示していたのだろうか。


 あるいは、これから起こる光景を暗示したものこそが、さっきの夢だったのかもしれない。


 いずれ、僕は自分自身を制御できなくなり、自分の意思とは無関係に多くの人を犠牲にするのだとしたら――。


 そして、さっきの夢のように、破壊と殺戮を繰り返すだけの存在になるのだとしたら。


 隣を見ると、フラメルが静かに寝息を立てている。


 先ほど、僕たちは互いの想いを確かめ合ったばかりだった。


 彼女の肌のぬくもりは、まだ僕の中に残っている。


「フラメル……」


 彼女の安らかな寝顔を見ていると、どうしようもなく愛おしさがこみ上げる。


 なのに、夢の中の僕はフラメルを手にかけていた。


「ぐっ……」


 僕は両手で頭をかきむしった。


 悪夢よ、出て行け――。


 そう念じながら。


「フラメル……僕はあなたを、絶対に守る」


 そっと彼女の緑色の髪を撫でる。


「絶対に……魔王になんてなるものか……!」


 僕は、僕自身で在り続ける。


 誰の駒にもならないし、罪のない人たちを傷つけたりしない。


 まして、愛するフラメルを――。


 彼女だけが、僕を救ってくれるんだ。


 必ず、守ってみせる。


 僕は誓いを新たに、未来へと想いを馳せる。


 その未来に希望が灯っているのか、それとも破滅が待っているのか。


 今の僕には、何一つ分からない――。

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敵国で最強の黒騎士皇子に転生した僕は、美しい姉皇女に溺愛され、五種の魔眼で戦場を無双する。


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