61 総司令官への任命
大通りは、熱狂的な歓声に包まれていた。
「黒騎士様!」
「聖女様!」
僕とフラメルの二つ名を呼ぶ、地鳴りのような歓声。
まさに熱狂だ。
僕は馬上でその熱気を感じていた。
民衆に手を振りながら、隣を歩むフラメルにささやいた。
「すごい熱気ですね」
「君が勝ち取った熱気だよ、クレストくん」
彼女は優しく微笑んだ。
僕の隣にいる彼女は、悪戯っぽく微笑んでくれた。
「僕らが、ですよ。フラメル」
僕の言葉に彼女は小さく笑った。
「もう。ここでは『姉上』でしょ」
「あ、つい……」
僕は苦笑した。
「名前で呼ぶのは二人っきりの時に……ね?」
フラメルは顔を近づけて、僕にだけ聞こえる声でささやいた。
彼女が姉としてではなく、一人の女性として僕に気持ちを向けてくれているのが伝わる。
もちろん、僕だってそうだ。
もともと、僕の意識はメルディア王国のアレスだったんだから当然だけど、彼女に対して『姉』という意識はない。
そして、血のつながりもないと知った今は、もはや自分の気持ちを押しとどめる理由なんてどこにもない。
日ごとに、彼女に惹かれる気持ちが増していく。
「クレストくんといると、すごく心が安らぐの」
フラメルは僕の手を優しく握った。
「僕もです。フラメル」
その手を握り返す。
僕たちは手を取り合い、互いの間に流れる温かな空気を確かめ合った。
帝城の軍議室には、皇帝を始め、多くの皇族や重臣が集まっていた。
「南部戦線は膠着状態にあります」
「北部戦線では、敵の奇襲により一時後退を余儀なくされました」
「東部戦線では、ウェインガイルを討ち取って以来、帝国軍が優勢です」
重臣たちが次々と発言する。
「いかに我が軍が優勢とはいえ、メルディア王国も反撃の機会を虎視眈々と狙っているはずです」
「ここ数日、大規模な動きは確認されておりませんが……」
そんな中、皇帝が重々しく口を開いた。
「ガレンドの勝利は大きい。王国との百年戦争に終止符を打つには、今こそ我らが打って出るべき時だ」
言って立ち上がった皇帝は、僕たち全員に対して朗々と宣言する。
「その全軍を率いる総司令官として、クレスト・ヴァールハイト、そなたを任命する」
「――!」
僕は思わず息を呑んだ。
「お待ちください、父上!」
第一皇子のジークハルトが叫んだ。
彼は憎悪に満ちた目で僕を睨みつける。
「そのような大役を、こいつに任せられるとお思いですか! 得体の知れぬ【魔眼】を持つこいつに――」
と、憎悪に満ちた目で僕をにらみつけた。
いや、憎悪だけじゃない。
たぶん、この間のロッケイルの戦いで僕やフラメルに救われたことに対し、屈辱を感じているはずだ。
「以前の戦いでは、味方をも巻き込んで暴走した危険な力です。そんなものに帝国の命運を預けるのは反対です!」
「ジークハルト殿下、お言葉ですが」
と、立ち上がったのは歴戦の猛将ドルファだった。
「現場の兵士は皆、クレスト殿下の力を信じております。【黒騎士】の数々の武功は、我ら武人にとって等しく憧れ、敬意を抱くもの。そんな殿下の指揮下で戦えるならば、我らの士気は大いに上がることしょう」
ドルファに続き、他の将軍たちも次々に立ち上がって支持を表明する。
「我らも同じく!」
「クレスト殿下こそ総司令官に相応しい!」
戦いを積み重ねるうちに、僕は彼らの信頼を自然と勝ち得ていたらしい。
特にドルファが真っ先にジークハルトに反論してくれたのは嬉しかった。
僕のことを戦友と呼んでくれた将軍――その気持ちが身に染みる。
「うむ、これこそ余がクレストを選んだ理由だ。控えよ、ジークハルト」
皇帝はジークハルトを厳しい目つきで制し、僕に向き直る。
「分かるな、クレスト。皆がそなたを信じ、未来を託している。この任を引き受けてくれるか」
僕は立ち上がり、力強くうなずいた。
「謹んでお受けいたします。この剣の全てをもって、必ずや帝国に勝利をもたらすことをお誓い申し上げます」
僕の言葉に迷いはなかった。
この戦争を終わらせる。
そして、フラメルと共に歩んでいく未来を作り出すんだ――。
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