7 【雷光】のテスタロッサ
結局、住民のほとんどは殺されてしまった。
僕が救うことができたのは、ほんの一握りだけだった。
「この戦いは、なんだったんだろう」
敵兵や魔術師を皆殺しにして、多少なりとも高揚感があった。
これで住民たちを救うことができた、と。
けれど、現実は違った。
ほとんどが手遅れで、僕が間に合ったのはごく一部だけ。
もっと多くの人を、救いたかった……。
そんな無力感が、僕の心を重く支配していた。
「帰りましょう、クレストくん」
フラメルが僕を気遣うように優しい声で言った。
「姉上……」
「クレストくんも、辛そうだね。大丈夫?」
心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。
「……はい。少し落ち着きましたから」
「そう……? でも、いつもはもっと淡々と敵兵を掃討していくのに、今日はちょっと違うんだね」
フラメルの瞳は、僕の奥底を見透かすかのようだった。
「今日のクレストくん、なんだか――」
彼女が何かを言いかけた、その時だった。
「へえ? うちの魔術師部隊が全滅かぁ」
楽しげな調子の声が、空から降ってきた。
僕とフラメルがハッと顔を上げる。
どんっ!
次の瞬間、青白い光線が僕のすぐそばにいたブリュンヒルデを撃ち抜いた。
「が……っ……!?」
ブリュンヒルデは短い悲鳴を上げ、地面に崩れ落ちる。
鎧を貫かれた胸から、鮮血があふれ出していた。
「――! 姉上、治癒を!」
僕は叫ぶと同時に、剣を抜いた。
空に浮かんでいるのは、一人の少女だ。
身にまとった鎧が、夕日を浴びてきらめいている。
「君は――」
「【メルディア六神将】が一人、【雷光のテスタロッサ】」
少女――テスタロッサは、楽しそうに笑いながら名乗った。
長い金髪が、風にたなびく。
「そっちの黒い服は噂に名高い【黒騎士】かな? ちょうどいいや。あたしの部下をやったお礼に、ここで殺しちゃおっかな」
「テスタロッサ……」
僕はうめいた。
彼女のことは知っていた。
メルディア王国が誇る最強の六人、【六神将】の一角。
ただ、王宮で何度か見かけた彼女は、いつもニコニコとした朗らかで優しい少女だったはずだ。
「なのに、どうして――」
戦場では、こんなにも冷酷な顔を見せるのか。
「楽しいか?」
僕は、こみ上げてくる感情を抑えて問いかけた。
「ん? どういう意味?」
テスタロッサが小首をかしげる。
「ブリュンヒルデを――そこに倒れている女騎士を撃ち抜いたとき、君は笑っていた。人を殺すために魔法を使うのは、そんなに楽しいのか?」
「えーっ、何それぇ?」
僕の言葉を聞いた途端、テスタロッサは抗議するような声を上げた。
「大陸最強の【黒騎士】ともあろう人が、そんな甘っちょろいこと言っちゃうわけぇ? がっかりだなぁ」
「答えろ」
僕は動じない。
「君は、もっと優しい少女だと思っていた」
「はあ? あたしが優しい? それ、何情報よ?」
テスタロッサは腹を抱えてゲラゲラと笑い出した。
「ねえ、あたしが今まで殺してきた帝国の人間が何人いるか知ってる? 兵士だけじゃないよ~。男も、女も、子供も、老人も、みーんな殺してきたの。この前は町一つの住人を皆殺しにしてあげたし、その前の攻城戦じゃ捕虜を一人残らず……えーっと、たぶん全部合わせたら10万人は超えてるかなぁ」
彼女の言葉に罪悪感はいっさい漂っていない。
むしろ、殺した人数を自慢しているかのような調子だった。
「10万……だと……!」
僕は言葉を失った。
目の前にいるのは、僕が知っていた少女ではない。
「君は――人の形をした、悪魔だ」
「悪魔……ねぇ」
テスタロッサは肩をすくめた。
「あたしは自分の仕事をしただけよぉ? 国王陛下からの命令だし、ね。そんな怖い顔でにらまないでよ、美少年くん?」
彼女は揶揄するように、僕にウインクした。
「怒っているんじゃない」
僕は、自分でも驚くほど冷たい声で告げた。
心の片隅がすっと醒めていく感覚があった。
「許せない、と感じているんだ。君のような存在を、生かしておくわけにはいかない――だから」
僕の目に熱い力がたぎるのを感じた。
「君を、ここで終わらせる」
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