56 内通者を暴く
「内通者の件は、引き続き調査を進めよ。いずれにせよ、決戦の時は近い――各自、覚悟を決めておくように」
皇帝の表情はこのうえなく険しい。
この場にいるジークハルトやレミーゼ、ゲルダの皇子皇女たちも同じく真剣な表情だ。
――内通者、か。
僕は【鑑定の魔眼】で彼らを見た。
【鑑定】の中には、僕がアレスだったころに備えていた『他者の心の色を読み取る』力も含まれている。
以前に見た魂の移植儀式の光景で、術者たちは僕の【魔眼】を強化した上で、僕の魂をクレストの肉体に移植した――と言っていた。
強化ということなら、僕がもともと持っていた能力も使えるということなんだろう。
ジークハルトの心は燃えるような赤と、濁った灰色が混じっていた。
僕やフラメルに対する『嫉妬』と、自身への『劣等感』だ。
以前より、その色合いは深くなっているように思える。
次にゲルダの心に視線を向けた。
鮮やかな緑色と深みのある黒。
優しげな顔立ちとは裏腹に『支配欲』や『狡猾さ』を隠し持っているらしい。
そしてレミーゼ。
彼女の心は、澄んだ青色の中に深く暗い『虚無』の色を抱えていた。
もしかしたら、彼らのいずれかが内通者なんだろうか?
それとも王国と通じている裏切者は重臣たちの中にいるんだろうか?
あるいは――。
誰にせよ、それを僕の【魔眼】で解き明かすことは不可能だった。
そんなことを考えているうちに、議題はメルディア王国の度重なる攻撃に対する防衛策へと移っていく。
「現状、我らは各都市の戦線でいくつかの勝利を収めております。停戦交渉の際、これらの事実は有利に働くでしょう」
そう発言したのは禿げ頭の中年男だった。
内務大臣のローウェンだ。
戦争の終着点は基本的に降伏や停戦条約ということになる。
まさか、どちらかが滅びるまで戦う……というわけにはいかない。
ただ、強大な王国を降伏させるというのは難題だった。
だから、できるだけ有利な条件で停戦することができれば、帝国側の勝利と言える。
「停戦の際には……我が国の秘蔵の技術をいくつか提供することもやむなしかと」
「超古代文明の技術か? 奴らはそんなものを欲していると?」
「幾度かの交渉で、どうやらそうらしい……というのが明らかになりつつあります」
などと他の大臣たちと話すローウェン。
ふと彼の心の色を見てみた。
金色の光。
「……これは」
僕は思わずうめいた。
それは――他者への信頼や連帯を示す色。
そう、メルディア王国への連帯感を。
――お前なのか、ローウェン?
僕は内務大臣に険しい視線を向けた。
王国の内通者は、この男なのか――?
そう思って、よく聞いてみると、彼の声には聞き覚えたあるような気がした。
「そうだ、あのときに――」
僕が幻覚の中で見た、魂の移植儀式。
そこに出てきた術者の一人の声に似ている気がする。
もしローウェンが裏切者の一人なのだとしたら。
こいつを監視する必要がある。
そして、尻尾をつかまなくてはならない――。
その夜、僕はローウェン内務大臣の屋敷に侵入した。
月明かりに照らされた庭園を、足音を殺して進んでいく。
侵入は、僕にとって難しいことではなかった。
【鑑定の魔眼】を使えば心の色が見える――つまり、そこに『誰かがいる』ことが分かる。
それを利用して警備の配置を遠目から察知し、誰もいない場所を選んで進んでいく。
難なく邸内に入り、同じ要領で誰もいない場所を進んでいき――やがてローウェンの私室に入った。
すでに就寝しているのか寝息が聞こえてくる。
「呑気なものだ」
僕は寝台の前に立った。
やはりローウェンは寝入っていた。
「起きろ」
僕は彼を起こす。
「むにゃむにゃ、誰だ……って、あなたは……!?」
寝ぼけ眼で僕を見つめたローウェンは驚いたように跳び起きた。
「な、なぜここに……!? い、一体どうやって――」
「お前の罪を暴きに来た」
僕は単刀直入に言った。
「っ……!?」
ローウェンは驚きの表情を浮かべる。
「罪ですと!? なんのことやら――」
「思い当たる節があるだろう?」
僕は彼に【鑑定の魔眼】を使う。
今は怯えを示す色が濃く、軍議の時に見た金色の光は見えなかった。
だが――、
「メルディア王国と随分仲がいいらしいね」
ローウェンが目を見開いた。
「……何を仰っているのか分かりませんな」
さすがにこれくらいで動じて、尻尾を出すような真似はしないだろう。
ただ、彼の体からじわりと金色の光が立ち上っている。
「それに得体の知れない研究にもかかわっているとか。何と言ったか……そうだ」
僕はニヤリと笑い、ローウェンの顔を覗き込んだ。
「魂の移植の際には世話になったね」
「っ……!」
ローウェンの顔が真っ青になった。
どうやら、それが一番触れられたくない話題らしい――。
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