55 黒騎士は兄皇子を一喝する
まるで、僕が未来で破滅することを示唆するような不気味な声――。
「……どうかした、クレストくん?」
隣に座るフラメルが心配そうに僕を見た。
「……いえ、なんでもありません、姉上」
と答える僕。
公式の場なので、ここでは『フラメル』ではなく『姉上』呼びだった。
「今言ったように、我らとメルディアとの戦いは終局に近づいているかもしれぬ……今後の展望について、皆の意見を聞きたい」
「恐れながら申し上げます」
皇帝の言葉に、真っ先に口を開いたのは第一皇子のジークハルトだった。
その表情には、僕たちへの嫉妬が隠しようもなく浮かんでいる。
「ガレンド奪還は喜ばしいことです。ただ、今回の勝利もクレストの忌まわしき【魔眼】の力によるもの……レイガルドでの戦いでは味方まで巻き込んで暴走したと聞いております」
ジークハルトが憎々しげに僕をにらんだ。
「そのような不安定な力に頼っていては、いずれ帝国に害となりましょう」
「お言葉ですが、ジークハルト殿下」
その糾弾に対し、僕が反論するより早くドルファ将軍が口を挟んだ。
「クレスト殿下の力なくして、レイガルドの防衛はあり得ませんでした。現場の兵士たちは皆、殿下を英雄と称え、その力に感謝しております」
「だが、味方を危険にさらしたのだぞ」
「戦場において味方が危険にさらされないことなど、あり得ませぬ」
「む……」
ジークハルトが言葉を詰まらせる。
歴戦の猛者であるドルファの言葉には、さすがにジークハルトも気圧された様子だった。
「暴走の件も、フラメル殿下が見事に収めてくださいました。お二人の連携こそ、我が帝国の誇るべき力かと」
「……ふん、そのフラメルとて、皇族の血を引かぬ魔女ではないか」
ジークハルトが吐き捨てた。
「そのような者に帝国の命運を預けるなど……」
「そこまでです、兄上」
今度は僕の番だった。
僕自身のことならともかく、フラメルへの言葉は黙っていられない。
「姉上への侮辱は許しません」
「貴様、兄に対して」
「兄も弟もありません。私はフラメル姉上に何度も救われました」
と、彼をにらみつける僕。
その眼光に込めた威圧は、殺気に近い。
「っ……!」
ジークハルトの顔が青ざめるのが分かった。
「現実に戦功をあげていないあなたの口先よりも、命懸けで戦場を駆け巡り、数多くの兵や民を救った姉上をこそ称賛されるべきでしょう。魔女などという侮辱は謹んでいただきたい」
「貴様ぁ……」
「私に対する批判ならいくらでも受けましょう。ですが、姉上のことを言うなら黙ってはいられません。決闘でもなんでも――」
「クレストくん、言い過ぎよ」
と、フラメルが僕の腕に手を添え、耳打ちした。
「……失礼いたしました。少し熱くなってしまったようです」
さすがに彼女に言われては、僕も矛を収めざるを得なかった。
というか、自分でも少し驚いていた。
フラメルのことを悪く言われただけで、ここまで頭に血が上るとは。
それだけ僕にとって彼女は大切な存在ということだ。
自分を、抑えられなくなるほどに――。
「ま、まあ、多くの兵や民を救ってくれたことに関してはその通りだ。魔女というのは過ぎた言葉だった……許せ」
ジークハルトも同じく矛を収め、軽く頭を下げる。
それに対してフラメルは会釈を返した。
「お気になさらず、ジークハルト兄上」
「クレストのことよりも、心配するべきは別のことではありませんか?」
今度は第一皇女のレミーゼが発言した。
「今回、ガレンドが一度は落とされたのは、こちらの防衛情報がメルディアに漏れていたからだと聞いています。敵の狙いはあまりにも正確にこちらの急所を突いてきました」
「……どういう意味だ?」
首をかしげるジークハルト。
「分かりませんか、兄上?」
レミーゼは優しげな笑みを浮かべながらも、彼に向ける視線には冷え冷えとしたものがあった。
この程度のことも気づかないのか、と言わんばかりの――。
「内通者がいる、ということですわ」
「内通者、か。忌々しいが、余もその可能性を懸念していた」
皇帝が渋い顔でうなった。
「一大穀倉地であるガレンドは帝国にとって最重要地帯の一つ。当然、防備は十全を期していた。にもかかわらず、メルディアの攻め方は――我が軍の動きや配置が筒抜けであったとしか思えぬ」
それは――ガレンドの戦いが終わった後、ドルファが言っていたことと同じだった。
僕たちの敵は、メルディアだけじゃない。
敵は、外にいるとは限らない――ということだ。
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