52 【氷嵐】のイオは王を手玉に取る(イオ視点)
SIDE イオ
メルディア王国、謁見の間。
「イオ、大失態ではないか! ガレンド侵攻は失敗し、虎の子のゴーレムまで全て失ったとは……!」
王はイオに対し、作戦の失敗とゴーレムを失ったことを激しく叱責していた。
謁見の間が震えるほどの怒声に重臣たちが怯えた顔をする中、イオだけは平然とその怒りを受け止めている。
「陛下、どうかお怒りをお鎮めください。確かに――ガレンドは残念ながら奪還されてしまいました」
イオは淡々と告げた。
「我が配下の三魔剣は全員が戦死し、虎の子のゴーレム兵団も全滅しました」
「陛下の仰る通り、大失態だ」
「この責任、どうとるつもりだ」
「我ら六神将の名折れよ」
イオ以外の三人の六神将が口々に糾弾した。
それを無視し、イオは王だけを見据えた。
「陛下は帝国を打倒するためならば、いかなる犠牲も厭わないとおっしゃいました」
「詭弁を申すな。それは作戦が成功してこその話だろう」
王は不快そうに眉をひそめた。
「今日限りで六神将の地位は返上してもらうぞ。いや、それだけでは済ません。今回の失敗はお前の命で償ってもらうとしよう――」
王は感情を抑えきれない様子だ。
「命で償う? 陛下は私を処刑するおつもりでしょうか?」
「貴様……」
「無論、陛下の命とあらば、この命はいつでも差し出しましょう。そう、陛下の命とあらば――ね」
イオがニヤリと笑う。
(できますか、陛下? 本気で、あなたの子である私を殺すことが――)
視線にそんな問いかけを乗せて、王を見つめた。
「っ……!」
案の定、王はたじろいだように視線を逸らす。
「私の処刑のことはさておき、もう少し話を続けさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「……申せ」
「あの【黒騎士】の【魔眼】は、さらに強化されているようです」
「【魔眼】――か」
「確か半年前までは持っていなかった能力だな」
「【雷光】のテスタロッサとの戦いで発現したという――」
他の六神将たちがうなる。
正確には、少し違う。
テスタロッサとの戦いで発現したわけではなく、彼の魂が移植されたときに、同時に強化したのだ。
そう、あの儀式のときに――。
イオが内心でつぶやく。
もっとも、それは他の六神将たちが知る由もないことだった。
「ただし、その【魔眼】は極めて不安定であり、制御を失いかけたこともあるようです」
と、続けるイオ。
「そこがこちらの付け入る隙かと…」
「奴の【魔眼】を暴走させてしまえばいい、と?」
「いかにも」
王の問いにイオはうなずいた。
「単純な力押しで勝てる相手ではありません。彼の剣技は単騎で一軍にも匹敵します。そこに【石化】や【毒】などの複数の特殊能力を備えた【魔眼】――」
と、説明を続ける。
「さらに彼の側には防御と治癒に秀でた【癒しの聖女】が控えております。二人の組み合わせは盤石と言っていいでしょう」
「ガレンド侵攻はその二人を引き裂く意味合いもあったのだったな?」
「はい。結果的に失敗してしまいましたが…」
王が確認するようにたずねると、イオはうなずいた。
「ですが、作戦の指針としては間違っていないと考えます。ゆえに、次の作戦もその指針を引き継ぎ――彼の心に、さらなる負荷をかけます」
「さらなる負荷を……」
「さすれば、あの力はクレストの身を滅ぼすでしょう」
イオは薄く笑いながら言った。
「そのための次の標的として――帝国皇子や皇女を狙うべきです」
「なんと? 皇族を暗殺しろと申すか」
王は一瞬眉をひそめた。
「簡単に言うが、可能なのか」
もしできるなら、とっくにやっている――そう言いたげな王に、イオは笑みを深めてみせた。
「機は熟しました。今こそ我らが攻勢をかけるとき」
と、イオ。
「ガレンド戦の失敗も、そのための布石に過ぎません」
「……自信があるのだな?」
「この命にかけて」
イオが真剣な表情で言った。
沈黙が、流れる。
やがて王は重々しく口を開いた。
「……よかろう。ただし、これが最後の機会だ。今度こそ成功させろ」
「はっ、必ずや」
恭しくうなずくイオ。
他の六神将たちが露骨に不満げな表情を浮かべているのが分かった。
いくらなんでも、国王はイオに甘すぎる。
そう言わんばかりだ。
反論するつもりはない。
彼らの不満に対する答えは、今回の作戦の結果で示せばいい――。
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