51 ガレンドの戦い、終結
そのとき、ふっと体から力が抜けた。
安堵感が強烈な脱力を引き起こしたんだろうか、意識が遠のいていく。
そのまま視界が暗転し――、
「うう……っ」
いつの間にか気を失っていたらしい。
気が付くと僕は草むらに横たわっていた。
すぐ側にはフラメルがいる。
どうやら膝枕をされているようだ。
「よかった、気が付いたんだね」
フラメルが嬉しそうに微笑んだ。
「【ヒール】をかけてあるから、負傷箇所は治っているはずだよ。気分はどう?」
「僕は――」
体が少し重い気がするけど、ぐっすり眠った後のように気分は晴れていた。
いや、これはフラメルが側に居てくれるからなのかもしれない。
「クレストくんの戦いぶり、すごかった……ゴーレムを全部倒して、三魔剣も倒して……」
フラメルがつぶやいた。
「命懸けで、たった一人で……あたしを守ってくれて、ありがとう」
その瞳が潤んでいる。
「あなたを助け出したい気持ちだけで飛び出してきました……フラメルが無事でよかった」
僕は微笑みを返した。
「リビティアにいたのよね? その、シェラ様のところに……」
「婚約のことは断ってきました。その後でガレンドの戦いのことを聞いて――」
僕はゆっくりと上体を起こす。
まだ、体が少しふらつくみたいだ。
と、
「無理しないで」
フラメルが僕を抱き締めて支えてくれた。
「さっきのクレストくん……なんだか、いつもと違って見えた」
と、不安そうに付け足す。
「君が、君じゃなくなってしまう気がして怖かったの……」
彼女の声が震えていた。
僕の中からあふれた得体の知れない力――それは、魂の移植儀式を行った連中が言うところの『人造の魔王』としての力だったんだろう。
その力で戦った僕の姿は、フラメルからは異様に映ったんだろうか?
彼女に恐れられたり、不気味に思われたりしたんだろうか?
不安がこみ上げる。
「でも、こうして話している君は、やっぱりいつものクレストくんだね。安心した……」
彼女は微笑んだ。
「いつもの……ですか」
その言葉は、僕の不安をさらに煽った。
「本当の僕って、なんだろう……」
「クレストくん……?」
「フラメルは――以前のクレストを知っていますよね。『僕』になる前の彼を」
僕は彼女を見つめた。
「本当の、僕は」
メルディアの王子アレスなのか。
人為的に生み出された魔王のごとき力を持つ何かなのか。
それとも――。
「……以前のクレストくんはね、純粋な武人という雰囲気だったの」
フラメルが言った。
「王族には彼を忌避している者も多かったけれど、彼は誰に対しても公平で、あたしに対しても……皇帝の実子じゃないことを気にする素振りもなく、対等に接してくれた。それが心地よかったのよ」
言って、フラメルは微笑んだ。
「戦友だと思ってた」
戦友――か。
じゃあ、僕のことはどう思っているんだろう?
やはり戦友なのか。
血のつながらない弟なのか。
あるいは――。
僕の内心の疑問を読み取ったように彼女はうなずき、
「でも、今のクレストくんは違う。あたしにとって……この世界でたった一人の、大切な存在。君が側に居てくれるから、あたしは――」
フラメルの潤んだ瞳から涙があふれ出した。
「忘れないで。今の君を大切に想う人間が、ここにいるから」
それは『自分』という存在への疑念で揺らぐ僕の気持ちを――この上なく癒してくれる言葉だった。
「だから、自分を信じて。自分を強く持って。あたしが……ずっと側にいるから」
心が、温かいもので満たされていく。
そして、彼女への愛おしさで満ちていく。
フラメルが僕に顔を寄せた。
僕も同じように顔を近づけ、静かに唇を重ねた。
甘く、優しい口づけだった。
その後、帝国軍の援軍が到着し、先に退避していた聖乙女部隊とともに、僕たちと合流した。
軍を率いるのは、以前レイガルド防衛戦で共に戦った猛将ドルファだ。
ガレンドの奪還は重要な戦闘ということで、猛将と名高い彼が呼ばれ、今回の軍の指揮を任されたのだという。
まさに帝国肝いりの軍――。
とはいえ、ガレンドを襲ったゴーレム部隊は全滅し、三魔剣も全員が死亡、さらに王国軍も総崩れとあって、そこからの戦況は既に決していた。
ドルファが率いる帝国軍は鮮やかな戦いぶりで、残った王国軍を蹴散らした。
そして、ガレンドは無事に奪還された。
僕とフラメルも援軍に加わったけど、あまり出番はなかった。
僕らが戦うまでもない、といった呆気ない勝利だ。
そうして今、僕らはガレンドの平原に立っている。
周囲のあちこちから勝利を喜ぶ声が聞こえた。
そんな中、ドルファが僕の元に歩み寄る。
「見事な指揮だったよ、ドルファ」
「こたびの戦い、すでに趨勢は決まっておりました。一番の戦功はクレスト殿下とフラメル殿下のご両名にありましょう」
ドルファがニヤリと笑う。
それから、その表情が引き締められた。
「――それはそうと、お耳に入れたいことがございます」
ドルファは声を潜めて言った。
「今回のガレンド侵攻――王国軍はなぜか、この地の防衛線の情報を正確に把握していたようです。斥候を使ったにしても、あまりにも正確に――」
嫌な予感がした。
「どういうことだ?」
「おそれながら……我が国にメルディアへの内通者がいるのかもしれません」
ドルファは重い口調で言った。
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