50 さらなる強さの領域へ
ボウッ!
僕の全身から、黒いオーラが吹き上がった。
今まで感じたことのない、強大で禍々しい力が体の内側からあふれ出してくる。
「くっ……なんだ、この感覚――!」
半ば無意識に、左手に握る剣に視線を落とした。
「……!?」
刀身に映る自分の顔を見て、ハッとなる。
僕の瞳は、いつもの赤色ではなかった。
金色に妖しく輝いている。
「【魔眼】の色が違う……!?」
心の奥底から、言いようのない不安感が湧き上がる。
――魔王を、人為的に作り出す秘術。
さっき見た幻覚の中の言葉が、脳裏をよぎった。
人造の、魔王。
「僕が……」
自分が自分でなくなっていくような感覚があった。
確かに体からあふれ出す力は圧倒的で、今ならどんな敵だって一瞬で倒せそうな万能感がある。
「だけど――」
この力を使うのは、止めるべきなんじゃないか……。
そう考えたとき、フラメルの不安げな瞳と目が合った。
「フラメル……」
そうだ、たとえ僕がどうなっても……彼女だけは絶対に守らなくては。
仮に、この身が本当の魔王になったとしても。
「そ、その力は何……!?」
フラメルは怯えた様子だった。
「クレストくんの【魔眼】から異様な魔力を感じる……今までとは、まるで違う……!?」
「フラメル――」
湧き上がる不安も恐怖も押し殺し、僕は彼女に微笑んだ。
「これは、あなたを守るための力です」
「クレストくん……?」
それ以上、彼女と視線を合わせることができず、僕はその場から駆けだした。
どんっ!
ただ走っただけで大気が震え、衝撃波が巻き起こる。
そして、さらに加速していく。
僕の体は、一瞬にして音速を越えている――。
僕はその勢いのまま疾走し、前方のゴーレムに剣を叩きつける。
あれほど硬かった装甲をまるで紙切れのように引き裂き、両断した。
「いける、この力なら……!」
腕力が異常に上がっている。
そして黒いオーラに包まれた剣の切れ味や破壊力も、おそらく今までとはケタ違いだ。
ばしゅっ、ばしゅしゅっ!
他のゴーレムたちが、一斉に熱線を放ってきた。
そのことごとくが、止まって見えた。
降り注ぐ熱線の雨をやすやすと潜り抜け、僕はゴーレムたちの間を駆け抜けた。
剣を振るうたびにゴーレムが一体、また一体と斬り裂かれ、両断され、倒れていく。
「ば、馬鹿な! ゴーレムが、こんな……!?」
ガストンが叫んだ。
「あ、ありえない……!」
「人間か、あいつ――」
兵士たちの戦慄の声があちこちから聞こえる。
僕はただ走り、ただ剣を振るい続ける。
やがて――。
ず……んっ。
わずか数分の後、十七体のゴーレムは全て僕の背後で倒れ伏した。
四肢を切断し、核を完全に斬り裂いたから、もはや再起動は不可能だろう。
「お、お前……お前ぇぇぇ……っ!?」
ガストンは恐怖に顔を引きつらせている。
完全に戦意喪失した様子だ。
――と思いきや、
「だが、こいつを人質にとれば!」
いきなり飛行魔法でフラメルに向かっていく。
「――その人に触れるな」
飛行魔法よりも速く、音速を超える速度で奴に追いつき、追い越し、フラメルの前に立つ。
「は、速すぎる――」
「彼女は僕の大切な人だ……お前ごときが指一本でも触れていい存在じゃない」
僕は冷徹に告げて、剣を振り上げた。
「ひ、ひええ……助け――」
命乞いを無視して剣を振り下ろした。
一刀のもとに、ガストンの命を断つ。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 逃げろぉっ!」
それを契機に、残っていた王国兵たちは悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。
「クレスト……くん……?」
「もう大丈夫ですよ、フラメル」
僕は彼女に向き直った。
本当に、無事でよかった。
フラメルと向き合っているだけで、温かい気持ちが湧き上がってくる。
先ほどまでの激情や殺意や憎悪が、すべて溶けて消えていくようだ――。
【読んでくださった方へのお願い】
日間ランキングに入るためには初動の★の入り方が非常に重要になります……! そのため、面白かった、続きが読みたい、と感じた方はブックマークや★で応援いただけると嬉しいです……!
ページ下部にある『ポイントを入れて作者を応援しましょう!』のところにある
☆☆☆☆☆をポチっと押すことで
★★★★★になり評価されます!
未評価の方もお気軽に、ぜひよろしくお願いします~!





