49 フラメル救出
僕は全速力で駆けだした。
フラメルを救い出す――。
その思いだけで、一直線に彼女の元へと向かう。
ずしん……ずしん。
十七体のゴーレムたちが次々に僕の前に立ちはだかる。
さらにその後方にはガストンとベスティラがフラメルの近くに立ち、ともに下卑た笑いを浮かべていた。
「行かせないわよぉ」
ベスティラがこちらに杖を向ける。
同時に、地面から無数の黒い触手が伸びてきた。
生き物のようにうねりながら、僕の両手両足を捕らえようと迫る。
「邪魔だ!」
僕は疾走しながら、触手を剣で斬り払った。
だが斬っても斬っても、次々に新しい触手が現れる。
キリがない――。
「くくく、無駄だぜぇ!」
今度はガストンが杖を構え、無数の魔力弾を放ってきた。
さらにゴーレムたちがいっせいに熱線を放ってきた。
絶え間なく迫る触手、魔力弾による弾幕、ゴーレムたちの熱線。
戦術的に考えれば、ここは一度退くべき場面だろう。
そんなことは分かっている。
「分かっている……けど……っ!」
駄目だ、冷静になれない。
早くフラメルを助けたい――。
無謀だと分かっていても、強引に前へ進むことしか考えられない。
「そんな程度で僕を止められると思うか!」
僕は叫んだ。
【石化の魔眼】を発動する。
僕の視線を受けた無数の触手が、次々と灰色に変わり、砕け散った。
さらに【鑑定の魔眼】で迫りくる魔力弾と熱線の軌道をすべて読み切る。
「――見える!」
僕は人体の限界をはるかに超える動きで魔力弾と熱線を次々に避け、弾幕の中を駆け抜けた。
「な、なんだと……!?」
「あり得ない……全部避けてる……!?」
ガストンとベスティラが驚愕の声を上げた。
「まずはお前からだ!」
僕は一気に加速し、ベスティラとの距離を詰めた。
彼女さえいなければ、フラメルを縛る鎖も消えるはずだ。
「ひっ……!? 来ないで!」
彼女が悲鳴を上げて後ずさる。
が、僕が剣を振り下ろす方が速かった。
ざんっ!
「あ……」
短い声を残し、ベスティラは倒れた。
即死だ。
「次は君だ、ガストン」
「ひ、ひいっ、ベスティラが……」
ガストンは完全に戦意を喪失した様子だった。
だけど、容赦はしない。
こいつもフラメルを苦しめた一人だ。
「生かしておく理由はない――」
僕は彼を殺すために剣を振り上げる。
その、瞬間だった。
一瞬、僕の意識がゴーレムから逸れた。
その致命的な隙を魔導石像は見逃してはくれなかった。
カッ!
視界の端で赤い光がまたたく。
「しまっ――」
回避が、間に合わない。
熱い衝撃が僕の右腕を薙ぎ払った。
「あ……ぐあぁぁぁ……っ!?」
肉の焼ける感触。
骨にまで達する激痛。
「うぐぐぐおおおおお……」
苦鳴を上げて、剣を取り落とす僕。
利き腕である右腕は白煙を上げ、あちこち炭化していた。
剣を握ることはおろか、まともに動かすことさえできない。
「や、やったぞ! 奴は利き腕が使えなくなった!」
「今だ、殺せ!」
と、王国兵が殺到してくる。
「くっ……」
けれど、僕の闘志が萎えることはない。
フラメルを前にして、わずかでも闘志が鈍ることなどあってたまるか。
「右手が駄目なら――」
左手で剣を拾い、構える。
「おおおおおっ!」
僕は左手一本で剣を振るい、王国兵たちを斬り捨てていく。
「な、なんなんだ、こいつはぁぁぁっ!?」
「なんで左手で、この強さ――!」
先ほどまでの威勢はどこへやら、王国兵たちは恐怖の声を上げて後退した。
僕はさらに彼らを斬り倒していき、ついにフラメルの元までたどり着く。
「大丈夫ですか、フラメル!」
彼女を縛る魔力の鎖を【吸収の魔眼】で消し去る。
「クレストくん!」
拘束から解かれたフラメルは僕に抱き着いてきた。
「よかった――」
まずは彼女が無事であることに安堵する。
外傷はあるが、命に別状はなさそうだ。
「……クレストくんの怪我を治すね」
フラメルが僕の右腕を見て、悲しげに顔を歪めた。
「【ヒール・第七階梯】」
高ランクの治癒魔法だ。
右腕の痛みが和らぎ、焼けた皮膚が元に戻っていく。
炭化した組織が一つ一つよみがえっていくのが実感できる。
さすがは【癒しの聖女】フラメルだ。
その治癒魔法の実力は桁違いだった。
と、
「回復の時間など与えん!」
ガストンが魔力弾を連発してくる。
さらにゴーレムたちも一斉に熱線を放った。
さっきから同じパターンの攻撃が続いているけど、こうやって攻撃の手数と物量で押されるのが一番堪える。
多勢に無勢というやつだ。
まして、今の僕はまだ右腕が治りきっていない。
このまま押し切られるのか――。
一瞬、絶望しそうになるけど、僕はすぐに闘志を燃やし直した。
諦めるわけにはいかない。
諦めるつもりなんてない。
僕の側には、フラメルがいる。
守るべき人が。
クレストに転生し、寄る辺がなくなった僕にとって……心を許せる、たった一人の大切な女性が。
「だから――フラメルは僕が守る!」
咆哮したその瞬間だった。
――どくんっ!
体の内側で、何かが脈打つのを感じた。
今まで感じたことのない、強大で禍々しい力の感覚。
なんだ、この感覚は――?
疑問に思いながら、僕はさっきの光景を思い出していた。
魂の移植儀式。
その中で、術者の一人がこう言っていた。
『超古代文明が生み出した禁忌の儀式……【闇】の力によって人間を超越させ、最強の存在を――魔王を、人為的に作り出す秘術』
人為的に造られた魔王。
それが、僕だというのか?
ならば、僕には魔王としての力が宿っている――?
それが……この感覚なのか……!?
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