48 僕が、魔眼の黒騎士に転生した日
僕は呆然とその光景を見つめていた。
あらためて周囲に目をこらす。
薄暗い石造りの神殿で、湿った空気やカビの臭いが鼻をついた。
中央の祭壇にはクレスト・ヴァールハイトの肉体が横たえられている。
その周りをフードを目深にかぶったローブ姿の人間たちが取り囲んでいた。
数は十人ほど。
彼らは先ほどから一心に呪文を詠唱していて、何らかの儀式を行っていることが分かる。
「よし、移植を開始する……【魂の調律器】起動」
彼らの中でリーダー格らしき者が宣言した。
フードとローブのため、顔も体格も分からない。
声もくぐもっているため、性別も年齢も全てが謎に包まれている――。
「……魂の波長は安定したか?」
「【魂の調律器】の動作が少し不安定ですが……おおむね上手くいっているようです……」
「アレス王子が処刑されるように裏工作を施し、半年をかけて準備をした甲斐がありましたな……」
「今、ようやくその魂はクレスト皇子の器へと……」
「これで我らの悲願の第一歩が……」
「ああ、最強の魔王が、この世に誕生する……」
魔王……? どういう、意味だ――?
「諸君の尽力に感謝する……」
リーダー格が満足げに言った。
「超古代文明が生み出した禁忌の儀式……【闇】の力によって人間を超越させ、最強の存在を――魔王を、人為的に作り出す秘術。その成功は私一人では成り立たなかった……」
「指導者様……」
他の者たちがいっせいに頭を下げる。
「これが成功すれば、メルディアとの戦争など些事にすぎぬ……我らの切り札は、戦場において無敵無敗の存在となるであろう……」
『指導者』と呼ばれたリーダー格の人物が朗々と宣言する。
「さらに、それを一体、二体と量産することができれば……この世界すべてを、我らが統べることも夢ではない……!」
「おお、我らの手に世界を……」
術者たちの歓喜の声が続く。
僕は彼らの言葉の一つ一つを、ゾッとした気持ちで聞いていた。
最強の存在。
人為的に造られた魔王。
戦争の切り札。
世界の統治。
「僕は……その実験に使われた……?」
僕がアレスとして処刑されたことも。
クレストとして転生したことも。
すべては、こいつらが仕組んだことだった……?
「【魔眼】の力が以前よりも強化されていたのも、移植の際にこいつらが何かをしたから……? 実験の影響、なのか……?」
僕の怒りも、憎しみも、復讐心も。
フラメルを守りたいと願うこの気持ちさえも。
すべては、こいつらの掌の上で踊らされていただけだというのか――。
その瞬間、目の前の光景はフッと消えた。
「今のは――」
幻覚のたぐいか。
もしかしたら、僕の記憶に今の儀式の光景が残っていたんだろうか?
いずれにせよ、おそらくロヴィンの精神操作魔法の影響で見せられた映像だったんだろう。
「……先へ進まなければ」
僕の転生について、気になることはあるけど、それは後回しだ。
まずはフラメルを救うことが最優先だった。
「待っていて、フラメル――」
僕は、ふたたび走り出した。
走り続けた僕は、やがて救護所の前までたどり着いた。
十数体のゴーレムが救護所を取り囲んでいる。
その中心にあるものを見つけ、僕は絶句する。
「っ……!」
そこには、何本もの魔力の鎖に手足を縛られ、ぐったりとした様子のフラメルの姿があった。
彼女の白い戦闘服は土と血で汚れ、ところどころが破れていた。
その痛々しい姿を目にして、頭の中がカッと灼熱する。
「くくく、さすがは【癒しの聖女】様だ。これだけの拘束魔法をかけたうえで、攻撃魔法を何度食らっても、まだ意識があるとはなぁ」
「でも、もう時間の問題よぉ。大人しく私たちと一緒に来てくれないかしら?」
二人の魔術師が、フラメルを見ながら下卑た笑みを浮かべていた。
【氷嵐の三魔剣】のガストンとベスティラだ。
「誰が……!」
フラメルは気丈だった。
「あたしは……メルディアには屈しない」
と、そこで彼女の視線が僕を捉えた。
「えっ、クレストくん……?」
その声に、ガストンとベスティラもギョッとした表情でこちらを振り返った。
「馬鹿な!? なんで、てめえがここにいる!」
「まさか、もう防衛線を突破してきたっていうの……? ロヴィンはどうなったのよ……!?」
僕は、二人に冷たい視線を向けた。
頭の中で冷静に算段する。
ここから近付けば、まずゴーレムが迎撃してくるだろう。
さっきのように【吸収の魔眼】を利用した戦い方には限度がある。
さすがに十七体ものゴーレムを相手に同じことをすれば、【魔眼】が暴走してしまうだろう。
やはりゴーレムの攻撃をかいくぐりつつ、フラメルの元に近づく方がよさそうだ。
兵士たちは何人いようと敵じゃない。
後はガストンとベスティラを殺し、フラメルを奪還する――。
「今、助けます。フラメル」
僕は彼女に向かって言った。
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