6 チート魔眼
「仲間が一人ずつ消えていく恐怖をゆっくり味わえ」
「ひいぃぃっ!」
魔術師の一人が悲鳴を上げた。
「く、来るな! 来るなあぁっ!」
ボウッ!
構えた杖の先端部に魔力の光が宿る。
魔法弾を放つつもりだろうが――遅い。
魔術師が魔法を使うためには詠唱なり魔力の収束なりの『手順』が必要だけど、僕の【魔眼】にはそんなものは必要ない。
ただ『見る』だけで発動する。
「が、がはっ……」
僕がその魔術師に視線を向けた瞬間、彼は喉を押さえてうずくまった。
そのまま血を吐き出し、苦悶の表情で転げまわる。
「あ……が……」
「それじゃ詠唱もできないだろ。のたうち回って死ね」
僕は言い放つと、次の標的に視線を向ける。
次の奴は呪文を唱えかけた瞬間に全身の骨が次々と砕け、倒れたまま死んだ。
その次は体中が土気色になり、体が砂になって崩れ落ちる。
さらに次も――。
いずれも魔法を発動する隙すら与えず、視線一つでの呪殺だった。
「さあ、これで半分になったな」
僕は残った十人ほどの魔術師を見据える。
「な、舐めるな――【ファイアアロー】!」
が、そうやって僕が一人一人ゆっくり殺している間に、詠唱を完成させた奴がいたらしい。
ごうっ!
二十本ほどの炎の矢が四方から僕に迫る。
「――遅いな」
最強の騎士である僕の眼には、それらはほとんど止まって見えた。
一瞬で炎の矢の攻撃範囲から離脱する。
どごおっ!
誰もいない場所に着弾し、派手な爆発をまき散らす【ファイアアロー】。
「な、なんだと……!? 速すぎる!」
【ファイアアロー】を放った魔術師が驚きの声を上げた。
「に、人間か、こいつ――」
「民間人を襲い、略奪し、すべてを奪い去る――お前たちこそ人間とは言えないだろう」
僕はそいつを一にらみした。
「!? う、うわぁぁぁぁっ!?」
そいつの体が灰色に変色し、みるみるうちに石に変わっていく。
「そのまま砕けろ」
僕が告げると、その全身にヒビが入っていき、やがて粉々に砕け散った。
「【魔眼】の使用感はだいたいわかった。次は――こっちを試すか」
僕は剣を抜いた。
「残りはすべて斬り殺す。せいぜい抵抗してみろ」
淡々と告げて、僕は駆けだした。
魔法能力はともかく、身体能力は並程度しかない彼らに、僕の動きは視認すらできなかっただろう。
一瞬のうちに全員を斬り伏せる。
急所をわずかに避け、すぐには死なないように。
「ぐあ……ぁぁぁあぁ……」
その場に十の苦鳴が響いた。
全員、両手足の腱を斬っておいたから、立ち上がることはできないだろう。
手当をする者もいないから、このまま少しずつ血を失い、やがて死ぬ。
僕は剣を納め、彼らに背を向けた。
フラメルたちのところに戻るとしよう。
歩きながら、僕は考える。
僕の新たな人生は、ここから始まるのだ、と。
復讐に彩られた、黒騎士としての人生が――。
「クレストくん!」
「クレスト殿下!」
先ほどの場所に戻ると、フラメルとブリュンヒルデが駆け寄ってきた。
「無事でよかった。敵の魔術師たちは――」
「全員殺してきたよ」
僕は淡々と告げた。
ブリュンヒルデが息を飲んだ。
「全員……!? クレスト殿下お一人で――」
「ああ」
僕がうなずくと、ブリュンヒルデは信じられないものを見るように僕を見つめた。
その視線には、畏敬の念が宿っている。
「さすがは【黒騎士】――まさしく英雄です」
ブリュンヒルデの視線には畏敬の念が込められていた。
「あいかわらずだね」
一方のフラメルは特に驚いた様子はない。
たぶん、こうして一緒に戦場に出るのも一度や二度じゃないんだろう。
【黒騎士】クレストがいつもの戦いぶりを見せた――そう言わんばかりの態度だった。
「でも、やっぱり心配だった……君が無事でよかった」
フラメルがホッとしたように息をついた。
「お疲れ様、クレストくん」
「ありがとうございます、姉上」
僕は微笑んだ。
「生存者の救助の方は?」
「……ううん」
フラメルが首を左右に振る。
「駄目だった。あたしが見つけたときは、住民はもう全員死んでいるか、手遅れだったよ」
うつむいた横顔に涙が一筋流れる。
「せめて苦しまないように痛みを和らげる治癒魔法をかけるのが精一杯……」
「姉上――」
「慣れてるはずなんだけどね……やっぱり、こういうのは……悲しいね」
フラメルの表情は辛そうで、見ていられなくて。
僕はそっと彼女を抱きしめた。
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