47 【魔眼】VS【悪夢の回廊】
僕は彼をにらんだ。
「確か精神操作魔法を使うはず……兵士たちの様子がおかしくなったのは君の仕業か?」
「へえ、僕の術を知ってるんだ?」
少年――ロヴィンは楽しげに笑った。
僕が、かつてメルディア王国のアレス王子だったころ、六神将のイオやその配下である三魔剣のことを聞いたことがある。
その当時、僕はメルディア王国の残忍な一面を知らなかったけど、三魔剣についての非道な噂は聞いたことがあった。
「悪いけど、ここは通行止めだよ? 大方、フラメル姫を取り返しに来たんだろ?」
「……取り返す、か」
その表現を使ったということは、彼女は捕らわれの身になっているということか。
「彼女の治癒魔法や防御魔法は王国にとって厄介だからね。帝国から取り除かせてもらうよ」
ロヴィンが無邪気に笑う。
「拘束して王国に連れていく。その後は拷問にかけて帝国の情報を聞き出すなり、僕の精神操作魔法でいたぶるなり……ふふ、お楽しみがいっぱいだ」
「……屑が」
僕は吐き捨てた。
「お前たちにフラメルは渡さない。僕が必ず取り戻す!」
言うなり、僕は駆けだした。
今はロヴィンに構っている暇はない。
兵士たちの相手も後だ。
とにかく、先へ進むんだ――。
「つれないなぁ。僕と遊んでいってよ、お兄さん」
ロヴィンが悪戯っぽく笑った。
「ほら、こいつらはみんな僕のオモチャなんだ。精神を壊したから自分の意思を持たないし。僕が自由に操れるんだよ?」
僕は無視して疾走する。
「おっと、通さないよ~」
その前に虚ろな目の兵士たちが立ちはだかった。
が、数が多い。
こいつらをいちいち斬り捨てていたら、時間を大幅に消耗してしまう。
「ならば――」
僕はロヴィンを見上げた。
「お前を倒せば、こいつらも止まる――ということでいいんだな?」
【石化の魔眼】を発動する。
だけど、何も起こらない。
【石化】をかけるには、少し遠いか――。
「へえ、それが【魔眼】か」
ロヴィンが目を輝かせた。
「体が石にならない……【石化】じゃなさそうだね。【毒】や【呪い】、【魔力吸収】でもなさそうだ。いや、ここまでは効力が届かないだけかな?」
……なるほど、これまでの戦闘記録から僕の【魔眼】の能力はある程度向こうも把握しているわけだ。
「安心しろ。殺し方は複数ある」
僕はロヴィンに言った。
「そして僕の【魔眼】は無敵だ……そうだな、お前は【呪怨】で殺すとしよう」
「いいね! 精神干渉系の能力同士で戦うことになるわけだ」
ロヴィンがさらに目を輝かせた。
「君の【呪怨】っていうのと、僕の精神操作魔法【悪夢の回廊】――どちらが強いか勝負だね!}
――どくんっ!
次の瞬間、僕の心臓の鼓動が大きく跳ねた。
胸が痛いくらいに脈打つ。
ロヴィンの精神操作の影響か――!?
ぐらり、と視界が揺れる。
「これは……!?」
『アレス……』
『なぜ帝国にいる……』
『この裏切り者……』
目の前に、メルディアの父王や兄姉、さらには民衆たちが現れた。
当然、幻覚だろう。
けれど、あまりにもリアルに見えるそれらの映像は、僕の心を揺さぶった。
嘲笑。
罵倒。
侮蔑。
そして、殺意。
彼らの糾弾が、僕の心に突き刺さり――、
「……ちいっ」
舌打ち交じりに一瞬でそれらの映像を消し飛ばす。
僕の【呪怨の魔眼】が奴の精神操作魔法を撃ち破ったのだ。
この幻覚は一種の呪いといっていいだろう。
ならば、より強い呪いの力なら打ち消せるかもしれない――そう考えて【呪怨の魔眼】を発動したら、目論見通りに幻覚を消し去ることができた。
「馬鹿な!?」
ロヴィンが驚きの声を上げる。
「僕の精神操作が効かない……相殺されたのか!? こ、こんなことは今まで一度もなかった……」
「お前の呪いは弱すぎる」
僕は淡々と告げて、奴を見据えた。
【呪怨の魔眼】を発動――だが、やはり何も起きない。
これも効果範囲外か。
あるいはこちらの【魔眼】も奴のような精神操作魔法を使う相手にはある程度相殺されて効力が鈍るのかもしれない。
「なら――直接叩く」
僕は地を蹴り、奴がいる空中10メートル付近まで飛び上がった。
「ひ、ひいっ!? なんなんだ。お前ぇぇぇっ!」
狼狽するロヴィンに向かって剣を振りかぶる。
「う、うわぁぁぁぁっ! 来るなぁぁぁぁぁぁっ!」
ロヴィンは絶叫と共にふたたび精神操作魔法を発動する。
が、それも【呪怨の魔眼】で、一瞬で撃ち破り、
「死ね」
ざんっ!
一閃――。
僕の繰り出した剣が、ロヴィンの首を刎ね飛ばした。
僕はゆっくりと着地した。
さすがに黒騎士の身体能力は異常で、十メートルの高さから着地しても、きっちりと全身をクッションのようにして、ほとんど衝撃なく降り立つことができた。
ほぼ同時に、首を失ったロヴィンの死体が近くに落ちてきた。
その側に彼の生首が転がる。
まずは【三魔剣】の一人を撃破だ。
先を急ごう――。
そう思ったとき、異変が起きた。
「なんだ、これは……!?」
目の前がぐらぐらと揺れる。
さっき精神操作魔法をかけられたときと似たような症状だ。
だけど、ロヴィンはもう殺したはず。
まさか、まだ魔法の効力が持続しているのか……!?
その瞬間、目の前の景色がまったく別のものに切り替わった。
どこかの神殿らしき場所。
薄暗い石室。
儀式のようなものを行う人々。
そして、横たわる僕――クレストの体。
「半年後に目覚めるでしょう……」
「それまでクレストは失踪したことに……」
「もともと風来坊ですから……それほど驚かれますまい」
「以前も、しばらく出奔したこともありましたな……」
儀式を行う者たちから、いくつもの声が響く。
なんだ……!?
なんなんだ、これは!
「お、来ましたぞ。処刑されたアレス王子の魂が」
「では、予定通りクレストの肉体に移植を――」
彼らが歓喜の声を上げた。
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