44 絶望の戦場で、それでも聖女は前を向く(フラメル視点)
帝国軍と王国軍の戦いは『王国優勢』から『一方的な虐殺』へと変わった。
「ぎゃあっ……」
「ぐああっ……」
戦場に阿鼻叫喚が響き渡る。
20体の巨大なゴーレムが帝国兵たちを容赦なく踏み潰し、肉塊と骨と臓物の塊へと変えていく。
「っ……!」
凄惨な光景にフラメルはゾッとなった。
これはもはや戦闘とは呼べない。
まるで虫を潰すように、帝国兵たちが原形をとどめないまでに潰されていく。
「ううっ……」
「おええっ……」
【遠隔視】の映像で多くの隊員がその光景を見ているが、中には耐えきれずに泣き出したり、嘔吐する者もいた。
「お、おのれぇっ!」
絶望的な戦場の中、全身鎧をまとった巨漢が大剣を振り上げた。
【鋼鉄将軍】の異名を持つ、帝国の猛将ゴーゼリオだ。
「たとえ相手がなんであれ、我が軍は負けん! 臆するな、俺に続けぇっ!」
味方を鼓舞しようというのか、ゴーゼリオは単身突っこんでいく。
だが――それはあまりにも無謀な突進だった。
「駄目、逃げて……!」
フラメルは唇をかみしめる。
「おおおおおおっ!」
ゴーゼリオの大剣がゴーレムの装甲にわずかな傷をつける。
踏み潰そうと迫るゴーレムたちの間をかいくぐり、懸命に立ち回る。
その戦いぶりは、すさまじかった。
「おいおい、がんばってんなぁ」
と、ゴーレムの向こうから一人の男が進み出る。
ゴーゼリオに劣らぬ体格の巨漢だ。
ただ、こちらは戦士ではなく魔術師のローブを着ている。
【氷嵐の三魔剣】の一人、確かガストンといったはずだ。
「変に王国軍の士気が高まっても面倒だからな。お前はここで死ね」
ごうっ!
ガストンが火炎魔法を放つ。
ゴーレム相手に戦っているゴーゼリオに、それを避ける余裕はなかったようだ。
一瞬にして、その全身が炎に包まれた。
「ぐあああああ……っ」
断末魔とともに、消し炭になるゴーゼリオ。
「う、うわぁぁぁっ、将軍!?」
「も、もうだめだぁぁぁっ!」
それを契機に帝国軍は総崩れになった。
――ほどなくして、
「フラメル様、防衛線が突破されました! 王国軍がこちらに向かってきます!」
伝令兵が血相を変えて飛び込んできた。
救護所内に動揺が走る中、フラメルだけは冷静だった。
「――王国軍が到達したら、ここはひとたまりもないね」
唇をかみしめる。
それから即座に決断した。
「聖乙女部隊、全員に告ぐ。今より即時撤退を開始! 負傷兵の搬送を最優先に!」
フラメルは全員に向かって告げた。
「あたしはここに残って防御結界を最大出力で展開。王国軍を食い止めるから、後のことはお願いね」
「フラメル様お一人で!? 無茶です!」
「それなら私も残ります!」
「私も!」
「あたしも!」
と、隊員たちが口々に叫ぶ。
誰もがフラメルを案じているのが分かった。
その気持ちを嬉しく感じながら、フラメルは首を左右に振った・
「ありがとう、みんな。でも、無駄な死人は増やしたくないの。あたし一人でやれるだけやってみるから、みんなは撤退に全力を」
「でも……」
「命令よ」
フラメルが凛とした口調で言った。
「たとえ、ここであたしが殺されるとしても――君たちは生きて。そして、これからも帝国軍を癒やしてあげて」
犠牲を最小限に抑えるためには、それしかない。
聖乙女部隊の隊員たちと負傷兵たちが全員撤退して数分後――。
ずしん……ずしん……。
地響きと共に、救護所の前方にゴーレムの軍団がやってきた。
建物ごと潰されてはたまらないので、フラメルはすでに外に出て、彼らを待ち構えている。
「おや、【癒しの聖女】様自らお出迎えとは」
ゴーレムの一体の肩に乗っているガストンがニヤリと笑った。
「あらぁ、すごい美少女じゃない~」
「緑の髪……聖女というより魔女だね」
他のゴーレムに乗っている女と少年の魔術師――確かそれぞれベスティラとロヴィンという名だったはずだ――が、フラメルを見て言った。
「君たちが【三魔剣】だね。ここから先は通さない」
フラメルは敢然と言い放った。
「くくく、威勢がいいな。だが、たった一人で何ができる?」
「安心して、殺しはしないからねぇ」
「捕虜にするだけだ。ただ、抵抗するならそれなりの目には合わせるよ」
三人が口々に言い放つ。
「【リアクトウォール】!」
フラメルは防御魔法を発動した。
彼らの進行を遮るように、長さ数百メートルの巨大な魔力障壁を生み出す。
「ほう!? これだけ巨大な防御結界を無詠唱で」
ガストンが驚いた顔でうなった。
「防御魔法という点なら、六神将にもここまでの使い手はいねぇ……さすがにやるな」
「だけど、多勢に無勢よぉ」
ベスティラが舌なめずりをする。
「やれ、ゴーレム」
ロヴィンが冷然と号令した。
同時に二十体のゴーレムがいっせいに向かってきて、拳や蹴りを繰り出す。
ばちっ、ばちぃぃっ!
すさまじい衝撃を受けて、防御結界が激しく明滅した。
「くっ……」
どこまで耐えられるか――。
フラメルは唇をかみしめながら、結界を維持するために魔力を振り絞った。
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