39 僕が、剣を振るう理由は2
シェラの案内にしたがって、僕はリビティア王城の庭園を歩いた。
美しい景観もさることながら、行き交う人々が僕の視線を引きつける。
そして城下町に出ると、その活気はさらに増した。
シェラが道行く人々から『シェラ姫様!』と親しみを込めて呼ばれている。
彼女は誰にでも笑顔を向け、丁寧に挨拶を交わしていた。
「随分とご人気なんですね、シェラ様は」
僕は思わず微笑を浮かべていた。
人々の雰囲気が温かくて、こちらまで癒やされる。
「ふふ、わらわが三人の中で一番人気じゃぞ」
シェラは鼻高々に説明した。
「惚れたか?」
「いえ、ただ人気なんだな、と思っただけです」
「つれないのう」
シェラが拗ねたように頬を膨らませる。
「まあ、よいか。時間をかけて、少しずつわらわのことを知ってもらうとしよう。わらわも、そなたのことをもっと知りたい」
「僕は――」
言いかけた僕の言葉を、シェラは遮った。
「のう、ここは美しい都だと思わんか?」
と、周囲を見回す。
「人々は活気にあふれ、みなが笑顔じゃ。それは父上――国王陛下の統治のたまもの。やがては、それを継ぐ者がさらに優れた統治をおこない、この国をもっと発展させねばならん」
そう言って、シェラは僕を見つめた。
「わらわはこの国を、都を、街を愛しておる。ずっと守っていきたい。だから、わらわと一緒になる者にも、この国を愛してほしい」
「だから、僕にここを案内した、と」
「うむ。もし、わらわとともに歩んでくれるなら――」
シェラはそう言って、はにかんだ笑みを浮かべた。
「いや、少々語りすぎたか。いきなりこんな話をして、押しつけがましかったかもしれん。すまぬな」
「いえ、シェラ様は本当にこの国がお好きなんだと伝わってきました」
僕は微笑んで答えた。
「惚れたか?」
「いえ、それはまた別の話です」
「つれないのう」
シェラが口を尖らせる。
その姿は、まるで年下の少女のように可愛らしく見えた。
「もし、クレストがわらわと共に歩むことを選んでくれるなら――」
彼女の目が遠くを見る。
「もう憎しみや復讐のために剣を振るうことはなくなる。そなたの瞳の奥底に感じる深い怒りや憎悪――それが、そなたが戦う理由であり、源泉であろう?」
「僕は――」
僕はハッとなった。
彼女の言葉は、僕の心の奥底にある真実を言い当てていた。
「……民を守るために戦っています」
僕は自分の中の想いから目を背けるように、そう答えていた。
いや、嘘はついていない。
『クレスト』として初めて出陣したとき――虐げられる帝国の民を見て、守りたいと思ったのは事実じゃないか。
と、
「それもそなたの真実。だが、憎しみもまた真実」
シェラが淡々と語った。
僕は何も言い返せなかった。
自分の中に宿る深い憎しみ――前世で僕を処刑し、嘲笑した王国への憎しみを自覚しているからだ。
その憎しみが、僕が戦う原動力の一つであることも分かっている。
もう一方の原動力は、民を守りたいという心だけど……どちらが一番の理由なのか、僕自身にも分からなかった。
僕は……本当は、なんのために戦っている……?





