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5 敵は20人の魔術師


「いくらお前が帝国最強の騎士だとしても、20対1ではどうにもなるまい?」

「くくく、帝国の英雄をここで討てば、俺たちも大手柄だぜ」


 魔術師たちは下卑た笑みを浮かべていた。


「お前たちを殺す前に、一つ聞いておきたい」


 僕は自分でも驚くほど冷ややかな声で、彼らに問いかけた。


「ここで虐殺と略奪が行われていた。誰の指示だ?」

「はあ?」


 魔術師は、心底から面倒くさそうに顔をしかめた。


「指示なんてあるわけないだろうが! こんなこと、俺らにとっては日常茶飯事だ!」

「帝国の連中なんて、奪うだけ奪い、殺すだけ殺し、犯すだけ犯す! ははははは、こんなもんは危険な前線に出るための当然の見返りだ!」

「最高の娯楽だよな、くくく」


 彼らの言葉に、僕の中の何かが切れた。


「……なるほど、よく分かった」


 醒めていく。


 かつての祖国に対する思いが。


 処刑されたときに、その大半が消え失せ、なおも残っていたひとかけらの郷愁さえもが。


「メルディアによる虐殺と略奪行為は、前線において常態化している――そう考えていいんだな?」

「だから、なんだってんだよ!」


 一人の魔術師が、僕を嘲るように言った。


「もしかして、怒っちゃってるぅ? ごめんねぇ、皇子様ぁ。お前が大切に思ってる国民を、俺たちがさんざんブッ殺しちゃってさぁ――ぐぎゃぁっ!」


 言葉の途中で、魔術師が血を吐き出した。


 口から。鼻から。目から。耳から。


 さらに体中の穴という穴から――。


 そいつは噴水のように全身から鮮血を吹き上がらせ、みるみる顔を青ざめさせていく。


「あ……が……」


 苦痛に顔を歪ませながら、そいつは倒れて息絶えた。


「ひ、ひいっ……」

「な、なんだ、今の……!?」


 魔術師たちが戦慄したように後ずさる。


「――なるほど」


 僕は口の端を歪めて笑う。


 これが【魔眼】か。


 僕は内心でほくそ笑んだ。


 今のは覚醒した【魔眼】の一つ――【毒殺の魔眼】。


 魔術師が相手では剣一本で立ち向かうのも限界がある、と思って試してみたんだけど、こいつは使えそうだ。


「毒殺というのが、さっきと同じ効果だけなのか、他にもバリエーションがあるのか――」

「毒殺……?」

「毒魔法の類か?」

「馬鹿な! この一帯には、俺たちが展開した防御結界が張られている! 無詠唱の初級魔法ごときで貫けるはずが――ぐごぉっ!?」


 僕が視線を向けただけで、二人目の魔術師が苦しみ出した。


 今度は全身の皮膚がカサカサに乾き、ひび割れ、そいつは苦しそうに全身をかきむしり始めた。


 体中の水分を搾り取る――。


 どうやら、今度の毒はそういうタイプのようだ。


「ぁ……か……はぁ……」


 口をパクパクとさせながら、そいつは倒れて息絶えた。


「さあ、次はどんな殺され方がお望みだ?」


 僕は残った魔術師たちを見回した。


「なんだ、こいつ……!?」

「なんなんだよ、お前ぇ……!」


 彼らの顔から、余裕の笑みが完全に消え失せる。


「順番に殺す」


 僕は、恐怖に引きつる彼らの顔を見下ろしながら、冷たく言い放った。


「仲間が一人ずつ消えていく恐怖をゆっくり味わえ」


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