37 疑惑の邂逅(リゼッタ視点)
SIDE リゼッタ
帝城で戦勝の宴が行われた翌日。
活気に満ちた帝都ヴァールの大通りに一人の女の姿があった。
彼女の名前はリゼッタ・リドラー。
赤い髪をポニーテールに結んだ、活発そうな印象を与える美女だ。
年齢は二十二歳。
日々の鍛錬で引き締まった体に、軽装の鎧を身に付けている。
諸国を行脚する武者修行の剣士として、彼女は名を馳せていた。
半年ほど前までメルディア王国に滞在していたリゼッタは、現在、このヴァールハイト帝国を拠点としている。
「ここに噂の【黒騎士】がいるのか」
リゼッタがつぶやいた。
最近、メルディアが誇る六神将のうち【雷光】のテスタロッサと【烈火】のウェインガイルの二人を立て続けに撃破したという。
その功績もあり、民衆からの人気は爆発的に上がっている。
ただ、リゼッタはそれに引っかかるものを感じていた。
「【黒騎士】クレストは、以前は使っていなかった魔法能力を使うようになり、無敵の魔法騎士となった…その噂が真実なのか、どうか」
民衆の間で噂になっている【黒騎士】の新たな力。
今の彼は、元々備えていた超絶の剣技に加え、【魔眼】まで身に付けているという。
「【魔眼】……そんなレアスキルを持つ者が、お前以外にもいるなんてな。アレス……」
かつての弟子だったメルディアの王子のことを思い出す。
当時、彼女は宮廷付き剣術師範で、王族全員に剣を教えていた。
その教え子の一人が、アレスというわけだ。
彼は、お世辞にも剣の才能に恵まれていたとは言えなかった。
ただ、兄弟の誰よりも一生懸命だった。
自分に剣の才能がないと知っても、努力で少しでもそれを補おうと、毎日ひたむきに訓練を続けていた。
リゼッタは、そんな彼に好感を抱いていた。
必然的に指導に熱が入った。
七つほど年下のアレスに対して、実の弟のような感情すら持っていた。
だが――彼は既にこの世にはいない。
不吉な【魔眼】を持つとして他の王子や王女たちから糾弾され、王の判断のもとで半年前に処刑されてしまったのだ。
それがきっかけとなり、リゼッタは職を辞してメルディア王国を去ったのだった。
と――、
「……あれは?」
感傷に浸っていたリゼッタは、目の前の人だかりを見て、意識を現実に戻した。
どうやら噂のクレスト皇子が街を歩いているらしい。
しかも、隣にはリビティア王国の王女、その美貌で評判のシェラがいる。
二人は仲睦まじく、どうやらシェラの方がクレストに執心のように見えた。
カフェのテラス席に座り、食事をしているようだった。
「なんじゃ、クレスト殿――いや、クレスト。わらわとの逢瀬がそれほど嫌なのか?」
「そういうわけではありませんが…」
シェラの問いに、クレストは困ったような顔で答える。
「なら、嬉しいのじゃな?」
「そういうわけでも……」
「……煮え切らん奴じゃのう。だが、それはそなたの純粋さから来る態度かもしれんな」
シェラは楽しそうにクスクスと笑う。
恋する乙女そのものといった様子だ。
「そう考えると好ましく思えてくる……ふふ、惚れた弱みかの」
「あ……はは……」
終始楽しげなシェラとは対照的に、クレストは困っている様子だった。
「ん……?」
リゼッタはわずかに眉根を寄せた。
先ほどからのクレストの態度――困ったときに頬を掻く仕草や目線の揺れ具合が、どことなくアレスに重なったのだ。
「容姿はまるで違うのに、まるでアレスを見ているような――」
そこまでつぶやいたとき、リゼッタはハッと気づいた。
「魔眼……か」
かつて【魔眼】の使い手として処刑されたアレス。
先ごろ、突然【魔眼】に目覚めたクレスト。
「……何か、引っかかる」
リゼッタの中で、何かがざわめく。
不吉な予感が、胸の内で渦を巻き始める。
ちゃりん……。
そのとき、シェラのイヤリングが外れ、リゼッタの近くまで転がってきた。
「僕が拾います、シェラ様」
クレストがこちらに歩いてきた。
そこでリゼッタと目が合う。
「あ……」
クレストが息を呑んだ。
「先生……!?」
その言葉は、ほとんど聞こえないほどの小さな声。
だが、リゼッタの耳には届いていた。
「――失礼」
クレストは周囲に断り、イヤリングを拾い上げる。
それ以上、リゼッタとは視線を合わせずに。
「お前……!」
リゼッタが小さくうめいた。
まさか、と、胸の内で疑念が広がる。
(まさか、本当に――)
アレスとクレストが同一人物。
そんなことがあり得るのか……!?
リゼッタの胸はざわめき続けるのだった。
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