34 リビティアの王女シェラとの出会い1
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帝都ヴァールを貫く大通りは、熱狂に揺れていた。
道の両脇を埋め尽くした帝都の民衆が、僕たちに向かって割れんばかりの歓声を上げている。
「見ろ、【黒騎士】様だ!」
「お隣には【癒しの聖女】様もいらっしゃるぞ!」
「メルディアの六神将を二人も討ち取った、帝国の英雄だ!」
「クレスト様、万歳!」
「フラメル様、万歳!」
空には色とりどりの紙吹雪が舞い、僕たちの凱旋を祝福していた。
軍の先頭で馬を進めながら、僕は隣に並ぶフラメルに視線を送る。
「いつもにも増して、すごいね」
フラメルが僕にだけ聞こえるように、そっとささやいた。
馬を寄せているせいで、彼女の顔がすぐ近くにある。
「そ、そうですね。少し驚きました」
「? どうかしたの、クレストくん」
僕のぎこちない返事に、彼女が不思議そうに小首をかしげる。
「い、いえ、ちょっと顔が近いかな、と……」
「……! や、やだな、もう」
今度はフラメルの頬がさっと赤く染まった。
彼女は慌てたように少しだけ距離を取る。
「あたしたち、姉と弟だからね。これくらい普通よ」
「……いちおう、ですけど」
「……そうだね、いちおう」
僕たちは顔を見合わせて、どちらからともなく微笑んだ。
以前の僕たちなら、こんな軽口を言い合うことなんてなかっただろう。
レイガルド要塞での戦いを経て、互いの秘密を打ち明けたことで、僕たちの間の壁は完全に取り払われた。
そのおかげで、二人の距離は目に見えて縮まっている。
彼女の笑顔を見ていると、胸の奥が甘く疼くのを感じた。
この感情が何なのか、今の僕にはまだ分からない。
けれど、すごく温かくて、心地いいものだということは確かだった。
「ほら、みんなに手を振りましょ。帝国の英雄なんだから」
「そうですね、姉上」
僕は彼女に促されるまま、民衆に向かって手を振った。
と、
「……フラメル、って呼んで」
ふいに彼女がつぶやいた。
僕は思わず振り返る。
「二人きりで話すときは、名前で呼んでほしいの」
真剣な光を宿した瞳が僕を見つめていた。
「駄目、かな?」
「姉上が――いえ、フラメルが望むなら」
僕は力強くうなずいた。
本当は、心の中ではずっと彼女のことを『フラメル』と呼んでいた。
それは、僕が『アレス』であって、彼女とは実の姉弟ではないという意識があったからだ。
でも、今は違う。
実際に血のつながりがないことを知り、お互いの秘密を分かち合ったからこそ――僕はもう、彼女を『姉』として見ることはできない。
これからは、一人の大切な女性として『フラメル』と呼ぼう。
僕は心にそう誓った。
帝城、謁見の間。
「クレスト、フラメル、大儀であった」
僕とフラメルの戦勝報告を受けて、玉座に座る皇帝は満足げにうなずいた。
「レイガルド要塞を防衛し、メルディアの六神将【烈火】のウェインガイルを討ち取ったこと、見事であったぞ!」
「はっ。もったいなきお言葉です、陛下」
僕は深く一礼する。
「特に今回はクレストくんの働きが目覚ましく――」
その隣で、フラメルがにっこり笑って口添えした。
「ぜひ、彼に特別な褒賞をお願いいたします」
「フラ……姉上」
反射的に名前を呼びかけたところで、周囲の目を気にして、即座に『姉上』と言い直した。
「レイガルドを守ることができたのは、君のおかげでしょ」
パチンと片眼をつぶるフラメル。
「うむ、お前たちの功績には十分に報いるつもりだ」
皇帝がまた満足げにうなずく。
と、
「……ちっ、またこいつらの手柄か。忌々しい……」
列席していた皇族の中から、小さな舌打ちとつぶやきが聞こえた。
第一皇子、ジークハルトだ。
皇帝にまでは届かず、僕にぎりぎり聞こえるくらいの声音で言っているのは、もちろんわざとだろう。
彼の表情には、隠そうともしない嫉妬と敵意が渦巻いていた。
「素晴らしいご活躍です、クレスト兄上、フラメル姉上。お二人は我が国の誇りですね」
対照的に、第四皇子のゲルダは満面の笑みで僕たちを称賛する。
「ありがとう、ゲルダ」
僕は会釈を返した。
だけど、ゲルダの瞳の奥には計算高い光がちらついているのを、僕の【魔眼】は見逃さない。
そして――第一皇女のレミーゼは、ただ静かに微笑んでいる。
感情の読めない虚無的な瞳で、じっと僕たちを見つめている。
この国の皇族は、一筋縄ではいかない連中ばかりだ。
「今宵は祝宴を開くとしよう。二人の英雄を、皆で盛大に称えようではないか!」
皇帝が朗々とした声で宣言し、謁見は終わった。
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