33 告白1
「姉上――」
僕はあらためてフラメルを見つめるた。
ふと、考える。
フラメルは、僕の中に『弟』のクレストを見ている。
今の僕の姿に、彼女が知る本来のクレストの姿を重ね合わせているに過ぎないのだろう。
僕が向けられている優しさは、僕自身に向けられたものではない。
それは、もうここにはいない誰かのためのものなのだ。
そう考えるとどうしようもなく寂しくなり、僕は衝動的に口を開いていた。
「僕は――以前の僕とは違います」
「え……?」
フラメルが戸惑ったように小さく声を漏らす。
「もしも……もし仮に、僕がクレスト・ヴァールハイトではないと言ったら、姉上はどう思いますか?」
「……別人、ということ?」
彼女の表情が真剣なものに変わる。
僕は黙ってうなずいた。
もしかしたら――このやりとりで、僕の正体を見抜かれてしまうかもしれない。
僕が『アレス・メルディア』であるという、最大の秘密が。
それでも、構わない。
この人になら――ヴァールハイト帝国で唯一心を許せる彼女になら、すべてを打ち明けてもいいのかもしれない。
「なんとなく……違和感はあったの」
フラメルがポツリとつぶやいた。
「以前のクレストくんは、君みたいな優しい雰囲気はなかった。兄弟の誰からも距離を取っていて、淡々と戦場で剣を振るって……」
遠い目をして語り出す。
「あたしとも姉弟というより単なる戦闘のパートナーみたいな感じで……なんだか、感情というものをあまり感じなくて、不気味な部分もあったの」
僕は『元のクレスト』について、その功績や能力は知っているが、人物像はあまり知らない。
冷たく、孤高の英雄。
それが僕が成り代わった男の姿だったらしい。
「でも、今の君は明らかに違う。もっと人間的で、情熱的で……何よりもずっと繊細だと思う」
フラメルが微笑んだ。
その笑顔は優しく、慈愛に満ちていて、僕の心の壁を溶かすような温かさを備えていた。
「だから、あたしは君を支えたい、って思ったの。強いけど不安定な君を見ていると、切なくなる――」
それは僕の性格だけじゃなく、魂そのものがこの体に完全に定着していない不安定さに起因しているのかもしれない。
「以前から……姉上は僕を以前とは違う別人として見ていた、ということですか?」
僕の問いにフラメルはコクンとうなずいた。
「違和感が決定的になったのは、この間の戦場ね。君が【魔眼】を暴走させたとき、確かにこう言っていた。『僕はクレストじゃない。アレス・メルディアだ』って」
「――!」
僕は息を飲んだ。
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