28 大切なものを守るために2
いや、僕だけじゃない――。
僕は背後にいるフラメルに、視線を送った。
フラメルはそんな僕に笑顔でうなずいた。
「お前にもいるんだな。守りたい、大切な存在が」
ウェインガイルが冷たい声で言った。
「なら、奪ってやる。お前の目の前で、燃やし尽くしてやる。俺が味わったのと同じ絶望を、お前にもたっぷりと味あわせてやる……!」
「――させない」
その瞬間、僕の心は驚くほど醒めていた。
恐怖も、焦りも、今はもうない。
代わって僕の中に芽生えた感情は――、
「フラメルは、僕が守る」
そう、身を挺して僕を救ってくれた彼女を。
いつも優しい笑顔を向けてくれる彼女を。
もう、彼女に対して疑念は抱かない。
疑念を抱きたくない。
ただ、信じたい。
だから――。
「最後の勝負だ、ウェインガイル。お前が僕の大切な者を奪うというのなら、僕はその前に――お前の命を奪う」
「やってみろ、黒騎士」
ごうっ!
僕の決意に応えるように、ウェインガイルの全身から立ち上る漆黒の炎が、どこまでも燃え広がっていく。
天を覆い、地を焼き、戦場そのものを巨大な黒いドーム状の炎で包み込んでしまった。
「――【終焉の烈火】」
ウェインガイルが静かに告げた。
僕は周囲の半径20メートルほどを覆う黒い炎を見回す。
おそらく、これが奴の切り札だ。
見たところ回避も防御も、そして逃走も不可能――。
「こんな術があるなら、最初から使っていれば、お前の勝利は決まっていたはずだ」
僕は絶望的な状況の中で、淡々と分析する。
「それを使わなかったということは、つまりこの術に重大な弱点があるということだろう」
「――そうだな。確かに弱点はある」
ウェインガイルは、歪んだ笑みを浮かべた。
その顔は、もはや半分以上が炭化している。
「こいつは俺の命そのものを媒介にしている。この術を使った以上、俺は遠からず死ぬ――」
凄絶な笑みだった。
「俺の命が燃え尽きるまで耐えきれば、お前の勝ちだ……そんなことは不可能だが、な」





