26 黒騎士と聖女、重なる心2(フラメル視点)
「うう、鎮まれ……ぇっ」
クレストは両手で頭を抱え、地面に崩れ落ちた。
自分自身でもこの暴走を止められず、もがき苦しんでいるのだろう。
そんな彼の姿を見ていると、胸が締め付けられるように痛んだ。
「どうして、僕を殺した……父上……兄上……姉上……僕は、何もしてない……のに……メルディアの……忌まわしい王子……なんて……非難……」
メルディア。王子。父上。兄上、姉上。
その言葉が、ヴァールハイト帝国の皇子であるクレストから出てくるのは奇妙だった。
まるで彼が――ヴァールハイトではなく、本当はメルディアの王子であるかのような言葉。
「君は……」
フラメルが呆然とつぶやく。
「本当に、クレストくんなの……?」
それとも――。
「君は、誰……!?」
「ううううう……」
クレストはあいかわらず苦しんでいる。
――そうだ、今はそんなことはどうでもいい。
フラメルは、さらに彼に近づいた。
ばちぃっ!
周囲に激しい雷光が走る。
【魔眼】による【吸収】が作用し、それをフラメルが全身にまとう防御結界が弾き返したのだ。
「やっぱり……無差別に【吸収】を……」
ばちっ、ばちぃっ……!
何度も【吸収】を受け、そのたびに弾き返す。
フラメルとて【癒しの聖女】とまでよばれる術者である。
攻撃魔法はいっさい使えない代わりに、防御や治癒魔法の才能は大陸でも随一と称されている。
その彼女の防御結界はさすがに【魔眼】も簡単には突破できないようだった。
「クレストくん、もう大丈夫だよ」
フラメルはついに彼の側まで歩み寄った。
「君は、一人じゃないから」
苦しみながらも、帝国の民や兵を守るために体を張り、苦闘する彼を見ていると、たまらない気持ちになる。
以前の戦鬼のようなクレストとは違う。
いや、戦闘能力自体は戦鬼そのものだが、以前と比べて随分と優しく、同時に繊細になったように感じる。
まるで別人のように――。
(……別人?)
フラメルはハッとなった。
『クレスト……じゃ……ない……僕は……メルディアの……王子……!」
先ほどの彼の言葉が、符号のようにぴったりとはまる。
「もしかして、そういうことなの……?」
それは突拍子もない仮説だった。
「まさか、本当に別人――」
「うううう……ぐうう……っ」
と、クレストの苦悶の表情が濃くなった。
「クレストくん! 今、あたしが――【ヒール・第八階梯】!」
フラメルは慌て治癒魔法を発動した。
彼女が今使える最上級の治癒魔法だ。
その効果は単純に体の傷を癒やすだけでなく、精神と魂をも癒やす。
反面、魔力の消耗がすさまじく、滅多なことでは使えない奥の手のような術式だった。
まばゆい光が戦場を照らし出す。
その光に包まれたクレストの動きが止まった。
十秒……二十秒……三十秒……。
実際にはわずかな時間だったはずだが、フラメルには永遠とも思える時間が過ぎ――、
「フラメル……!?」
クレストがこちらを見つめる。
焦点が合っていなかった目は、まっすぐに彼女を捉えていた。
「僕は……」
「よかった……正気を取り戻したんだね」
フラメルは大きく息を吐きだした。
力が抜けていく。
そのまま彼の胸元に飛び込むようにして倒れてしまった。
「……フラメル。僕は……何を……ううっ」
クレストはまだ呆然とした表情で彼女の名を呼んでいる。
『姉上』ではなく『フラメル』と。
「もう……大丈夫だから……ね」
フラメルが微笑む。
「……姉上」
クレストは真剣な表情でうなずいた。
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