23 防衛戦、最終局面へ
――しゅんっ。
僕が【吸収の魔眼】を発動した瞬間、六つの火球は一瞬にして消滅した。
同時に絶大な魔力の塊が僕の中に入ってくる。
【吸収】は成功だ。
ウェインガイルの遠距離火炎砲撃は脅威そのものだったけど、僕の【魔眼】があれば無効化できる。
「うおおおお、さすがクレスト殿下!」
「我らが英雄、【黒騎士】の力を見たか、王国軍ども!」
「殿下さえいれば、俺たちの勝ちだ!」
背後の要塞から帝国軍の兵士たちがいっせいに歓声を上げた。
まさに地鳴りのような大歓声だ。
味方の士気が一気に最高潮に達したのを感じる。
――けれど、僕は彼らの歓声に応えることができなかった。
「うっ……!?」
突然、激しいめまいが僕を襲った。
強烈な吐き気もこみ上げてくる。
「なん……だ……これ……は……!?」
気持ちが悪くて立っていられない。
僕はその場に力なく膝をついた。
「はあ、はあ、はあ……」
呼吸が荒くなり、全身から嫌な汗が噴き出してくる。
「まさか、これは――」
僕はハッと気づいた。
おそらくこれは……許容量を超えるほどの魔力を、一度に吸収してしまったことによる反動だ。
【雷光】のテスタロッサ戦と比べても、比べ物にならないほど大量の魔力を一度に吸収したせいなんだろう。
僕の体がその反動で大きな負担を受けている――?
「――【鑑定】」
反射的に、自分自身に【鑑定の魔眼】を使った。
『魂の定着率:58%(警告:定着率が激しく低下中。さらに低下すると魂と肉体が分離する危険性あり)』
目の前に浮かんだ文字列は、警告を発するような赤色だった。
嫌な予感がした。
このまま定着率が下がり続ければ、僕の魂は『クレスト』の体から剥がれてしまうかもしれない。
【吸収の魔眼】は、使い方を誤れば僕自身の身を滅ぼしかねない諸刃の剣ということだろう。
今回の戦いでは、もうこれ以上の【吸収】は使えない。
ただ、幸いなことに、敵からの追撃の火炎魔法は放たれてこなかった。
「奴も魔力をかなり消耗しているのか……?」
だとしたら、今こそが千載一遇の好機だ。
僕が【吸収】を使えない以上、ウェインガイルが消耗している今をおいて、攻め入る好機はない。
僕は歯を食いしばって立ち上がり、剣を高く掲げた。
「いくぞ、みんな!」
僕は先陣を切り、敵軍の真ん中へと駆け出した。
「全軍、続け! クレスト殿下に――英雄【黒騎士】に道を開けるのだ!」
背後から、ドルファの力強い号令が響き渡る。
同時に、帝国軍の総攻撃が開始された。
騎士たちが雄叫びを上げて突撃する。
後方からは弓兵の矢や魔術師たちの攻撃魔法が、援護するように次々と放たれていく。
と――。
走りながら、僕は自分の体に起きた異変に気づいた。
「なんだ、この脚力……!?」
体が、さっきまでとは比べ物にならないほど軽い。
地面を蹴るたびに、信じられないほどの推進力が生まれる。
ただでさえ人間離れしていた『クレスト』の身体能力が、さらに底上げされているのが分かった。
「限界まで魔力を吸い込んだからか……? それとも僕の【魔眼】が成長している……?」
僕は人間離れしたスピードで敵陣まで突入した。
ざんっ!
ざんっ!
ざんっ!
超速の剣技で立ちはだかる王国兵たちを次々に斬り伏せていく。
「は、速い!」
「なんだ、こいつ!? 化け物か!?」
「む、無理だ、こんなの――ぐあっ!?」
僕の狙いはただ一人だ。
「奴はどこだ――」
敵陣の奥深くへと一直線に向かう。
次々に兵士たちを薙ぎ払い、ついに陣地の最奥に立つウェインガイルを発見した。
「見つけたぞ――」
僕が彼のもとへ向かおうとした、そのときだった。
一人の女魔術師が率いる部隊が、僕の前に立ちはだかった。
「ウェインガイル様は帝国の魔の手から王国を救うお方! ここで討たせはしない!」
可愛らしい顔立ちだけど、その表情は憎々しげに僕をにらんでいる。
「帝国の魔の手? 侵略者は王国の方だろう」
僕は彼女に言った。
「戯言を!」
聞く耳を持たない様子だ。
その姿が、かつての僕に重なる。
メルディア王国こそが正義だと、心の底から信じていた。
この戦場で彼らの凄惨な行動を目の当たりにするまでは……。
「言葉は無意味か」
僕はそれ以上の問答を止めて、剣を構え直した。
「正面からまともに戦うな! 散開して囲め!」
彼女の指示とともに、魔術師たちが僕を半包囲して魔力弾を撃ってきた。
「……ちっ」
さすがに遠距離に散らばった敵を、同時に斬り伏せることはできない。
【吸収】が使えない今、無数の魔力弾は厄介だった。
「このっ……!」
僕は魔力弾を剣で弾き、あるいは紙一重でかわしながら、別の【魔眼】を発動する。
【石化の魔眼】だ。
これなら、剣が届かない間合いの敵も倒すことができる。
僕の視線を受けた魔術師たちが、次々に悲鳴を上げる間もなく石像へと変わっていく。
瞬く間に、残るは彼女一人となった。
僕は彼女にも【石化】の視線を向けた。
けれど――。
「何……!?」
彼女の左足が膝から下だけ石に変わっただけで、それ以上の変化は起きなかった。
全身を石に変えることができない。
【石化】の効力が、明らかに落ちている――。
「【吸収】にしろ【石化】にしろ、使い過ぎたということか……!」
ならば、と僕は剣で彼女を斬り伏せようと駆け出した。
ごおおおおおっ!
その瞬間、巨大な炎の壁が出現して僕の行く手を塞ぐ。
「ローディはやらせん」
炎の向こうから、低い声が響く。
「ウェインガイル様!」
「どうやら【黒騎士】の【魔眼】は、随分と消耗しているらしいな。よくやった、ローディ」
ウェインガイルは彼女……ローディを労うと、僕の方に向き直った。
「後は俺がやる」
僕とウェインガイルが対峙する。
「こうして相まみえるのは初めてだな」
二つ名の通り、燃えるような瞳で僕をにらみつけるウェインガイル。
「帝国の英雄、【黒騎士】クレスト・ヴァールハイト……陛下の炎として、そして平和な王国の実現のため――」
ごおおおおおおおおおおおおおっ!
彼の言葉に呼応するように、その全身から天に届くほどの巨大な炎が立ち上った。
「お前を、燃やし尽くす」
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