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21 二人の忌み子

 城内の救護所は、負傷した兵士たちでいっぱいだった。


 その中で、フラメルが懸命な様子で動き回っている。


「【ヒール・第三階梯(かいてい)】」


 彼女の手から放たれる光が負傷兵の傷を癒やしていく。


 以前、彼女が僕に使ったのは【第七階梯】だったが、今は大量の負傷者に対応するため、治癒魔法のレベルを下げ、魔力の消費を抑えているようだ。


 そうしなければ、全員に治癒魔法を行き渡らせることはできないからだろう。


 その分治癒効果は落ちるが、完全に治せなくても、命をつなぐための応急処置にはなる。


「それにしても――規格外の魔力量だな」


 僕はつぶやいた。


 第三階梯の【ヒール】でさえ、並の術者なら十人も癒やせば魔力が尽きてしまうはずだ。


 それを、彼女はもう百人以上に施していた。


「はあ、はあ、はあ……っ」


 けれど、さすがのフラメルも限界に近いようだった。


 額に玉のような汗がびっしりと浮かび、呼吸も荒くなっている。


「姉上、少し休んだ方がいいのでは?」


 治療の邪魔にならないように救護所の端で様子を見ていた僕は、思わず彼女に声をかけた。


「クレストくん、まだ起きていたの?」


 フラメルは驚いたように振り返った。


 どうやら僕が見ていたことにも気づいていなかったらしい。


 それだけ治療に没頭していたんだろう。


「君はもう寝た方がいいよ。ウェインガイルの本隊がいつ攻めてくるかも分からないんだから」

「ですが、姉上は……」

「これがあたしの仕事」


 フラメルは気丈に微笑み、右腕で額の汗をぬぐう。


「えっ……?」


 そのとき袖がめくれ、彼女の右腕に痛々しい火傷の跡があることに気づく。


「姉上、お怪我を――?」

「ああ、これ? クレストくん、知らなかったっけ?」


 息を呑んだ僕に、フラメルはキョトンとした顔になった。


「ただの古傷よ」


 と、寂しげな顔になって微笑む。


「昔、色々あって……ね。あたしを忌み子だと蔑む人もいるから」

「忌み子……」


 その言葉が胸に突き刺さった。


 かつてアレスだったころ、僕もそう呼ばれていた。


 忌まわしい【魔眼】を持つ王子として、家族からも民からも疎まれ、罵声を浴びせられた。


 そして――処刑された。


 フラメルも、僕と同じような苦しみを味わってきたんだろうか。


「皇帝陛下の実の娘じゃないとか、緑の髪を持つ魔女だとか……」


 フラメルは苦笑を浮かべながら言葉を続ける。


「民からは、あなたは聖女と呼ばれているはずです」

「それが疎ましいと感じる者もいるのよ。事故に見せかけて殺されそうになったことも、一度や二度じゃない……この傷は、そのときの名残よ」


 淡々と語るフラメル。


 その笑顔の裏に、どれだけ多くの悲しみや痛みを隠しているんだろう。


 と、フラメルが僕の顔をじっと見つめて言った。


「クレストくん、なんだか前よりも優しくなったね」

「えっ……?」

「前のクレストくんは、他の兄弟たちみたいにあたしを疎んだりはしてなかったけど……今みたいに、心配してくれることはなかったから」


『前のクレスト』――僕が転生する前の、『本来のクレスト・ヴァールハイト』のことか。


「あたしのことを、まがりなりにも『家族』だって認めてくれていたのはクレストくんだけだった。だから……あたしは、君にだけは心を許すことができたの」


 フラメルが優しげな微笑を浮かべた。


「それに今の君は、前よりもっと優しくて……あたしは、もっと君に……」


 そこまで言って、彼女は不安そうに僕を見る。


「君も、あたしに心を許してくれてるのかな? それとも――やっぱり、あたしのこと、信用できない?」


 出立の前、僕が彼女を疑い、僕らの間に壁ができてしまったことを思い返す。


「僕は――」


 言葉が出てこない。


 彼女を信じたい気持ちはある。


 けれど、前世で父や兄姉に裏切られ、処刑された心の傷は深かった。


 人を信じることへの恐怖が、どうしても僕をためらわせる。


「僕……は……」


 答えに窮していると、救護所の入り口から声がかかった。


「クレスト殿下、ここにいらっしゃいましたか」


 と、伝令兵がやってくる。


「ドルファ将軍がお呼びです。お越しいただいてもよろしいでしょうか?」

「……分かった。すぐに行く」


 僕は伝令兵に返事をすると、フラメルに向き直って一礼した。


「僕はもう行きます。姉上も、どうかご無理はなさらずに」

「……ありがとう」


 フラメルが僕に微笑みかける。


 その笑顔を、僕はまっすぐに見ることができなかった。




 司令官室。


 僕とドルファは大きな地図を挟んで向き合っていた。


 これから始まるであろう【烈火】のウェインガイルとの決戦に備えて、二人だけで軍議中だ。


「奴の炎は並の魔術師のそれとはケタが違います。この要塞に備え付けられた魔法防御装備も全く歯が立たず……」


 ドルファが苦々しい表情で説明した。


「今までどれだけの兵が焼き尽くされたことか……」

「炎に関しては僕がなんとかする」


 僕がドルファに言った。


「殿下がお一人で……!?」

「僕は同じ六神将の【雷光】のテスタロッサの雷撃も封じている。ウェインガイルに関しても一人で対処できると思う」


 驚くドルファに説明する僕。


「ウェインガイル以外の敵兵士たちの強さや練度はどうだ?」

「非常に高いです。六神将の直属部隊だけあって、王国軍の中でも精鋭中の精鋭がそろっているようですね」


 と、ドルファ。


「とはいえ、やはり怖いのはウェインガイル――奴さえ押さえれば、こちらの兵力でレイガルド要塞を守り切ることは十分に可能かと」

「なら、話は簡単だ」


 僕は地図の上で二つの点を指し示した。


「僕がウェインガイルを押さえる。残りの兵は将軍――あなたが兵を率いて撃退する」

「……単純極まりない作戦ですな」


 ドルファがニヤリと笑った。


「不服か?」

「いえ、気に入りました。望むところです」


 ドルファの目が力強い光を宿す。


「作戦が単純であればあるほど、兵の実力勝負になるでしょう。我が帝国の兵は王国の精鋭にも勝ることを証明いたします」

「心強いよ、将軍」


 僕も微笑み交じりにうなずいた。


 この老将となら六神将が率いる精鋭軍が相手でも十分に乗り越えられる。


 そう確信できた。

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