20 忠誠の炎(ウェインガイル視点)
その後、ウェインガイルはお尋ね者になった。
貴族殺しの罪人として、王国から幾度となく追っ手が差し向けられた。
そのことごとくを――ウェインガイルは返り討ちにした。
いかなる兵士も、騎士も、魔術師も、彼の前に燃やし尽くされた。
そんなある日――。
いつものように追っ手の騎士団を灰に変えた彼の前に、一人の男が悠然と現れた。
「見事だ。王国中を探しても、これほどの炎の使い手はいないだろう」
男は供も連れず、たった一人でそこに立っていた。
「お前は……!」
その顔をウェインガイルは知っていた。
彼こそ、このメルディア王国の頂点に立つ者――国王その人だった。
「――王自らが、この俺に何の用だ」
ウェインガイルは王をにらんだ。
「それとも影武者か?」
「お前ほどの逸材に会うために影武者などよこすものか。余はまぎれもなく、この国の王である」
告げる国王。
「俺に……会いに来ただと?」
「左様。お前を我が元に迎え入れたくてな」
王は平然と告げる。
「罪人の俺をか?」
「お前の力は素晴らしい。その力は追っ手と戦うためではなく、この国をよくするために使ってほしい」
ウェインガイルの問いに王が答えた。
「余はこの国に巣食う『悪』を根こそぎ焼き尽くしたい。お前はそのための炎となれ」
「悪を焼き尽くす炎――」
「余はこの国を導くものとして、常に『正しい場所』におらねばならん。だが『悪』を討つためには、時としてそこから外れる必要がある。お前にはその役目を委ねたい」
つまり、王の代わりに汚れ役をやれ、ということだ。
「俺の役目は暗殺か?」
「それもある。だが、それだけではない」
王が告げる。
「おそらく、ここ数年のうちにヴァールハイト帝国との大規模な戦争が始まるだろう。その際には。お前を軍の大幹部として迎える。お前の炎で帝国を焼き尽くせ」
「俺が――」
ウェインガイルは驚いた。
「余の調べによると……お前は貴族の遊び半分で故郷を焼かれ、その復讐を果たした、とある。間違いはないか?」
「……ああ」
「ならば、その復讐は正当なものであると認めよう。お前の罪は不問とする――余の力でな。代わりに余の元へ来てほしい」
「取り引きか」
「いや、判断するのはお前だ。仮にお前が余の元へ来ないという判断を下したとしても、お前の罪自体は不問とする」
王が微笑む。
対するウェインガイルはまだ疑心にかられていた。
「……俺に利益しかないように思えるが」
「この国には多くの悪がはびこっている。お前はその一つを滅したのだ。咎めはせぬ」
王がため息をついた。
「面白半分に貧しい者を傷つける者。汚職で私腹を肥やす者。悪意。嘲笑。憎悪……この国はまだまだ『悪』がはびこっている。余はそれを一掃し、平和な王国を築きたい」
「……俺にそのための力になれ、と?」
「そうだ。余が求めるのは部下ではない。同志だ」
その言葉に、ウェインガイルはハッとなった。
その瞬間、雷光に貫かれたような錯覚さえ感じた。
これだ、と思った。
俺は、この人を求めていたのだ。
自分の力を認め、自分の力をよりよく使い、自分を導いてくれる存在――。
「国王陛下」
ウェインガイルは気が付けば、彼の足元に跪いていた。
自然と、忠誠心が芽生えていた。
「私のような凡骨に対し、身に余るお言葉。どうか……どうか、この私をあなた様の炎として使ってくださいませ」
「――うむ。顔を上げよ、同志ウェインガイル」
言われた通り顔を上げると、王は満面の笑みを浮かべていた。
心からの笑顔だった。
「今よりお前を余の腹心――六神将の一人、【烈火】のウェインガイルとして任命する。余についてくるが良い」
この日から――ウェインガイルは王の手足となり、国のために戦うことになった。
その先に、妹のような犠牲者が出なくて済む、平和で幸せな国が実現すると信じて。
それから三年の月日が流れ、ウェインガイルはここにいる。
「俺は陛下とともに戦い、平和な王国を実現するための炎――それを阻む敵は、全て焼き尽くすのみ」
大きく息を吐き出し、彼は夜空を見上げた。
そこに今は亡き妹の顔が見えた。
八年前と変わらず、兄を慈しむような笑みを浮かべた可愛らしい顔だった。
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