2 魔眼の黒騎士に転生
僕は目を覚ました。
ひんやりとした石の感触が背中に伝わってくる。
「ここは……?」
ゆっくりと体を起こし、周囲を見回す。
薄暗い石造りの部屋だった。
処刑台にいたはずなのに、なぜこんな場所にいるのか?
そもそも首を刎ねられて死んだはずなのに、なぜ僕は生きているのか?
混乱したままの僕は、壁際に鏡がかかっていることに気づいた。
首……つながってるよな?
僕は首の辺りをさすりながら、それを確認したくて鏡を見る。
――鏡に映っているのは、僕とは似ても似つかない別人だった。
「誰だ、いったい――」
金色の髪に赤い瞳をした美貌の少年。
年齢は僕と同じくらいだろうか。
身に付けているのも、さっきまでの囚人服じゃなく、黒い騎士服だった。
「えっ、もしかしてこの顔って――」
そこで僕は気が付いた。
僕が王子として生きていたメルディア王国。その最大の敵対国であるヴァールハイト帝国の英雄。
第三皇子にして【黒騎士】の異名を持つ、最強の剣士。
僕と同じ十五歳の少年――クレスト・ヴァールハイト。
「そうだ、この顔はクレスト皇子そっくりだ……!」
いや、クレストそのものだろう。
一体、何が起こっているんだ――。
ますます混乱していると、突然、脳内に直接膨大な情報がなだれ込んできた。
『転生処理を終了しました』
『スキルの覚醒が終了しました』
『【鑑定の魔眼】が使用可能になりました。対象のステータス、スキル、その他すべての情報を鑑定することができます』
『【石化の魔眼】が使用可能になりました。視線を合わせた対象の肉体を石に変えることができます』
『【毒殺の魔眼】が使用可能になりました。視線を合わせた対象の体内に致死の猛毒を発生させることができます』
『【呪怨の魔眼】が使用可能になりました。視線を合わせた対象に精神を破壊する恐怖と苦痛の幻覚を見せることができます』
『【吸収の魔眼】が使用可能になりました。視界内に存在する魔力を吸収し、自身の力として変換することができます』
次々と頭の中に響く、無機質な声。
鑑定、石化、毒殺、呪怨、そして吸収……。
どれもこれもが『超越級』といっていいレベルの異能だ。
以前の【魔眼】は、ただ人の感情が色で見えるだけの力だった。
兄姉たちに『不吉の象徴』と蔑まれ、父王に疎まれた力。
けれど、この声の説明が正しいとしたら――今までの【魔眼】とは完全に次元が違う。
「僕にこんな力が宿った――いや、目覚めたっていうのか?」
周囲を見回す。
『【吸収の魔眼】の常時発動を開始します。大気中の魔力を一定量、常に吸収して術者の魔力に上乗せされます』
また声が響く。
同時に、
ごうっ……!
体内から力が吹き上がってきた。
「これは――」
魔力だ。
僕の魔力が底上げされていくのを感じる。
といっても、もともとの魔力がほとんどないから、上乗せされても微々たるものだろう。
ただ、この効果がずっと続くようなら、僕はいずれ強大な魔力を身に付けられるかもしれない。
「少なくも【吸収の魔眼】の効果は本物みたいだな」
ならば、他の【魔眼】はどうだろう。
仮にすべての【魔眼】が『声』の言う通りの効果を持っているとしたら――。
「最強だ……」
超絶剣技を備えた【黒騎士】に、さらに万能ともいえる【魔眼】が加わるのだ。
最強にして無敵としか言いようがない。
もう、誰にも虐げられることはない。
もう、誰にも蔑まれることはない。
理不尽に殺された無力な王子アレスはもういない。
今ここにいるのは、クレスト・ヴァールハイト。
最強の力を手に入れた、復讐の黒騎士だ。
「見ていろ……僕はもっと力を手に入れる……」
脳裏に、僕を裏切った者たちの顔が次々と浮かんでくる。
僕の【魔眼】を忌み嫌い、嫉妬し、処刑台へと追いやった父王、兄や姉たち。
そして、僕の無様な死を娯楽として楽しんでいた、愚かな民衆たち。
「そして――僕を裏切った家族、僕を蔑んだ全ての人間に、この力で絶望を与えてやろう」
高揚感がゆっくりと引いていく。
同時に、新たな疑問が生じた。
「僕はなぜクレストに生まれ変わったんだ……?」
あらためて石室を注意深く観察する。
壁、床、天井……。その全面にびっしりと複雑な紋様が刻まれていた。
それは、極めて高度で難解な魔法式だった。
僕の乏しい魔法知識では、その式のほとんどを解読することはできない。
ただ――自分の身に起きたこの現象と、断片的に読み取れる式の意味から、僕は一つの仮説を導き出した。
「もしかして、これって……転生用の魔法式なのか?」
僕は処刑され、そして敵国の王子であるクレストとして転生した。
そこまでは、事実として受け入れている。
では、『なぜ』そんな奇跡が起きたのか?
この魔法式が自然に発動したとは、到底思えない。
この転生は誰かが意図的に仕組んだものだということになる。
『誰が』『なんのために』僕をクレストとして生まれ変わらせたのか。
その理由については、皆目見当もつかない。
すべては――謎のままだ。
「まあ、いい。謎はいずれ明らかになるだろう」
僕は思考を打ち切った。
どんな謎があろうと、僕がやるべきことは一つだけだ。
「まずは外に出る。そして新たな人生を始めよう」
僕は石室の唯一の出口である、重厚な扉に手をかけた。
扉が開いていき、隙間から光が差し込んでくる。
それは――。
復讐に彩られるであろう新たな人生を、祝福するような光だった。
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