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18 【烈火】のウェインガイル(ウェインガイル視点)

 SIDE ウェインガイル



 夜――。


 闇に包まれたメルディア王国軍の野営地を、巨大なかがり火が赤く照らしている。


 その中心で、巨大な篝火がごうごうと音を立てて燃え盛っている。


 メルディア六神将の一人、【烈火】のウェインガイル・ザウは揺らめく炎を見つめていた。


 燃えるような赤い髪が、炎の光を浴びてさらに色を濃くする。


 野性的な雰囲気をまとった美貌の青年だ。


 その顔の一部には痛々しい火傷の痕があった。


「炎は俺のすべてを奪い、同時に新しい俺を与えてくれた――【烈火】のウェインガイルとはよく言ったものよ」


 誰に言うでもなく、ウェインガイルはつぶやいた。


「ウェインガイル様」


 一人の少女がかたわらに歩み寄る。


 彼の副官を務めるローディ・フルードだ。


 十代後半ながら、何十年も軍人をやっているような落ち着いたたたずまい。


 艶のある黒髪を短くまとめ、理知的な美貌に眼鏡がよく似合っている。


 その魔法能力を見込まれ、異例の若さでウェインガイルの副官に抜擢された逸材だ。


「レイガルドへの総攻撃は予定通りにおこなうつもりですか?」


 ローディがたずねた。


「伝令によると、帝国側にはあの【黒騎士】と【癒しの聖女】が援軍に来ているとのことですが……」

「問題はない」


 ウェインガイルはこともなげに答えた。


「相手が誰であろうと、この炎ですべてを焼き尽くすまでだ」


 ごうっ!


 彼の言葉に呼応するように、篝火の炎が天高く燃え上がった。


 数百メートル先まで吹き上がった炎が、そこで弾ける。


 さながら花火だった。


 ウェインガイルが持つ魔法能力、【火炎操作】によるものである。


「レイガルドを守る帝国の連中は灰一つ残さず、陛下への供物にしてやる」

「灰一つ残さず……」


 彼の言葉を繰り返すローディ。


 ウェインガイルは彼女の方を向いた。


「不安か、ローディ」

「まさか」


 ローディは微笑み交じりに首を左右に振った。


「あなたの副官に任命されたときから、不安など一度も抱いたことはありません。ただ――」

「今回の相手は帝国最強の【黒騎士】……今までとは違う、と言いたいのだろう?」


 ウェインガイルが微笑み返す。


「……【雷光】のテスタロッサ様が討たれたという話ですから」


 ローディは真剣な顔に戻ってうなずいた。


「テスタロッサは行方不明……ということだったな」


 つぶやくウェインガイル。


「魔力の反応が消えたため、死体も残さずに消されたか、あるいは封印でもされているのか。どちらにせよ、奴が敗北したのは間違いあるまい」

「【黒騎士】は侮れぬ相手かと存じます」


 確かに、六神将の一角が敗れたという事実は決して軽くない。


「テスタロッサは弱いから死んだ。それだけのことだ。俺は死なん」


 ウェインガイルは断言する。


「そしてお前もな」

「……あなたを信じています、ウェインガイル様」


 ローディが彼を見つめる。


 その瞳には、単なる副官が上官に向ける以上の、熱のこもった感情が浮かんでいた。


 ウェインガイルにとっても、彼女はただの部下ではなかった。


 ローディの姿に、とうの昔に失った妹の顔が重なることがある。


 だからこそ、守りたいと強く思う。


「そろそろ下がって休め。明日に備えておけ」

「はい。ウェインガイル様も、どうか……」


 ローディが静かに一礼し、その場を去っていく。


 ふたたび一人になったウェインガイルは、燃え盛るかがり火へと視線を戻した。


 揺らめく炎の向こうに、今まで自分が過ごしてきた日々が浮かび上がる。


 決して忘れることのできない過去が――。




 ウェインガイルはメルディア王国の貧民街で生を受けた。


 物心ついたころには両親はおらず、幼い妹と二人、ただ必死にその日を生き抜いてきた。


 そんなある日、事件は起きた。


 通りがかった貴族の放蕩息子が、ウェインガイルたちの住む一画に、戯れで炎の魔法を放ったのだ。


 周囲は、阿鼻叫喚の地獄となった。


 何人もの人間が、なすすべもなく業火に焼かれていく。


「あははははは! 面白いなぁ!」


 その中心で、貴族の少年はただ笑っていた。


「お前ら貧乏人はせいぜい俺を楽しませるために生きるんだな! あ……もう死んじまうか、はははは!」


 魔法という圧倒的な力に酔いしれる――貴族に、しばしば見られる兆候だ。


 魔法の力を持たない貧民街の住人に、彼を止める手段などなかった。


 そして――ウェインガイルと、彼の幼い妹も炎に焼かれた。


「ぐああああああ……っ」

「熱い……熱いよぉ、お兄ちゃん……」


 のたうち回る兄妹の苦悶の表情を、少年は腹を抱えて笑いながら見ていた。


 その醜悪な笑顔は、今も脳裏に焼き付いて離れない。


 ひとしきり炎を操る遊びに満足したのか、少年は鼻歌まじりに去っていった。


 結局、その事件はおざなりな捜査しかされず――あるいは、少年の親である貴族が裏で手を回したのか――事件が公になることはなかった。


 だが、ウェインガイルはこの事件でただ一人生き残った。


 あれほどの炎に全身を包まれたというのに、不思議なことに顔の一部に火傷を負っただけで、命に別状はなかったのだ。


 それは――彼の内に眠っていた火炎魔法の力が目覚め始めていた影響だった。


 ウェインガイルの力は、単に炎を生み出すだけではない。


 あらゆる炎を意のままに操る【火炎操作】。


 妹を奪われ、すべてを失ったウェインガイルは復讐のためだけにこの力を磨いた。


 教えてくれる師などいない。


 独学で、ただひたすらに修行を続けた。


 やがて――五年という月日が流れた。


 十七歳になったウェインガイルは、王国でも指折りの強大な火炎魔法を操る魔術師へと成長した。


 復讐の時が、来た。

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敵国で最強の黒騎士皇子に転生した僕は、美しい姉皇女に溺愛され、五種の魔眼で戦場を無双する。


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