17 要塞都市レイガルド防衛戦2
僕は矢の雨をかいくぐり、あるいは斬り散らしながら、敵陣へと突っこんでいく。
いくら剣技無双の【黒騎士】といえども、千人の兵士を全員斬り捨てるのは無理だろう。
だから――狙うは敵の指揮官。
そこを討ち、最速で敵部隊を崩壊させる。
「ええい! 魔法部隊、奴を灰にしてやれ!」
そんな僕の狙いを悟ったのか、敵の指揮官は青ざめた顔で号令した。
後列に控えていた魔術師たちが一斉に杖を掲げる。
――来るか。
矢と違い、魔法攻撃は剣で『斬り払う』ことはできない。
対処方法は『避ける』か、あるいは――。
ごおおおおっ!
次の瞬間、三十近い火球が弧を描き、四方から僕に殺到した。
避けられない。
火球群の軌道を見極め、僕は瞬時に判断する。
直撃を避けたところで、火球が地面に着弾すれば、その爆風や衝撃波で僕は吹き飛ばされるだろう。
つまり、対象方法は一つだけ。
――【吸収の魔眼】。
僕は迫りくる火球の群れを見据えた。
僕の瞳が、かすかに赤い光を帯びる。
しゅんっ。
すべての火球は一瞬にして単なる魔力エネルギーへと変換され、霧散し、僕の体へと静かに吸い込まれていく。
僕は魔術師ではないから、吸収した魔力を攻撃魔法のように直接活用することはできない。
けれど、こうして『魔法防御』として使うことはできる。
僕の【魔眼】の前では、あらゆる魔法攻撃は無意味だった。
「馬鹿な!? 魔法が消えた!?」
「何が起きた! 防御魔法の一種か!?」
「い、いや、魔力が発動した形跡はどこにもない……いったい何が……」
指揮官と魔術師たちがいっせいにうろたえる。
その一瞬の隙を、僕は見逃さない。
射程距離まで近づいたところで、【石化の魔眼】を発動する。
【石化】は全ての魔眼の中で一番射程距離が短い。
どうしても他の魔眼を使うときよりも対象に近づく必要があるが、そのぶん威力は絶大だ。
どんっ!
一瞬にして十人の魔術師と指揮官の体が灰色に変色した。
自分たちに何が起こったのかすら理解できていないのだろう。
彼らは先ほどのうろたえた表情のまま、二度と動くことのない石像と化していた。
「ひ、ひいいいいいっ……!?」
統率者と魔法部隊を一瞬で失った兵士たちが恐怖の悲鳴を上げる。
「た、隊長!? 隊長ーっ!」
「い、石になってる……!? なんだ、これは!?」
「わ、悪い夢を見てるのか……!」
指揮系統を失った部隊は、もはや烏合の衆だ。
完全に戦意を喪失し、我先にと逃げ惑い始める。
僕はそれ以上追撃することなく、剣を鞘へと納めた。
目的は、彼らを殲滅することじゃない。
この戦況を覆し、僕の力を示すことだったからだ。
僕は、先ほど飛び降りた城壁を見上げた。
この圧勝劇を目の当たりにした帝国の兵士たちは、ただ呆然と立ち尽くしている。
やがて、誰からともなく歓声が上がった。
「す、すごい……! 勝ったぞ!」
「殿下お一人で一千の部隊を退けてしまった……!」
「これが……これが帝国最強の【黒騎士】様か!」
そう、この反応が欲しかった。
低下していた味方の士気が、一気に向上していくのが分かる。
歓声を浴びながら、僕はふたたび城壁を蹴って軽々とその上へと戻った。
「クレスト殿下!」
「我らが英雄!」
「殿下がいるかぎり、俺たちは負けない」
「うおおおおおお!」
兵士たちが熱烈な歓迎の声を上げ、左右に分かれて僕に道を開けた。
その中心で、ドルファ将軍が進み出た。
彼はその場に膝をつき、深々と頭を下げた。
「……クレスト殿下。先ほどの無礼をお許しいただきたい。皇族というだけで全員をひとくくりにしていた自分の……浅はかな見識を恥じております」
「顔を上げてほしい、将軍。今までの事情からして、あなたが皇族に不信を抱くのも無理はない」
僕は微笑み交じりに言った。
「それに、このレイガルド防衛戦をここまで耐え抜いたのはあなたの功績だ。あなたの部隊が必死に持ちこたえてくれたからこそ、今の勝利がある」
「……もったいなきお言葉」
ドルファは声を震わせながら立ち上がった。
彼が向けてくる視線に、もはや僕への不信感はない。
「けれど、まだ終わりじゃない」
僕は城壁の向こうに広がる荒野を見つめた。
その先にある敵陣を見据える。
「【烈火】のウェインガイル――奴を討ってこそ、レイガルド防衛戦は終結する」
「奴は……奴だけは、今までの敵とは訳が違います。まさに化け物ですぞ」
ドルファが苦々しい表情でつぶやく。
「どれだけの味方が奴に……焼き尽くされ、殺されたことか」
「問題ない」
僕は淡々と告げた。
「奴が化け物なら、僕もまた――」
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