13 皇女フラメルについて(フラメル視点)
SIDE フラメル
フラメル・ヴァールハイトは皇帝の第三妃の娘として生まれた。
彼女は、生まれたときから『不義の子』と言われ続けた。
皇族の誰にもいない緑色の髪がその理由だ。
皇帝も、妃も、ともに金色の髪。
髪色が異なる彼女は、先祖返りだということになっていたが――。
実際には、フラメルの父は皇帝ではなく、別の男なのではないかと、彼女自身ずっと疑っている。
皇族の、他に誰も持っていない治癒魔法の才能も、その推測を補強する。
民衆からは『聖女』と呼ばれることもあるフラメルだが、心の奥にはずっとわだかまりと――母への強い疑念があった。
同時に、憎しみも。
「母上、あなたは皇帝陛下を裏切り、他の男と通じたのではないですか?」
何度母に問いかけようとしたか、分からない。
けれど、それを口にすれば――真実を知ったなら、自分のすべてが崩れ落ちてしまうような気がして、どうしても聞けなかった。
そのうちに母は流行り病で命を落とし、真相は永遠に謎に包まれることになった。
あたしは――一体、何者なんだろう?
本来なら心の拠り所になるはずの兄弟たちは、大なり小なりフラメルを『余所者』として扱った。
自分たちとは血のつながりのない他人――と。
あからさまに態度に表す者もいれば、口には出さないが含みのある態度で接してくる者もいた。
優しい父も、フラメルに対してはどこか壁を作っているような気がした。
あたしの拠り所は――どこにあるんだろう?
フラメルのここまでの人生は、いくつもの自問の繰り返しだった。
やがてメルディア王国との戦争が激化し、彼女は自ら望んで戦場を回るようになった。
彼女の優れた治癒魔法は戦場で重宝され、多くの命を救った。
やがて民衆から『聖女』と呼ばれるようになった。
フラメルにとって、生まれて初めて他者から認められた瞬間だった。
自分の拠り所は、ここにあるのだと思った。
治癒魔法の力で多くの兵を癒やし、活躍していけば、父や兄弟たちも自分を認めてくれるだろうか?
そんな淡い希望は、やがて打ち砕かれる。
フラメルの名声が高まるにつれ、それを疎ましく思う兄弟もいたようだ。
――一年ほど前、フラメルは戦場で味方の魔導砲撃の誤爆に巻き込まれ、大怪我を負った。
体のあちこちに消えない傷や火傷の跡が残った。
後になり、それが兄弟の誰かが仕組んだものだと知った。
フラメルの名声を妬み、誤爆に見せかけて彼女を亡き者にしようと企んだ者がいる――と。
どうやらそれを企んだのは第一皇子のジークハルトのようだったが、確たる証拠をつかむことはできなかった。
フラメルは失意と落胆の中、それでも戦い続けた。
やがて、二つ下の弟である第三皇子クレストと一緒に戦場を回ることが増えていった。
クレストは、まさに英雄だった。
どんな剣士も、彼の前では一刀のもとに斬り捨てられる。
どんな魔術師も、魔法を使う前に一刀のもとに斬り捨てられる。
無敵の【黒騎士】が敵陣を切り開き、フラメルは傷ついた自軍の兵士たちを癒やす。
まさに最強の矛と盾――。
二人の活躍によって、帝国は幾多の戦場で勝利し、攻勢を強めていった。
だが、半年前にクレストは突然姿を消した。
時を同じくして王国は反攻に転じ、英雄を欠いた帝国軍は今までの攻勢が嘘のように敗走を重ねた。
そして――今。
姿を消していたクレストが半年ぶりに戻ってきた。
ただ、彼は以前とは少し変わっていた。
あの攻撃的で獰猛だった性格が、今は別人のように優しく穏やかになっている。
さらに以前にはなかった【魔眼】という力まで手に入れていた。
クレストくん、あなたは一体、何者なの――?
疑念が募る一方、今までにはなかった彼の優しさに触れ、フラメルは自分が癒されていることを感じていた。
フラメルが欲しかった他者からの情――そして、絆。
それが今のクレストとの間には、確かに生じ始めていると感じられたから。
だが、だからこそ知らなければならない。
彼がこの半年間、何をしていたのか。
なぜ姿を消したのか。
なぜ今までとは異なる力を得たのか。
【魔眼】とは、一体なんなのか――?
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