12 自分自身を【鑑定】する
謁見を終えた僕は、帝城の近くにある屋敷の一室にいた。
ここが第四皇子クレスト・ヴァールハイトの私邸である。
僕がメルディアの王子だったころは、爪はじき者として、王都の郊外に小さな家を与えられていただけだった。
それに比べると、国家の英雄であるクレストは待遇がよく、これだけ豪奢な屋敷が与えられているようだった。
だけど――窓の外には、きらびやかな帝都の夜景も僕の心を晴らしてはくれなかった。
謁見の間での出来事が、頭から離れない。
第一皇子ジークハルトが見せた、むき出しの敵意。
第四皇子ゲルダの、腹に一物ありそうな振る舞い。
そして優しい言葉とは裏腹に、底の知れない虚無を瞳に宿す第一皇女レミーゼ。
このヴァールハイト帝国には、皇子が全部で七人、皇女は五人いると聞く。
その中で、心から信用できると思えたのは、今のところフラメルだけだ。
他の人間は――まだよく知らない者が多いが――何を考えているのか分からない。
「ここは、メルディア以上に厄介な宮廷かもしれない……」
僕は一人つぶやいた。
「それにしても――半年か」
ジークハルトの言葉がよみがえる。
僕がアレスとして処刑されてから、クレスト・ヴァールハイトとして目覚めるまでの、空白の半年間。
なぜ、そんなタイムラグが生じたんだろうか。
僕が目覚めたあの薄暗い地下室には、複雑な魔法式がびっしりと刻まれていた。
あれが転生用の術式だとしたら、一体誰が、何のために作ったのか。
「そもそも、どうして僕はクレスト・ヴァールハイトに転生したんだ……? 僕は、一体何者なんだ……」
尽きない疑問に、僕は一つの可能性を試してみることにした。
自分自身に向けて、【鑑定の魔眼】を発動する。
名前:クレスト・ヴァールハイト
真名:アレス・メルディア
体力:特級
魔力:なし
耐久:特級
スキル:剣術(特級)
魔眼【鑑定】
魔眼【石化】
魔眼【毒殺】
魔眼【呪怨】
魔眼【吸収】
転生【祝福】(器の魂の書き換え)
転生【覚醒】(能力の覚醒と進化)
備考:魂の定着率:63%(不安定状態)
「なんだ、これは……!?」
僕は息を飲んだ。
そこに表示された言葉は、僕の身に起きた現象をそのまま示している。
転生【祝福】――器の魂の書き換え。
転生【覚醒】――能力の覚醒と進化。
まず『器』である本来のクレスト・ヴァールハイトの魂が、僕、アレス・メルディアの魂に書き換えられた。
そして、僕が持っていた【魔眼】は、この転生によって覚醒し、強大な複数種のスキルへと進化した。
「だけど、僕に転生なんていうスキルはなかった。やっぱり何者かが意図的に仕組んだことなのか……!?」
だとしたら、どこからどこまでが仕組まれていたというんだ。
僕がアレスとして処刑されたことさえも、その計画の一部だったというのか。
そして、こうして転生した僕は、その黒幕に利用されようとしているのか。
ただの駒として、都合よく使われるために――。
「……ふざけるな」
腹の底から、黒い怒りがこみ上げてきた。
「僕は、僕だ。アレスからクレストに変わっても――僕は、僕のままで在り続ける。誰の駒にもなるつもりはない」
理不尽に殺され、今度は誰かの掌の上で踊らされるなんて冗談じゃない。
「僕自身の意思で生き、僕の意思で運命を切り開いてみせる……!」
もし、僕の自由を阻むというのなら――。
その黒幕が誰であろうと容赦はしない。
「そいつを倒す。必ず、滅ぼしてやる」
決意を込めて、告げる。
――と、そのとき扉がノックされた。
「クレスト殿下、フラメル殿下がお見えです」
扉の向こうから執事の声が聞こえる。
「……分かった。今、行く」
僕は気持ちを切り替えて、階下の応接室へと向かった。
「突然訪ねてきてごめんね、クレストくん」
応接室に入ると、フラメルが僕に頭を下げた。
「いえ、姉上にお会いできて嬉しいです」
僕は自然に微笑んでいた。
この人の前では、不思議と心が安らぐ。
複雑な皇族の中で、唯一、僕が素の自分でいられる相手だった。
「どのようなご用件ですか?」
「うーん、用件っていうほどのことでもないんだけど……。ちょっと心配になったから、来ちゃった」
フラメルは、はにかむように笑う。
「ほら、さっきの謁見の間でいろいろあったでしょ。ジークハルト兄上たちにいろいろ言われて……。クレストくん、気に病んでないかなって」
「僕は、別に――」
言いかけて、言葉に詰まった。
立場が変わり、名前が変わり、他人の人生を歩むことになっても――。
結局、兄姉たちから疎まれ、糾弾される運命は変わらないんだ。
それが少し悲しくもあり、寂しくもあった。
「平気ですよ。慣れていますから」
「よかった」
僕の言葉にフラメルは安堵したような顔になる。
この人は――本当に、ただ僕を心配してわざわざ立ち寄ってくれたんだ。
……いや、違うな。
僕はすぐに自分の考えを訂正する。
「姉上、用事はそれだけじゃありませんよね?」
「えっ」
「姉上が本当に聞きたいのは、この【魔眼】のことですか?」
僕は彼女の考えを先回りして、そう問いかけた。
僕の言葉に、フラメルはハッとしたように表情をこわばらせた。
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