表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/89

11 皇族たちの駆け引き

「よろしいですか、陛下」


 と、一人の少年が進み出た。


 華奢な体に、少女と見まがうような中性的な美貌。


 僕の弟にあたる第四皇子、ゲルダだった。


 年齢は確か十三歳――僕より二つ年下のはずだ。


「俺は、ジークハルト兄上の懸念も一理あると思うのです」


 ゲルダはまっすぐに皇帝を見つめた。


「クレスト兄上の力は、確かに帝国の宝です。ですが、その力はあまりにも強大で、謎が多い。しかも――今回の戦いまで、その力を隠していたように見受けられます」


 ゲルダの視線が僕に向けられる。


「今までのクレスト兄上の戦闘記録に【魔眼】なるものの情報はありませんでした。それが今回、突然そのような力をお使いになった――それは、なぜでしょう?」

「……!」


 僕は思わず言葉を詰まらせた。


 転生前のクレスト――つまり『本来のクレスト』は、超絶の剣士ではあっても【魔眼】のような異能は持っていなかったはずだ。


 帝国側から見れば、『クレストが突然【魔眼】の力を使い始めた』としか見えないのは、当然の話だった。


「それは――」


 どう説明すればいいのか。


【魔眼】の力をそう簡単に他者に見せるべきではなかったのかもしれない。


 ただ、王国兵士や20人の魔術師はともかくとして、さすがに【雷光】のテスタロッサ相手に【魔眼】なしで戦うのは難しかった。


 単純な剣技だけで戦っていたら、もっと苦戦していただろうし、もしかしたら僕の方が殺されていたかもしれない。


 だから【魔眼】をフラメルたちの前で使ったこと自体は仕方がない。


 とはいえ、この事態をどう切り抜けるか――。


 答えに窮する僕を見て、ゲルダは優しげに微笑んだ。


「いえ、理由を問うのは、今はやめておきましょう。スキルの類が突然目覚めるというのは、ごくまれに起こり得ることですから。兄上も、きっとそうなのですよね?」


 これは――僕に逃げ道を作ってくれているのか?


 ただ、ゲルダの目つきは明らかに僕を陥れようとしているように見える。


「……君は、何が言いたい?」


 僕は質問に直接答えず、ゲルダに問いかけた。


「たとえば――『暴走』のような危険はないのかと、俺は危惧しているのです」


 ゲルダはゾッとするような酷薄な笑みを浮かべた。


「万が一、その力が暴走してしまい、敵ではなく味方である俺たちに【魔眼】の力が向けられる……その可能性がないと言い切れますか、兄上? 強大な力ほど、その制御は困難になりますゆえ」

「いいかげんにして、ゲルダくん」


 フラメルが割って入った。


「ジークハルト兄上といい――まるでクレストくんを責め立てているみたいじゃない。彼は帝国の英雄だよ。その功績は誰もが認めるところでしょ」

「もちろん。クレスト兄上は英雄なのです!」


 ゲルダは芝居がかった仕草で両手を広げ、朗々と演説を始めた。


「なればこそ、俺は兄上に万全の状態でいてほしいと願っているのですよ。その偉大なる力に、いかなる不安要素もあってはならない。そうでしょう?」


 言って、僕の方に向き直る。


「どうでしょう、クレスト兄上? 【魔眼】の力について、一度、帝国の魔導研究機関で詳細を調査させていただくというのは。そして、皇帝陛下の御名の下で正しく管理するのです。兄上のご負担を減らすためにも、ね」

「管理――」


 僕はゲルダをまっすぐに見つめた。


 もっともらしい言葉を並べているけど、僕の【魔眼】には彼の心の色の揺らぎが見えていた。


 嫉妬と、支配欲。


 皇帝の名の下に――と言っているけど、実際には彼が僕の力を自分の管理下に置いて、意のままにしたいんじゃないだろうか。


 と、そのときだった。


「ゲルダ、あなたの言うことにも一理ありますが――」


 進み出たのは一人の女性だった。


 波打つ白銀の髪に柔和そうな表情をした美しい女だ。


 年齢は二十過ぎくらいだろうか。


 第一皇女のレミーゼだった。


「今は戦の只中です。しかも、メルディアに攻勢をかけられ、この窮地を救うためにはクレストの力が不可欠でしょう? 彼に余計な負担をかけるのはどうかと思いますよ?」


 言って、レミーゼは僕を見た。


 優しい言葉とは裏腹に、彼女の瞳には何の感情も浮かんでいない。


 虚無――そうとしか言えない、暗い光が宿っていた。


「レミーゼ姉上……」


 ゲルダが不満そうに唇を尖らせる。


「ですが、俺はただ……」

「国を案じてのことでしょう? 分かっています。あなたは優しい子ですものね」


 レミーゼはゲルダに聖母のような微笑みを向けた。


 相変わらず、その瞳は虚無だが。


「ただ、その優しさが時には仇となることもあります。今はクレストを信じて、私たちは見守るべきではありませんか」

「ですが、先ほども申し上げたように、クレスト兄上の力が暴走しないとも限らないでしょう? 俺はそれが心配で――」

「心配は無用ですよ?」


 レミーゼが淡々と告げる。


「その時は、私が『止め』ますから」


 ぞくり――背筋が凍り付くような悪寒を覚えた。


 止める、というのは単に言葉を尽くして、とかそういう意味じゃない。


 もっと別種の――底知れぬ何かが、レミーゼにはある。


 そんな予感がしたのだ。


「……分かりました」


 ゲルダはあっさりと矛を収めた。


 それから僕の方に向き直ると、その場に平伏した。


「愚かな提案をしたこと、お詫びいたします。クレスト兄上」

「立ってくれ、ゲルダ」


 僕はすぐに彼の手を取って、助け起こした。


「君は公平な目で物事を見て、国を案じただけだろう? 僕は君を咎めたりしない」

「ありがとうございます、兄上。本当にお優しい――」


 ゲルダは嬉しそうに笑う。


 が、その瞳はまるで笑っていなかった。


 この国の皇子や皇女は決して一枚岩ではない――短い謁見の中で、それがよく分かった。


 僕は先行きの不安を感じながら、謁見を終えたのだった。

【読んでくださった方へのお願い】

日間ランキングに入るためには初動の★の入り方が非常に重要になります……! そのため、面白かった、続きが読みたい、と感じた方はブックマークや★で応援いただけると嬉しいです……!


ページ下部にある『ポイントを入れて作者を応援しましょう!』のところにある

☆☆☆☆☆をポチっと押すことで

★★★★★になり評価されます!


未評価の方もお気軽に、ぜひよろしくお願いします~!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆評価欄↑をポチっと押して
★★★★★にしていただけると作者への応援となります!


執筆の励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!


▼書籍版2巻がKADOKAWAエンターブレイン様から6/30発売です! 全編書き下ろしとなっておりますので、ぜひ!(画像クリックで公式ページに飛べます)▼



ifc7gdbwfoad8i8e1wlug9akh561_vc1_1d1_1xq_1e3fq.jpg

▼なろう版『死亡ルート確定の悪役貴族』はこちら!▼



▼カクヨム版です(なろう版より先行公開してます)▼

敵国で最強の黒騎士皇子に転生した僕は、美しい姉皇女に溺愛され、五種の魔眼で戦場を無双する。


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ