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10 英雄の帰還

 帝都ヴァールの大通りは、熱狂的な歓声に包まれていた。


「黒騎士様、万歳!」

「我らが英雄、黒騎士クレスト様!」

「【六神将】など何するものぞ! 我らにはクレスト様がいる!」


 空には色とりどりの紙吹雪が舞い、僕たちの凱旋を祝福している。


 その中央を、僕はフラメルと並んで馬を進めていた。


 メルディア王国が誇る最強戦力、【六神将】の一角である【雷光】のテスタロッサを討ち取った――。


 その功績で誰もが僕を『帝国の英雄』と称え、この勝利を心から祝福してくれている。


 けれど、僕の心は重く沈んだままだった。


「僕は結局……ただ、怒りに任せて敵を蹂躙しただけだ」


 誰にも聞こえないよう、小さくつぶやく。


「救えた命よりも、失われた命の方がずっと多い……」


 英雄なんかじゃない。


 もっと早く駆けつけていれば、もっと多くの人を救えたはずだった。


 無力感と後悔が胸の中に渦巻いていた。


「クレストくん、大丈夫? 少し顔色が悪いよ」


 隣を歩く馬の上から、フラメルが心配そうにたずねた。


「……なんでもありません。少し人々の熱気に当てられただけです」


 僕は努めて冷静に答えた。


「無理はしないでね。君が一人で全部抱え込む必要なんてない。あたしが、いるから」


 フラメルが手を伸ばし、僕の手に自分の手を重ねる。


 その温かい感触に心臓の鼓動が小さく跳ねた。


 姉とはいえ、僕の意識の中では出会って間もない可憐な美少女だ。


 肉親として振る舞っていても、肉親としての感覚はない。


 我知らずドキリとしながら、僕はフラメルに微笑を返した。


「……ありがとうございます、姉上」


 同時に、フラメルの花のような笑顔が、沈んでいた僕の気持ちを少しだけ和らげてくれた。




 ヴァール城、謁見の間。


 玉座に座る皇帝陛下の前で、僕はフラメルと並んで戦果の報告を行っていた。


 周囲には他の皇子や皇女、近衛騎士や国の重臣たちがずらりと並び、僕たちのやり取りを見守っていた。


「クレスト、フラメル、大儀であった」


 僕らの報告を聞き終えると、皇帝は穏やかな声で僕たちをねぎらう。


 僕とフラメルは深く一礼した。


「クレスト」


 皇帝が僕に声をかける。


「六神将の一角を討ち取ったこと、見事であったぞ」

「もったいなきお言葉です、陛下」


 僕はふたたび深く頭を垂れた。

 と、


「父上、お言葉ですが――」


 列席していた一人の男が前に進み出た。


 年齢は二十代半ばくらいだろうか。


 燃えるような赤い髪をした、いかにも気の強そうな青年だ。


 この国の第一皇子、ジークハルト。


 僕の兄にあたる男だ。


「こやつの戦果は認めましょう。しかし、その戦い方は誉められたものではないと聞いておりますぞ!」

「ジークハルト、控えよ。今は二人への労いの場だ」


 皇帝が咎めるが、ジークハルトは止まらない。


「いえ、申し上げます! クレストはこたびの戦で、不気味な【魔眼】を使ったとか。太古より【魔眼】は不吉の象徴……かのメルディアにおいても、半年ほど前に【魔眼】を持つ王子が処刑されたと聞いております」

「……!?」


 ジークハルトの言葉に、僕は思わず息を飲んだ。


 半年前だって……!?


 僕が――アレス・メルディアが処刑されてから、すでにそんなに時間が経っていたのか。


 じゃあ、僕がクレスト・ヴァールハイトとして覚醒するまでに、半年のタイムラグがあったっていうことになる。


 僕が『アレス』として死んでから、『クレスト』として転生するまでの空白の半年間――。


 それは何を意味しているのか。


 と、そんな僕の思案を打ち破るように、


「兄上、それは言い過ぎでしょう」


 フラメルがジークハルトに反論した。


 普段の優しい顔立ちが、今は毅然とした表情に変わっている。


「クレストの能力は民を救い、軍を救い、帝国の敵を討ち滅ぼしました。断じて不吉などではありません。我が国の誇りとすべきものです」


 ジークハルトはその言葉を鼻で笑った。


「何が誇りか。それを言うなら――お前の力とて、俺は魔女のごときものと思っておるわ!」

「なっ……!」


 フラメルの白い頬が怒りでさっと赤く染まった。


「あたしの力は母上から受け継いだものです。今のお言葉、いかに兄上とはいえ――」

「皇族の血をひかぬお前を魔女と言うて何が悪い!」


 ジークハルトは、せせら笑うように言った。


 皇族の血を引かない……?

 フラメルは皇帝の実の子じゃないということか?


 不審に思ってフラメルを見ると、彼女は無言でうなだれていた。


 その横顔に浮かぶ悲しげで、寂しげな表情を見て、僕の中で何かが切れた。


 僕を労わり、慰めてくれた優しいフラメル。


 その彼女を傷つける者は、僕が許さない。


「――そこまでです、兄上」


 僕はフラメルの前に出て、ジークハルトをにらみつける。


「私のことを悪く言うのは構いませんが、姉上に対する侮辱は控えていただきたい」

「なんだと? お前ごときがこの俺に意見するか!」


 ジークハルトが怒声を上げた。


 けれど、僕は一歩も引かなかった。


「姉上はその御力で多くの民を救っています。多くの民を癒やしています。ひるがえって――あなたは帝国のために何をされているのですか、兄上?」

「な……に……?」


 ジークハルトの表情が凍り付く。


 僕は目の前の男を【魔眼】で【鑑定】した。




 名前:ジークハルト・ヴァールハイト

 地位:皇子

 体力:並

 魔力:並

 耐久:並

 スキル:剣術(初級)、攻撃魔法(初級)




 他人を【鑑定】したのは初めてだけど、こんなふうな項目で表示されるのか。


 とりあえず、分かったことが一つ。


 ジークハルトは、極めて凡庸な能力しか持っていないということだ。


 かといって、それを謙虚に受け止め、能力以外の部分……たとえば他者への優しさや敬意といった部分を磨こうという気持ちもないのだろう。


 ただ第一皇子という権威をかさに着て、他者を威圧するだけの低劣な俗物――。


 前世で僕を陥れた兄姉たちと、少しも変わらない。


「私や姉上のような軍事面での貢献は皆無。かといって内政面で特段の功績はなく、陛下の顔色をうかがうばかりの日々……そんなあなたが姉上を貶める資格があると思いか?」

「ぐっ……無礼な……」

「無礼を働いたのはあなたです、兄上」


 僕は退かない。


 完全に気圧されたジークハルトは、ぐっと言葉に詰まっている。


「先ほどの言葉を撤回し、姉上に謝罪を」

「ぐ、ぐぐ……」

「――もうよい」


 その場を制したのは、玉座からの重い声だった。


「いい加減にせぬか。余の前であるぞ」

「……はっ」


 僕とフラメル、そしてジークハルトは、一斉に頭を下げる。


「クレストとフラメルは我が国の防衛の要。それを不当に貶めることは、お前と言えども許さんぞ、ジークハルト」

「は、ははっ……! 浅慮でありました。お許しくだされ」


 ジークハルトは、先ほどまでの傲慢な態度が嘘のように素直に謝罪した。


 下の者には強く、皇帝にはとことん弱い……か。


『兄』の姿は、あまりにも見苦しかった。

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