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補遺:レオポルトの懺悔――罪の告白




 この手記が誰かの目に触れる頃、私はすでにこの世を去っているかもしれません。長く胸に秘めてきた罪を、今こそ記しておかねばならない。


 罪を犯した者として、沈黙のまま死ぬことだけは、どうしてもできませんでした。


 今から二十年前、私はある方の依頼を受け、西部で管理していた神経毒を盗み出しました。 その毒は、当時第一皇太子であられたアレクシス=ツー=グラウヴァルト陛下の暗殺に使用されたものです。


 敬愛するその方の名誉を守るため、詳細をここに記すことはできません。


 ですが、この神経毒こそが、私のすべての罪の始まりでした。



 宮廷内務局の捜査の手は、当然ながら西方輸入品の管理責任者であった私にも及びました。その時点で、私は潔く罪を認め、出頭する覚悟をしておりました。


 しかし、ある男に私の所業も、敬愛すべきあの方の正体も、すべて知られてしまったのです。 私はその男の脅迫に屈し、以来、彼の命ずるままに数々の罪を重ねてきました。


 この身に巣食う病が、もはや癒えぬものであると悟った今、 犯した罪への最後の責任として、この手記を残します。


 私を脅迫していた男の名は、コンラート=フォン=レーヴェンタールです。


 捜査の手が私に及びかけたその時、コンラートは私を西部の教会から中央の白衣修道会へと異動させました。表向きは医療技術の向上を目的とした推薦でしたが、実際には、私を帝都の監視下に置きつつ、捜査の網から逃がすための措置だったと、今では理解しています。  


 白衣修道会は貴族を対象とした医療機関であり、私のような者が配属されるには不自然な経緯でしたが、コンラートの影響力の前では、誰も疑問を口にしませんでした。


 異動後まもなく、彼は再び私の前に現れました。  


 「残りの神経毒を渡せ」と。  


 私は拒もうとしました。ですが、彼は私の過去を握っている。敬愛するあの方の名誉も、私自身の命も、彼の手の中にある。  


 私は、残っていた神経毒をすべて彼に渡しました。それが何に使われたのか、私は知りません。ただ、渡した瞬間から、私の手は血に染まったも同然でした。


 私は、何度も逃げようとしました。 しかし、逃げる先には常に彼の影がありました。 そして、ある日、私は決意しました。 コンラートを殺すしかない――そう思ったのです。


 私は足がつかないように、適当な浮浪者に声を掛け、彼が乗る予定だった馬車の車輪に細工を施すよう依頼しました。 事故に見せかけて命を奪うつもりでした。 ですが、その日、馬車に乗ったのは彼ではなく、彼の息子でした。私は、無関係な命を奪ってしまったのです。


 その瞬間から、私は人としての誇りを失いました。 罪を重ね、命を奪い、そして何も守れなかった。 それでも、コンラートの脅迫は終わりませんでした。


 数年後、ローゼンベルク家に嫁いだエリーザ様が、第一子アンネリーゼ様を出産される際、私は医師の到着を遅らせるよう命じられました。

 

 理由は告げられませんでした。


 ただ「そうしろ」と言われただけです。  


 私は、医師の連絡経路に細工を施し、到着を遅らせました。身体の弱かったエリーザ様にとって、医師の立ち合いなしの出産がどれほど危険なことかは承知の上でした。


 結果として、エリーザ様が命を落とすことなりました。あの時のご家族の苦痛の表情が、今も瞼に焼き付いて離れません。


 罪を重ね、命を奪い、そして何も守れなかった。  


 私は後悔しています。  


 心から、謝罪したい。  


 エリーザ様、アンネリーゼ様、ローゼンベルク家の皆様。


 そして何より、あの少年に。  


 私の手が奪った命に、どうか、安らぎが訪れますように。




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