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友だち

 一言声を掛けたら、仲良くなってたのに。コミュ症あるあるなんだろうか。


「また喧嘩になったらやだなって思ってる内に僕が引っ越しちゃった。もっと会う期間が長かったら違ったかなぁ」


 やっぱりなんか、知ってる気がするなその状況。


「どんくらいの間その変な関係が続いたんだ?」

「一ヶ月くらいだったと思う」

「ふーん」


 聞いておいて、俺は気のない返事をする。UFOキャッチャーコーナーの最後にスナック菓子の台があったから、そっちに気を取られたフリをした。


 アームを動かすレバーを適当にガチャガチャ動かしながら、赤いボールを隣で蹴っていたやつの顔を思い出そうとする。

 眼鏡なんかかけてただろうか。こんなに、顔が良かっただろうか。

 俺はそいつの足元しかちゃんと見ていなかったのかもしれない。何も、思い出せなかった。


 アームが空を切るのを見るついでに、ガラスに映った大和に視線を向ける。


「そいつも多分、声掛けたくてもかけられなかったんだろうな」


 分かるのはそれだけだ。きっと、そうだ。


「そうかな? だとしたら、勇気出せば良かった」


 大和は笑って、自分の財布から100円玉を出す。俺が触っていた台でチャリンと音がした。


「蓮君には勇気出して声掛けられて、良かった」

「お前もやっぱ勇気いったんだな」


 俺の体温が残っているレバーを握って、静かに動かす横顔は澄ましていて感情が読みにくい。

 だから初めは嫌われているものだと思っていた。頑張って声を掛けてくれたのに、一度は無視しようとしたことを少し反省する。


 バサっと袋のスナック菓子をゲットした大和は、苦笑して俺の方を見た。


「まず見た目が怖すぎるんだよ。近寄るなオーラもすごいし事務会話も躊躇しちゃう。お礼言う時ですら、わざわざファイルくれる良い人だって分かってるのに……正直ビビってた……」


 それはそうか、と納得した。

 台に映る俺たちは、あまりにもジャンルが違う。

 前髪は長めだけど黒い短髪で、私服も真面目そうな大和。どんな格好してたって派手に見える金髪にピアスの俺。

 どうして一緒にいるんだろうと自分でも思う。

 あまりにもジャンルが違う相手は、どうしたって緊張するものだ。


「そのための、この格好だからな」


 金髪も細い眉もアクセサリーも、全部俺の鎧だ。簡単に突破されたら意味がない。

 ピアスを触って見せる俺に、大和は小さく頷いた。


「うん。でも、蓮君が友だちになってくれて良かった」

「ん?」


 スナック菓子の袋を持ち上げた大和がサラッと紡いだ単語に、思わず聞き返してしまう。言われ慣れない言葉だ。

 大和は袋でパッと口元を隠し、珍しいことに分かりやすく眉を下げた。


「と、友だちだと思ってるんですが……」


 機械音に掻き消されそうなか細い声なのに、ちゃんと耳に届く。

 わざわざ二回も言わせてしまった罪悪感はなく、ぶわりと胸が熱くなる。

 胸だけじゃない。体をめぐる血液が、照れとか喜びとか、こんなとこで恥ずかしいとか、色んな気持ちで沸騰しそうだ。


 俺も何か顔を隠すものが欲しいけど、生憎そんなものは持ち合わせていない。

 仕方がないから、大和の後ろに回って背中を押した。挙動不審もいいとこだったけど、大和は俺を気にしながらも素直に歩き出す。


「……あの……俺も」


 軽く袖を引いて発した声は小さすぎて、騒音に掻き消されていく。

 聞いていたのは、首元まで肌が薄紅に染まった大和だけだろう。

 

 家に帰って風呂から上がると、家族以外には一人しか登録のない連絡用アプリにメッセージが入っていた。


『今日はありがとう、楽しかった』


 シンプルなメッセージを見て、自然と口元がにやけてしまう。まだ水の滴る頭にタオルを掛け、体が濡れているのをそのままにして返信を考える。


『俺も』


 送信してから、これだけじゃあまりにも素っ気なさすぎるだろうかと思い立つ。少しスマホと睨めっこした後、


『また、明日な』


 と付け加えた。すると、すぐにポンっと弄ったことのない短い着信音が鳴った。


『バイトの後ゲームしよう』


 友達っぽいやりとりだ。スマホでこんなの初めてした。

 人と関わるのが苦手で、一人でいるのを自分で選んでるのは嘘じゃない。

 それでも大和とこうしてやりとりするのが楽しくて。人と関わるのも適度なら悪くないなと思った。


お読みいただきありがとうございます!

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